すぐ側に

タクヤ:
人の気持ちにも自分の気持ちにも鈍感

アカリ:
タクヤの幼馴染。ほのかな恋心を抱いている


タクヤ「あぁ、そろそろ戻らないと」

昼休憩ももう終わる。食事も終えたし、いつまでも屋上に長居している理由はない。

アカリ「少しだけ待ってくれないかい?」

タクヤ「何?」

アカリ「君に話したいことがあるんだ」

タクヤ「今散々話したじゃないか」

アカリ「それとは別に話がある」

アカリは笑っていなかった。あまりにも真剣な目をしていた。タクヤはチラリと腕時計を見る。多少の遅れは仕方がない。

タクヤ「いいよ、話しても」

アカリ「うん、ありがとう。そうだな……私と君は幼馴染だからクラスメイトからセットで扱われることが多いだろう?」

タクヤはアカリが何を言いたいのかさっぱり分からなかった。その話は散々したはずなのに、今更何を言いたいんだろうか?

アカリ「それでね。私は君と本当のセットになりたいんだよ」

タクヤ「何を言っているのかよく分からないけど、モーニングセットみたいな感じ」

アカリ「まったく違う。そういうセットじゃない」

タクヤ「アカリとセットに扱われるのあまり好きじゃないんだけど」

失礼なタクヤの言葉にアカリは表情を鋭くした。怖い。ホラー映画に出ても違和感ないだろうなぁとタクヤは思った。

アカリ「失礼なこと考えていないかい?」

タクヤ「全然」

アカリから顔を逸らし、タクヤはそううそぶいた。

アカリ「君のせいで話が脱線しそうじゃないか。……とにかく私は君と本当のパートーナーになりたいんだ」

タクヤ「僕とパートナーに? 結局アカリは何が言いたいんだ」

アカリ「……その、つまり私は、君と幼馴染じゃなく、……恋人の関係になりたいんだ」

タクヤ「はっ?」

恋人? 恋人って言ったか今。タクヤは混乱していた。予想もしていなかったアカリの言葉に思考が停止した。

タクヤ「アカリ、な、何を言ってるんだ? 僕をからかうのは止せ」

アカリ「からかってなんかないよ。分かるだろう。他でもない君なら、私が冗談でこんなこと言う人間じゃないことは分かっているはずだ。私は大真面目だよ」

タクヤ「僕たちはそんなんじゃないだろう。僕らはただの幼馴染だ。それ以上でもそれ以下でもない。それ以上の進展なんてあるはずがないだろう? 君が本気で言っていたとしても、僕にはそんな気がない。何も変わらない。今までと一緒だよ」

アカリ「……そうか。悪かった。困らせて。私の独りよがりだったみたいだ。君も私を好いていると思っていた。恥ずかしい勘違いだね。まったく。忘れてくれ。私のちっぽけな感情は。もう何も言わないよ。ごめんね」

タクヤ「謝る必要なんてない。謝らないといけないのは僕のほうだ。君を傷つけた」

アカリ「傷ついてなんかいないよ。ショックではあるけど、恋なんてそんなもんだ。よく言うじゃないか、『初恋は実らない』って」

何も言えなかった。アカリの悲しそうな表情に、何かをこらえるような表情、胸をわしづかみにされたような気持ちになった。タクヤにとってアカリはどうでもいい人間ではない。大切な幼馴染、それは紛れもない事実なのだ。ただアカリを異性として見たことがなかっただけで。そんな関係になるかもしれないなんてこと予想もしていなかっただけで。ずっと一緒にいたけど、何一つ見えちゃいなかった。僕はアカリのことを何一つ分かっていなかった。タクヤは遅まきながら理解した。自分がいかに愚かであったかを。

今までもあったのだろう。気がつかないうちにアカリを傷つけていたことが。知らず知らずに刃を向けていた。大切な幼馴染に。僕は刃を向けていた。

アカリ「引き止めて悪かった。教室に戻ろうか」

タクヤ「う、うん」

アカリの足取りはあまりにも重かった。フラフラと揺れている。今にも倒れてしまいそうなほど、頼りない足取りだ。

いつものアカリらしくない。彼女は常に毅然としていて、頼りになる存在だ。それが今はどうだ。吹けば飛んでしまいそうなほど、弱弱しさに溢れている。僕が彼女の強さを奪ってしまった? タクヤは後悔の念に苛まれていた。

それから数日。アカリはタクヤに話しかけることはなかった。いつも当たり前のように一緒にいた二人。その異変に気づいたクラスメイトたちは、タクヤとアカリをセットで扱うようなことはしなかった。

タクヤは胸にぽっかりと穴が空いたような気がした。当たり前だったのだ。アカリが側にいることが。考えもしなかった。離れ離れになるなんて。

当たり前すぎて気づかなかった。タクヤはずっと胸にあった気持ちに気づいていなかった。あることが当たり前だったから。その気持ちが何なのか、理解しようとしなかった。

――好きだった。僕も。彼女のことが。愚かな僕は気づくことに遅れてしまったけど。でも彼女を傷つけた僕に、アカリを愛する資格などあるのだろうか。自問自答、そんなことに意味などない。もう話すこともないだろう。後悔しても時既に遅し。受け入れなかったのは僕自身だ。

タクヤはそっとアカリを見つめるほかなかった。どうすればいいか分からない。視線が交わる。時が止まった気がした。アカリは微笑んだ。嬉しそうに。

もう迷わない。タクヤは気づけばアカリに駆け寄っていた。まるで磁石のように二人は惹かれあう。

タクヤ「ごめん。好きだ。付き合って欲しい」

アカリ「遅いよバカ」

二人はようやくパートナーになった。