だれよりもしあわせなおうさま

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王様:
樹齢1,000年以上の大きなモミの樹
かつては町の皆に愛された大樹だったが、誰も知る者はいなくなりやがて枯れてきてしまった

渡り鳥:
冬の間だけ王様の枝で一休みをする、冬が開ければまた違う所へ飛び立っていく

人間の子供(男の子):
王様の近くに家が経ち、そこに引越してきた一人ぼっちの泣き虫な男の子


昔々、キミが生まれるよりずっと前のこと。
ある町にとっても大きな、それはそれは立派な大樹がありました。
大樹は町のみんなにとても愛され、クリスマスには町の大人が飾りつけをして、子供達が集まっては幹の周りを走り回っていました。
大樹はモミの木という種類で、その大きな姿から、王様と呼ばれ愛されていました。

やがて、たくさんの月日が流れる間(あいだ)に、町は徐々にさびれ、辺りにはたくさんの木が生え、森が出来ていきました。
そして200年以上たった頃には、とうとう王様を知る人間はいなくなってしまいました。
ひとりぼっちになってしまった王様は、元気がなくなって、だんだんやせていってしまいました。

今では王様を知る者は、渡り鳥しかいません。
渡り鳥は冬の間だけ王様の元(もと)へやってきては、その枝へ腰かけて羽根を休め、春になれば違う所へ飛んでいくのです。

「王様、王様、元気をだして。あなたがいなくなったらボクは冬の間に一体どこで羽根を休めればいいんだい」

渡り鳥は王様を励(はげ)ましてくれますが、王様は、いいや、と枯れて細くなった枝を揺らします。

「お前は冬が終わればまた飛んで行ってしまうだろう。そうなれば、わたしはまたひとりぼっちだ、ああ、さみしい。さみしい」

王様は涙を流すかわりに、かろうじて枝に残っていた葉を落としました。

やがて冬が終わり春がくると、渡り鳥は飛んでいってしまいました。

「王様、また来年必ずここに来るから。だからそれまでは元気でいてね」

「ああ、ありがとう。ありがとう。」

気持ちよさそうに空を飛んでいく渡り鳥を眺めながら、王様は大きくため息をつくように、枝を揺らしました。
王様の心は寂しさでいっぱいです、誰か、いつもそばにいて、話しかけてくれたらなあ、この足が地面に埋まっていなかったらなあ。
そんな事ばかり考えては、さみしい、さみしいと思う毎日でした。

しかしその年の秋の事。
王様は何だか体がむずむずして目を覚ましました。

「リスが遊んでいるのかな?」

ぐぐっと屈んでくすぐったい場所を確かめると、王様の足元で人間の子供が眠っていました。

「どうして、こんなところに人間の子供が……?」

不思議に思いながら、それでも王様はどこか嬉しそうです。
秋といえど風が冷たく、王様は子供が寒くないようにと、めいっぱい枝を下げ風を防いでやりました。

それから数時間もすると子供は目を覚まし、そうっと王様の足元を抜け出して森を出ていきました。
王様は話しかけようか、迷いましたが、それでもただ黙って子供が去っていくのを見つめていました。

「また来てくれないかなあ……」

そう思いながら、王様は夜空を見上げるのでした。

王様の願いのとおり、子供はそれから毎日王様の元へやってきてくれました。
子供はいつもひとりぼっちで、顔が涙でぐしゃぐしゃになっている事もありました。
王様はそのたびに子供を慰めてやろう、と思うのですが、王様の言葉は人間の子供には届きません。
ですから、いつもそうっと足元にやってくる子供を、冷たい風から守ってあげました。

やがて冬がやってきました。
王様の住む町は毎年とてもとても多くの雪が降り積もります。
子供も帽子やマフラー、手袋にもこもこのコートを着て、王様の足元へとやってきていました。

渡り鳥はそんな子供と嬉しそうな王様の様子を見て、これなら自分がいない間も王様が寂しくないだろうと温かな気持ちになりました。
子供は渡り鳥を見つけると少し怖がっていましたが、すぐに仲良しになって王様の足元で一緒にお昼寝をしました。
王様はそんな1人と1匹の体温を感じて、とてもとても心が温かくなりました。

そんなある冬の日の事。
いつもやってくる子供は、今日は夕方になってもやってきません。
「昨日、大雪が降ったせいで家から出られないのかな。」王様はそう思いながらも、なぜか足元ざわざわします。
もしかしたら、あの子になにか、よくないことがおこっているのかもしれない。

その時、渡り鳥が慌てた様子で王様の元へとやってきました。

「王様、王様、あのこの家が大変だ! 雪で埋もれてしまっている!」

人間の子はどうやら王様の近くの家に住んでいたようで、そこはちょうど山のふもと。
雪崩で家が埋まってしまったと言うのです。

「どうしよう、でも、わたしは歩けない」

王様はモミの木ですから、どうしたって動けません。
渡り鳥は夜は暗くて飛ぶ事も出来ず、他に頼れるものはいないのです。

「王様、王様、あの子を助けてあげて」

王様はふと、足元を覗き込みました。
子供は時々、王様の足元に色んな物を置いていくのです。
綺麗な色のキャンディー、どこかで摘んできたお花、子供とその家族が写っている写真、そして、王様を描いた絵。
それを見て、王様はぐぐぐと根に力を込めました。

王様が力を入れれば入れる程、土の中に埋まっていた王様の根が外へと出てきます。
右の根を出すともう片方の左の根も土の上へ出し、そして、どすん、どすんと歩いていったのです。

王様は大きな大きなモミの木ですから、森の中にいてもどの木よりも背が高く、ぐるりと見回すだけですぐに子供の家を見つけられました。
やがて子供の家の前に辿り着き、広い広い左右の枝で優しく雪をはらったのです。

少しずつ見えてくる子供の家、どうやら中の人は無事なようです。
やがて玄関の扉が、がたがたごとんと音を立てて開き、人間が2人出てきました。

「おおい、助かったぞ! 外へでられた!」

「ああ、助かったのね、良かった、本当に良かった」

すぐに2人は家の中へ入り、そして1人の子供を連れてきました。
その子は王様を見て、ぺこりと頭を下げたのです。

子供のお父さんとお母さんも、ぺこりとモミの木へ頭を下げて、ありがとう、ありがとうと言いました。
王様はふるふると枝をふり、でももう土から出てしまったから、そのうちに枯れてしまうだろうと思いました。

しかし子供のお父さんが「ああ、そのままでは根が傷んでしまう、さあおいで、こちらに埋め直してあげよう」と言って地面に掘った穴に王様の根を埋め直しました。

「これからはここで一緒に暮らそう」

お父さんが笑って、お母さんも「そうね、それじゃあ今年のクリスマスは、あなたを飾ってもいいかしら」と言いました。
子供は笑顔で「これから、いつでも一緒だね」と言いました。

王様は嬉しくて嬉しくて、涙を流すかわりにまた枝に残った葉をほろりほろりと落としました。

それからは王様も、人間の子供も、ひとりぼっちでさみしいと泣く事はなくなりました。
冬になれば渡り鳥もやってきて、クリスマスには王様の周りに、皆が集まってお祝いをするようになったのでした

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