アリアとレオ

アリア:
科学者の父を持つ。その研究のせいで裏社会の組織に狙われる

レオ:
秘密裏に動いている。めちゃくちゃ強い

執事:
伝説の傭兵。アリアを守ることが目的


レオ「さようなら」

一発の銃声が響き渡る。レオの前に立つ金髪の美しい少女は、胸から真っ赤な血を咲かせ仰向けに倒れた。血がドクドクと流れる。
レオは静かに涙を流し、その場を後にした。

一日前。

アリア「はぁはぁ」

金髪の美しい少女は、雑踏の隙間を颯爽(さっそう)と駆け抜けていた。少女の後を黒服の二人組が追いかける。人々を盾に少女は黒服を出し抜こうとするも、二人組のほうが一枚も二枚も上手だった。

アリア「何なのよもう」

黒服の二人組は少女のすぐ後ろに迫っている。逃げられない――絶望の二文字が脳裏を過ぎる。万事休すかと思われたそのとき、

レオ「見つけた!」

少女の手を掴む男が現れた。二人組と同じく黒い服に身を包む男は、当然のように銃を取り出して発砲した。轟く銃声。沸きあがる悲鳴。日常に突然現れた二つの死体。人々はパニックに陥った。混乱に乗じて、男は少女を連れ出して逃げる。

アリア「誰なの? あなたは!」

レオ「『ビースト』のエージェント」

アリア「っ!」

少女の心をまたもや絶望が襲う。『ビースト』、それは少女を狙う組織の一つだった。
男は少女を助けに来たのではない。捕まえに来た。その事実に少女は震える。

アリア「離しなさい!」

レオ「昔々あるところにおじいさんみたいなおばあさんとおばあさんみたいなおじいさんがいました」

アリア「離しなさいの意味が違う!?」

レオ「おばあさんとおじいさんは、自分がおばあさんなのかおじいさんなのかよく把握していませんでした」

アリア「なんで続けるの!?」

レオ「実を言うと数年前に体が入れ替わっていたのですが、二人はそのことに気づかぬまま過ごし、いつしかおじいさんは女性的に、おばあさんは男性的になり、結果どっちがどっちが分からない事態に陥ったとさ。めでたしめでたし」

アリア「何一つ解決していない?」

少女は何がなんだか分からなくなっていた。あまりにもふざけている男に自らの置かれている状況を忘れそうになった。誰からも狙われる現状、忘れてはならない事実に一瞬でも目を逸らしそうになった。まだ年端の行かない少女にとっては重い現実から目を背けたくなった。この状況に耐えられるほど少女の心は強くない。

レオ「離すわけがない。君を捕まえてボスのところに連れて行く。それが僕に与えられた任務だ。逃がすわけないだろ?」

男は非常な笑みを浮かべた。野獣のような獰猛さを垣間見せる男に少女は硬直する。怖い怖い怖い、恐怖が湧き上がる。どうしてこんな目に遭わなければいけないの?

二日前。

執事「アリアお嬢様、早く逃げてください!」

アリア「イヤよ。あなたを置いてなんていけないわ」

執事「旦那様からアリアお嬢様を守るようにと仰せつかっている身です。この命、投げ出すことなど造作もないことですよ」

アリア「で、でも!」

執事「泣かないでください。あなたに生きて欲しい、それが我らの望みですから」

少女に対してそっと微笑み、優に六十は過ぎているであろう白髪の老人は銃声が響き渡る大広間へと足を向けた。

執事「ここは私に任せて。さぁ、早く」

アリア「死なないで」

少女は悲しみをぐっと抑え、秘密裏に作られた通路に飛び込む。

執事「お元気で」

白髪の老人は扉を閉めた。そこに通路など始めからなかったようにただの壁となった。

大広間へと続く扉が破られる。黒服の男たちは銃やナイフなど様々な武器を手にしている。

黒服の男「子供はどこだ! 答えろ!」

執事「子供? はて何のことやら?」

黒服の男たちは白髪の老人のふざけた態度に怒りをあらわにした。

黒服の男「てめえ! なめ……」

言葉はそれ以上続かなかった。首にナイフが突き刺さっていたからだ。

執事「さて老いぼれの私にどこまでやれるか?」

一歩、三人、二歩、六人、白髪の老人は歩くたびに次々と黒服の男たちを屠っていく。フェデリカ家の守護を一手に引き受ける老人は、かつては伝説の傭兵だった。全盛期には劣るもののその力はいまだ健在。ただの黒服の男相手に引けを取るほど弱くはないのだ。

黒服の男「くそがぁ、撃て撃て撃て」

十分後、部屋に生きている人間は一人だけとなった。

執事「ふぅ、やれやれ。お嬢様との約束は果たせそうだ」

レオ「――それはどうだろうか?」

執事「っ!」

白髪の老人の胸を一筋の光が貫いた。真っ赤な血が吹き上がる。レオの手には銃が握られていた。

レオ「さて彼女はどこに行ったのかな?」

三日前。

アリアの父は世界的科学者だった。彼の研究は非人道的なもの。生命を一から作り出す、生命の理に踏み込んだものだった。その研究データを狙って、裏社会の組織が動き出し、アリスの父は殺された。

研究データは見当たらなかった。代わりに一つの事実が浮かび上がる。科学者に子供が生まれた事実はなかったのだ。ではアリアは?

裏社会の組織たちはアリアこそが人工的に作られた生命だと確信し、捕まえようと躍起になった。そしてアリア争奪戦が始まった。

一時間後。

執事「アリアお嬢様起きてください」

アリア「……えっ? し、つじ」

少女はガバリと起き上がる。胸からは血が流れていたが、不思議と痛くはなかった。

アリア「私、撃たれたんじゃ?」

執事「実は私も撃たれました」

アリア「大丈夫なの?」

執事「はい、私とアリアお嬢様は仮死状態にされただけですので」

アリア「どういうこと?」

白髪の老人は真実を語った。レオという男はボスの命に背き、少女と老人を守るため独自に動いていたことを。レオが実はもう一人の『成功体』だということを。

アリア「私を捕まえるためじゃなかったの?」

執事「そのようです。彼はあなたが死んだことにして、狙われることのないように仕向けたのです。あなたは自由の身になったのですよ。彼には感謝しなければいけませんね」

アリア「そうね」

少女はレオを思う。自らを助けてくれた男に感謝の気持ちを抱いて。