派遣「魔王」と派遣「勇者」

魔王:
上級魔族の組織から人間界を苦しめて来い言われて派遣されたただの中級魔族でおり、本来は魔王になる気はなかった。

勇者:
実は特にやりたい事は無かったそこらへんにいる冒険者。冒険家の組合で仕事を探していたら魔物討伐の話を紹介され、応募したら実は魔王を倒すという大変な役割を与えられてしまった。


魔王「フハハハ! よく来たな! 勇者よ!」

勇者「魔王! この国での専横(せんおう)もここまでだ!」

魔族達の親玉である魔王と人類の希望である勇者との最終決戦、この熱い展開は王道でありながらも多くの人を惹きつける展開である。

しかし…

魔王「待て…お前勇者じゃないだろう? この国で勇者はまだ正式な奴はいないはずだからな。」

勇者「当たり前だよ、俺は派遣された勇者だもの。」

魔王「派遣だと?」

派遣、つまりはどこかの組織から送られてきたただの一般人と変わらないのである。

魔王「人類はふざけているのか? 勇者を派遣扱いとはバカにしているにもほどがあるだろう…」

勇者「仕方ないだろう。俺の雇い主の組合(派遣会社)が魔王が現れたから誰かを派遣して欲しいって派遣先(王様)から言われてたんだよ…」

魔王「魔王が暴れている? こっちだってつい最近、派遣されて魔王になったばかりだぞ? まだ魔王として覚える事が多すぎて目立った事もしていないぞ?」

どうやら魔王も勇者と同じく正式な魔王ではなかったようだ。

勇者「何だそりゃ? 魔王でも正社員とかあるのか?」

魔王「それが今までは魔王を自称しても実力さえあればよかったらしい。だが、最近じゃロクに仕事ができない、周りへのコミュニケーション能力も無い、挙句には敵である勇者と恋に落ちる奴まで出てな…」

勇者「魔王にもゆとりの波が来てたのか…」

魔王「だが魔王である以上はコストがかかる。そのため、上級魔族の取り決めによって魔王を成果で決める事になった。そして選ばれた私は派遣として、この国の担当魔王となったのだ。」

勇者「おいおい、魔族こそふざけているのか? 魔王候補を選んで国ごとに派遣で担当させるって聞いたことが無いぞ?」

魔王「私も魔王は興味なかったんだが最近魔族も不景気でな…未経験でも出来るという上級魔族の運営する組織に登録したのだ…」

いつの間にか戦う雰囲気はどこへやら…すっかりとお互いに同じ立場である事がわかり、戦いの手は完全に止まってしまっていた。

魔王「一応活動が認められれば正式な魔王になれるらしいが…3年以上も実績がありながら正式な魔王になれてない奴もいるからな…本音を言えば正式な魔王なんてなれないのでは? と感じている。」

勇者「3年間まともに活動してもなれないって…正式な魔王ってそんなに良いのか?」

魔王「うむ、正式な魔王に慣れれば魔族全員が好待遇でもてなさないといけないし、簡単には解任できないからな。だが私はこの仕事自体は下級な魔族として少し暴れたら良いだけと説明されて『それなら』と思って話に乗ったのだ。しかし、実際は魔王として業務を行い、この国全部を支配しろと説明されて話が違ってたのだ…」

勇者「下級魔族の仕事が実は魔王って詐欺じゃないか。」

魔王「そうだ。私は中級魔族だから魔王になれるような実力は本来無いし、自分でもそれは分かってるからこの仕事で応募したのだ。それが魔王とか上級魔族でも中々なれないのにどうしてこんな役割を与えられたのか理解に苦しんでいるよ。」

簡単な仕事ですからと言っておいて実は凄くハードな業務が待っているのは魔王でも一緒のようである。

魔王「そういえばお前こそ、なぜ派遣で勇者なんてしているんだ? 派遣でも勇者の名前を語れば重罪であろう?」

勇者「いや、俺は実は冒険者なんだが、特にやりたい事も無くて、冒険家の組合みたいな所に名前を登録してたんだよ。それでやっときた仕事が魔物退治だから引き受けたんだ。内容的には一番簡単だったから…しかし、実際の仕事内容は勇者として魔王を倒すって内容で簡単な魔物退治じゃないのがここに来てから分かったんだよなぁ…」

本当は大変な仕事なのに人材をかき集めるのが難しい冒険家組合(派遣会社)も不都合な事実を伏せて人を派遣するのである。

魔王「最初にどういう説明を受けていたんだ?」

勇者「組合からは本当に『簡単な魔物退治です、未経験の冒険者でも大丈夫ですよ!』って言われたんだ。さらにこの仕事で実績が出来れば『そのまま勇者になれる可能性がある』と説明されて『やってみるか』と思ったら実は魔王退治だから正式な勇者になる前にこっちが潰れるぜ…」

魔王「そっちも騙されたクチか…人類も魔族もどうしてこんな重要な仕事を派遣にやらせるのだろうか…?」

本来世界の危機をもたらす魔王、そしてそれを食い止める勇者がなぜこんな扱い・立場なのだろうかお互いに不思議に思い、それはお互いの戦い意欲も削いでいた。

勇者「魔王のほうは上級魔族でも魔王にしてみたら使えない奴だったりしたら解任もしづらいし、コストだけがかかってしまう。そのリスクを減らすために派遣にしているのじゃないか?」

魔王「どういう意味だ?」

勇者「派遣でも正式な魔王並の業務をやらせる事ができる。しかも人間に倒されても『本当の魔王ではない(派遣)』だからという理由で魔族全体からみれば痛くもない出来事だし、仮に勇者を倒せても安上がりで済むからだ。」

魔王「そ、そういうことか…なら勇者も同じ理由か?」

勇者「どういう意味だ?」

魔王「冒険者を派遣勇者として名乗らせて使えるぐらいなら、同時に代わりはいくらでもいると言う事だろう。それに正式な勇者は国が英雄と認めて生活が保障しなければいけないから、中々認める気は無いはずだ。」

勇者「そうなるな。俺も結局は魔王と同じような理由になるのか…」

お互いに組織から嘘の案件で派遣され、魔王と勇者という本来は軽々しい存在ではないものまで派遣になっている時代と組織にお互い疑問を抱いていた。

勇者「おかしなものだ、本来は悪の魔王を倒す勇者なのにそれが派遣で良いような時代になっていたのか…」

魔王「こっちだって本来は正義の勇者を倒し、魔王として魔族を率いるのが派遣で良いとはおかしな時代だよ…」

勇者「お互いに雇用主がリスクとコストは減らしたいが、質はベストでって感じがするんだよなぁ…」

魔王「しかし、それではいつか組織が衰退するだろう。お互いにリスクを減らしたい、コストを減らしたいだけでは支える存在が育たずに衰退するだろう。」

勇者「確かに高望みしすぎだよな。将来的に組織を担う人材が一向に育たないから、将来的にさらに人材難で苦しい事になるはずだと俺は思う。」

魔王「同感だ。」

お互いもはや意気投合してしまった、そこにはもう魔王と勇者という垣根は無く、同じ境遇の似たもの同士と言う事だった。

勇者「じゃあ、俺帰って良い? もうこんな仕事辞めて次探そうと思う。」

魔王「私もそうしよう…一度魔界へ帰ってもう一度やりたい事を探すとする。」

勇者「お互いに納得いく仕事に就ければいいな…」

魔王「同感だ。」

その後、魔王がいなくなったために「勇者が魔法を倒した!」という話が出回ったが、その勇者も消息不明なために本当に勇者が倒したのかは証明されないままだった。

この時の派遣された魔王と勇者のその後は不明だが、お互いに納得できる生き方を見つけているかもしれない。