あなたの隣が似合うのは

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Illustration by うみの


前田:主人公。同じクラス委員の佐伯のことが好き
佐伯:主人公と同じクラス、優等生


昼休み、教室へ戻る途中の廊下で彼に呼び止められて話があると言われた。
放課後、中庭の端の木のところで。
平静を装ってわかった、と答えたが密かに想いを寄せている相手からの呼び出しに彼が背を向けた途端不自然に顔が緩むのを止められない。

急いで教室へ戻り化粧ポーチを持ち出して、残り少ない休憩時間で髪をとかしたりリップクリームを塗ったり、とにかくできる限りの身づくろいをする。ビューラーやマスカラは携帯していないのが残念だった。

たぶん彼のほうはクラス委員同士の打ち合わせとかそんな用事なんだろう。一人で浮かれてしまって滑稽なくらいだけれど、誰に迷惑をかけるでもないから許してほしい。

落ち着かない気持ちで午後の授業を受けて、ようやく放課後だ。
手早く帰りの支度をして、待ち合わせ場所の中庭へと向かう。
あんまり早く着いたら引かれてしまうかもしれないから、はやる気持ちを抑えてゆっくりゆっくり歩く。
角を曲がると彼はもうそこにいた。もたれかかるでもなく植木の前で、背筋をすっと伸ばして立っている。その立ち姿がさわやかで胸がときめく。

小走りで近づいていくと物音で気がついて微笑みを浮かべた。
その笑顔が自分に向けられているなんて幸せだ。

「ごめん、待った?」
まるでデートの待ち合わせのようだ。妄想でしかないけれど。
「早く来ちゃったみたいだ。せかしてごめん。」
と気遣う彼に、そんなことないよと答える。
それから彼ははあ、とひとつ息を吐いて、まっすぐな瞳でこちらを見ながら口火を切った。

「あのさ、驚かずに聞いてほしいんだけど…」

そこで一旦言葉を切って、続きを口にした。

「前田が好きだ。もしよかったら、僕と付き合ってほしい。」

呼吸を忘れるくらいの衝撃。
こんなこと。
憧れの彼から愛を告げられる。
こんな思いがけない幸運が自分に訪れるなんてまったく信じられない。
夢なんじゃないかと思う。

「ありがとう。」

好意的な言葉を聴いた彼が口元をゆるめたのは一瞬、私のこわばった顔つきにすぐさま言葉どおりの意味ではないと伝わったのだろう。

「うれしいけど、佐伯は私にはもったいなくて…もっといい人がいると思うよ。」

使い古された断り文句。それを耳にした彼の眉が下がり、常の柔和な表情を憂いの笑みが覆う。

「前田は僕を好きでいてくれると思ってた。ごめん、うぬぼれてた。」

彼の失望したというような表情に、心底自分が嫌になった。胸渦巻くは彼への想い。

佐伯が好きだ。
彼の誠実なところ、努力家なところ、優しいところ、皆に好かれているところ、将来への前向きさ、人の長所を見つける力、面倒見のよさ、尊敬している。
背も高いし頭もいいし、美形とは違うかもしれないけれど内面が外見にあらわれていて頼もしくて好ましい。
地味だなんて自嘲するけれど堅実な彼はクラスの女子の中で結婚したい男ナンバーワンの人気ぶりだ。本当に完璧で、彼に選ばれる女の子は一生幸せになれる。そう言い切れる。

うれしい。ありがとう。私も好き。そう言えたらどんなにいいだろう。
自分にはそれを言う資格がない。

彼のとなりは自分にはふさわしくないという自覚がある。

成績も中途半端、見かけも平均かそれ以下。これで何かひとつでも人より秀でたものがあればまだ救いがあるのに、残念ながら目立った特技もない。要は人と比べて自信を持てるところがひとつもないのだ。

思いがけず告白を受けてとてもうれしい。天にも昇る心地だ。これまでの人生で最高の瞬間だった。

しかし一歩が踏み出せない。
彼から享受するものに対して返せるものがない。
恋愛は等価交換だ。
彼の気持ちは勘違いみたいなもので、すぐに間違いだったと気付くだろう。がっかりさせるのもされるのも、つらい。
彼のためと言えば聞こえはいいが、その実自分が傷つきたくないだけでもあった。

「馬鹿みたいだな…」

自嘲に胸が引き絞られる。
彼は今、本心から誠実に好きだと言ってくれている。でも、彼のようなすばらしい人なら相手をいくらでも選べるはずなのだ。
自分のことを知れば彼は失望する。きっと彼は自分からつきあおうと言った手前責任を感じて、悩ませてしまうと思う。
自分が至らないばかりに。

「佐伯はステキな人だから、私なんかよりもっと優れた人が似合うよ。もっとかわいかったり気が利いたり、賢い…」

言いながら涙がこぼれそうになる。今言ったような条件に見合うクラスの女子たちを思い描いて、彼女たちと比べて自分のなんと取るに足りないことかと落ち込む。

「どうして前田のほうがつらそうな顔をしているの。」

顔をのぞきこまれている。視線を避けて下を向いたら目のふちにたまった涙が今にもこぼれおちそうになった。

「なんでもないよ。今日は部活あるんじゃないの。部長なのに遅刻したら困るでしょう。」

「そんな顔をされたら、置いていけない。」

心配してくれている。

「私を好きになってくれてありがとう。私は佐伯に幸せになってほしい。私じゃ無理だと思う。」

「何でそう思うの?」

「佐伯のこと好きな子たくさんいるんだよ。知らないかもしれないけど、結婚したい男子ならクラスでダントツって言われてる。だからもっとお似合いの相手を選べる。」

「だから身を引くって?」

「私なんかを彼女にしたら、笑われちゃうよ。」

「僕は好きな相手を、誰にも悪く言わせない。たとえお前にでも。」

いつもは優しいたれ目が今はぐっと鋭くなってこちらを見据えている。
温厚な彼を怒らせてしまった。

「前田よりかわいい子って誰のことを言ってるの?僕にはそんな子いるように思えないんだけれど。」

そんなことを言われたら。ぎりぎり耐えていた涙がまばたきと共にこぼれ落ちた。
頬を伝う涙を佐伯はきれいに折りたたまれたハンカチで優しくぬぐってくれた。

「前田は自分に自信を持てないって言っていたけれど、それは僕もなんだ。本当は好きなやつがいて、それなのにしつこく追いすがって迷惑なんじゃないかとか思ってる。」

「そんなことない!」

突然の大声にびっくりしたのか佐伯は目をしばたたかせる。

「だって、佐伯は私のヒーローだから」

泣いたせいで声がみっともなく震えるが、この一言はどうしても伝える必要があった。
それを聞いて、佐伯はいつもそうしているように首の後ろに手をやってはにかんだ笑顔を見せる。
それから少し言いにくそうにして、口を開いた。

「僕は聖人君子じゃないよ。好きな子には触れたいしキスしたいって思うし、それ以上のことだって…」

ごめん、失望した?だなんてまさか。
ひとつ大きく呼吸をして、彼の気持ちにこたえる覚悟を決めた。

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