勇者の意志は受け継がれる

勇者:
伝説の剣を装備できない。めちゃくちゃ強い

戦士:
勇者の友。素早さが命

魔法使い:
勇者と恋仲。

魔王:
死闘の末に勇者と絆が芽生えた


勇者「絶対に行かないぞ!」

戦士「そんなわけに行くか! お前自分が勇者だって本当に分かってんのか?」

魔法使い「そうよ。魔王を倒すには勇者の力は必要不可欠なのよ。あなたがいないと話にならないわ」

勇者「そう言われても無理なものは無理なんだよ! 俺には魔王なんて倒せないんだよ絶対に」

戦士「なんでそう頑なに魔王城に行くのを拒むかねぇ。あとちょっとで着くって言うのによ。世界を救いたくないのかよお前」

魔法使い「勇者のあなたに倒せないわけないじゃない。あなた何言ってんの?」

勇者「別に世界を救いたくないわけじゃない。でも俺には魔王を倒すのは無理なんだ。理由があるんだよ、絶対に倒せない理由が」

戦士「どういうことだよ? 勇者、お前が何を言いたいのかさっぱり分からない」

勇者「一週間前にさ、魔王を倒せる唯一の武器【魔王殺し】を手に入れただろ?」

魔法使い「えぇ、あのときは苦労したわ。伝説の剣だけあって、隠し場所が分かりにくいし、トラップも多いし、私たち勇者一行じゃなかったらクリア出来なかったわね」

勇者「問題は伝説の剣にあるんだよ」

魔法使い「どうして?」

勇者「見てもらったほうが早いな」

勇者は荷物の中から伝説の剣を取り出そうとした。その瞬間、強い光が放たれ、勇者の手は弾き飛ばされた。戦士と魔法使いは突然の出来事に開いた口が塞がらない。勇者は特に驚くそぶりも見せず、伝説の剣を取ることを諦めた。

勇者「これで分かっただろ? どういうわけか伝説の剣を装備できないんだよな」

戦士・魔法使い「はぁあああ?!」

勇者「いきなりなんだよ」

戦士「冗談だろ。冗談だよな。冗談だと言ってくれ頼む!」

魔法使い「装備出来ないなんて、そんなわけないじゃない。だってあなた勇者でしょ? 伝説の剣は勇者にしか装備できないのよ? そ、そんなはずは」

勇者は伝説の剣を取った。弾かれた。装備できない。

戦士「本当なのか?」

勇者「残念ながらな。分かっただろ。今魔王城に行くことの無謀さが、俺が倒せないと言ったわけが、よーく分かったはずだ」

魔法使い「じゃあどうするのよ? どうやって魔王を倒すのよ? 【魔王殺し】じゃないと魔王は倒せないのよ」

勇者「そうだな。まずはどうして装備できないのか、それを考える。装備さえ出来れば、勝つ確率は上がる」

戦士「装備できなかったら?」

勇者「そのときは俺一人で魔王を倒す」

魔法使い「な、何を言ってるのよ? 無茶よ!」

勇者「勝ち目のない戦いにお前たちを連れて行くわけにはいかない。安心しろ。倒せはしないだろうが、ただでは死なんさ」

魔法使い「一人で行かせるわけないじゃない! 私たちは仲間でしょ! 一緒に行くわ!」

勇者「仲間だからこそだ。俺が死ねば、新たに勇者が選ばれる。お前たちの役目は新たな勇者に伝説の剣を届けることだ。俺たちの目的は魔王を倒し世界を救うこと。感情論で決めるべきじゃない」

魔法使い「そんな……」

戦士「でもよ。装備できる方法が見つかれば、お前が死ぬ必要もないだろ?」

勇者「そうだな」

魔法使い「そうよね! 考えましょ。三人寄れば文殊の知恵って言うし、何かいい案が思いつくかもしれないわ」

その後、勇者たちはいろいろと案を出し試し続けてみたが、伝説の剣を装備することは出来なかった。気づけば日は暮れ、勇者たちは仕方なく野宿することにした。

その日の夜。

勇者「悪いな」

戦士と魔法使いに書き置きを残し、勇者は単身魔王城に足を運んだ。すべてを終わらせるために。希望を次代に託して。

・・・

魔王「末恐ろしい男だ。【魔王殺し】を持たずして、我をここまで追い詰めるとは」

勇者「……」

魔王は膝を地面につき、疲弊していた。もし勇者が【魔王殺し】を装備していれば、死んでいたかもしれない。魔王にそう思わせるほど勇者は強かった。だが強いだけでは倒せない。魔王とはそういう存在だ。

魔王「勇者よ。我をここまで追い詰めた貴様に敬意を払おう。最後の願い、聞き届けてやるぞ」

勇者「お、れ、をころっせ」

呼吸もままならない状態で、勇者は自らの意思を魔王に示す。魔王は分かっていた。勇者が何を考えているのか。次の勇者に【魔王殺し】を託そうとしていることを。

【魔王殺し】を装備できない勇者を生かしたほうが、脅威を排除できる。分かっていてなお魔王は勇者を殺すことを選んだ。

魔王「さらばだ勇者」

無慈悲な刃が勇者を貫く。

勇者「かんしゃ、する」

魔王は勇者の亡骸を抱え、玉座に降ろした。

魔王「見ているがいい勇者よ。恐らく次が我の最後の戦いになるだろう。貴様が望んだ世界をその場所で」

勇者が死んだ日、女神は次の勇者を選んだ。次代の勇者は先代の死を知り、声を出さずに静かに涙を零した。

夜明けを背に新たな勇者が魔王の眼前に現れる。

勇者「許さない絶対に。あなたは私の手で倒す。覚悟しなさい」

勇者の背後から戦士が弾丸のような勢いで魔王に切り込む。先代の勇者との戦いの傷が癒えていない魔王は避けることが出来なかった。

魔王「ぐぅっ!」

勇者「食らえー!」

勇者の振り下ろした【魔王殺し】が、魔王の体を切り裂いた。魔力がほぼ空っぽの魔王は回復することも出来ない。

魔王はかすかに笑った。

魔王「見事なり。貴様が導いた勝利だ、誇るがいい」

その言葉は眼前にいる勇者にではなく、背後にいる亡骸に向けられていた。

魔王「貴様らの勝ちだ」

場を静寂が包み込む。魔王の体は塵となって消えた。人類は勝利したのだ。

勇者「勝ったよ勇者。私、勝ったよ」

勇者――かつて魔法使いと呼ばれた少女は泣き喚く。愛した男を思い、少女は泣いた。

戦士「行こう」

勇者「えぇ、そうね」

魔王と戦った部屋を出ようとしたとき、二人は振り向いた。

戦士「今?」

勇者「確かに聞こえたわ、勇者の声が」

玉座に座る亡骸が微笑んだように二人には見えた。錯覚だったのかもしれない。それで十分だった。

数年後。

魔法使いジュニア「ママー、お腹空いたー」

魔法使い「はいはい、今作るから待っててね」

先代の勇者の血は受け継がれる。意志と共に。