優しい人々

ヨシコおばあちゃん:
孫思いのおばあちゃん

ユミ:
ヨシコの孫

ケイコ:
ユミの親友

ケイスケ:
ケイコのいとこ

おじいさん:
ケイスケ家の近所に住む一人暮らしのおじいさん

キヨシの子供:
おじいさんの囲碁仲間、キヨシの子供

サトル:
キヨシの子供と同じ病院に入院していたことがある

悪魔:
ツボに宿る悪魔


ヨシコおばあちゃん「あら、こんなところにツボなんてあったかしら? 随分古びたツボねぇ。死んだおじいさんが買ってたのかしらね。まぁ、いいわ。さっさと物置の掃除済ませなくちゃ」

悪魔「ゲホゲホッ。埃っぽいなぁ。まぁ、いい。おい貴様か。俺を呼んだのは? さっさと願いを言え」

ヨシコおばあちゃん「おや、まぁ、どこから入ってきたんだい?」

悪魔「俺はこのツボに宿る、人間の世界の言葉で言えば悪魔みたいなものだ。俺を呼び出したからには一つだけ願いを叶えてやるよ。それが決まりなんだしよ」

ヨシコおばあちゃん「悪魔だって? こりゃまあたまげた。おじいさんも物騒なものを買ったものだわねぇ、まったく」

悪魔「何ブツブツ言ってんだよ。早く願いを言えよ」

ヨシコおばあちゃん「そうねぇ……私はもう十分生きたからね。特に望むことなんてないわ。そうだ私はもういいから、今年中学になる孫のユミの願いを叶えてやって。年頃だし叶えたい夢もあると思うわ」

悪魔「なんだそれ? そんなこと言われたの初めてだ。欲がないやつだな。ユミってやつのところに行けばいいんだな?」

・・・

悪魔「――というわけで貴様の願いを叶えてやろう」

ユミ「悪魔なんて実際にいるのねぇ。びっくりしちゃった。それにしてもおじいちゃんったら、すごいものを買ったのね」

悪魔「ほら、何だ願いは? 一つだけ叶えてやるって言ってんだぞ」

ユミ「うーん。洋服も欲しいし、おいしいものも食べたいし、旅行だって行きたいけど、でもそんなものは自分で買えばいいし、私は今幸せだから願いなんてないわ。それよりも私の友達のケイコちゃんの願いを叶えてあげて。ケイコちゃんはお父さんを早くに亡くして、お母さんと二人、苦労してきたみたいだから」

・・・

ケイコ「ふーん。悪魔ってホントにいたんだ! でも私には優しいお母さんもいるし、ユミちゃんっていう親友もいるし、望むことなんてないわ」

悪魔「貴様もか! で、どうしろって言うんだ!」

ケイコ「あっ、そうだ! いとこのお兄ちゃんがもうすぐ結婚するんだ。だからお兄ちゃんの願いを叶えてあげよ。お兄ちゃんには幸せになって欲しいし」

・・・

悪魔「お前なら願いの何か一つや二つあるだろう? なんか言ってくれよ」

ケイスケ「あるわけねえだろ。俺はもうすぐ結婚するし、今は幸せでいっぱいなんだぞ。これ以上何を望むって言うんだよ」

悪魔「何か願いを言ってくれないと困るんだよ。でないと俺、ツボに戻ることも出来やしねぇ。とにかく何でもいいから願いを言ってくれよ」

ケイスケ「そう言われてもなぁ。ないものはないんだ。どうしてもって言うなら、この家の三軒隣に一人暮らしのおじいさんがいるから、そのおじいさんの願いでも叶えてあげてくれ」

・・・

おじいさん「わしゃあなあ、一人暮らしで寂しそうに見えるかもしれんが、これはこれで気楽でいいもんじゃ。それに食べるものには困らないくらいのたくわえもあるし、何も望むことはないのぉ。おお、そうじゃそうじゃ、わしの囲碁仲間のキヨシさんの子供が幼い頃、不幸にも大病を患ってそれ以来ずっと車椅子生活を余儀なくされているって言ってたのぉ。じゃったらキヨシさんとこのお子さんの願いを叶えてやってくれんかのぉ」

悪魔「へぇへぇ。分かりましたよ……」

・・・

キヨシの子供「うわ! マジで悪魔っているんだぁ、すげえや! 悪魔だったら僕の足治せるよね。だったら治してもらおうかな。って言いたいところだけど、今僕車椅子バスケで頑張っているところだし、足だってリハビリすればいつか治るかもしれないんだ。だから僕の願いはいいや。それより前に同じ病院で入院してたサトル君の願いを叶えてあげてよ。サトル君重い病気なんだって言ってた今頃どうしてるかなぁ」

・・・

サトル「……」

悪魔「おい、貴様の願いを叶えてやるぞ」

サトル「……君は誰?」

悪魔「俺は悪魔だ」

サトル「ごめん。僕、耳が聞こえないから何言ってるか分かんないや」

悪魔「……なんだと。貴様、耳が聞こえないのかよ。って言ってもこの声も聞こえないってわけか。どうすればいいんだ。筆談? イヤ俺はこの世界の言葉なんて書けねえ。く、くそぉ、このままじゃいつまで経ってもツボに戻れねえじゃねえか。この世界の言葉を書けるように勉強してくるか? いや、そんなのいつまでかかるか分かんねぇ。とにかく俺はツボに戻ってゆっくりしたいんだよ。おいサトル、聞いているか。いや、聞こえなくてももういい。とにかく貴様の耳は大サービスで治してやる。それから改めて願いを一つ言ってもらうとするか」

サトル「あ、あれ? 耳が聞こえる、聞こえるよぉ! もしかして悪魔さんが治してくれたの?」

悪魔「まぁ、貴様の耳が聞こえんことにはどうにもならんからな。さぁ、改めて願いを言え。本当は願いは一つだけなんだが、今回だけはサービスしてやるよ」

サトル「悪魔さんありがとう。でも耳が治ったんだから、これ以上望むことなんてないや」

悪魔「おい! もういい加減にしてくれよ。俺は誰かの願いを叶えないとツボに戻れないんだよ。ここの空気は俺の性にあわねえ」

サトル「そうだったの。それは大変だねぇ。分かったよ。僕願い事を言うよ。世界中のみんなを幸せにしてあげて!」

悪魔「みんなを幸せに? そんなのやったことねえぞ。どうすりゃいいんだ? 困ったなぁ」

こうして悪魔は世界中のみんなを幸せにするため、一年に一度十二月二十五日に枕元に現れるようになったんだ。サタン、いやサンタとしてね。