魔王になりたい勇者VS世襲制魔王

勇者:
破壊大好き、力一番、一番強い魔王になりたい。

魔王:
世襲制で魔王になった魔王。わりと真面目で、外の世界にあこがれている。


勇者がついに魔王城へとたどり着き、魔王と対峙する。

勇者「ついにここまでやってきたぞ!」

魔王「よく来たな、勇者よ。命知らずとはよく言ったものだ」

勇者「ふっ、オレがお前を倒して、新たな魔王になる!」

魔王「はっ?」

勇者「覚悟しろよ、魔王!」

魔王「ちょ、ちょっと待て。いま何か不穏な台詞がなかったか?」

勇者「オレがお前を倒して、新たな魔王になる」

魔王「繰り返してておかしいところはないか? 勇者よ」

勇者「いや、別に」

魔王「……なぜ魔王になりたいのだ?」

勇者「え、だって魔王って言ったら世界で一番強いんだろ?」

魔王「ま、まぁ、世界を恐怖に陥れる力を持つ、この私は恐らく世界で一番強いだろうが」

勇者「それなら問題はない!」

魔王「いや、あるだろう……勇者なら、もし、万が一にでも私を倒して街に戻れば英雄ではないか」

勇者「英雄になってしまったら、次の魔王がでるまで戦いはお預けになってしまうだろ」

魔王「戦闘狂か……お主」

勇者「オレはいつでも自分の力を思う存分使いたいんだ!」

魔王「確かに、魔王の素質はありそうだな。しかし、なぜ勇者になってここまで来たのか……」

勇者「魔王を倒すのに一番てっとり早いだろ。一般市民が魔王の城に入るのは大変だからな!」

魔王「別にわしの家は勇者歓迎っていうわけでもないんだが……」

勇者「まぁ、門ぶっ壊したしな」

魔王「破壊大好きだな?」

勇者「壊すのは好きだぞ、じゃなきゃ魔王になるなんて言うわけがない」

魔王「……わかった。百歩譲ってお主が魔王になりたいのはわかった」

勇者「わかってくれたなら良かった。ところで、魔王は勇者になりたいのか?」

魔王「はっ?」

勇者「英雄になれるって話を、真剣にしてただろ? そっちの方が好きなのかと思ったんだけど、違うか?」

魔王「……そうだな、そんなことは考えてもみなかった。生まれた頃から魔王の息子という立ち位置、魔王になることは決まっていたことだったからな」

勇者「へぇ」

魔王「勇者とはどういったものなんだ?」

勇者「そうだな、まず人を襲ってる魔王軍の手下をボコボコにするだろ。そうすると報復とばかりにいろんな手下がオレを襲ってくるから、返り討ちにする」

魔王「確かに危険人物は早めに処分しておかねばならぬから手下を送るな」

勇者「オレは単にボコボコにして金銭撒き上げてるだけなんだけど、助けたことで人から感謝される」

魔王「感謝か……やっていることは対して変わらないのにな」

勇者「感謝されるし、どんどん倒すからいろんな奴らから感謝されて、勇者って呼ばれる」

魔王「名乗っているわけではないのか……」

勇者「名乗る奴もいるし、本当に人助けのために戦ってる奴もいる。けど、考えても見ろ、何百と言う軍勢を相手に何人が行き残れるかということを……」

魔王「それでお主みたいな戦闘狂が残ったと」

勇者「戦いには命かけてるからな!」

魔王「お主のその心意気は認めよう」

勇者「まぁ、でもお前だって力強いんだろ、立場が逆転すれば勇者になれるぜ!」

魔王「うむ……」

勇者「オレは魔王になりたい、そんでお前は勇者になりたい。利害の一致ってやつだ、お互いの役職を交換しようぜ!」

魔王「役職を、交換!?」

勇者「そうそう、世界も別に勇者がいなくなるわけじゃないんだから、悪くもならない。いい条件だと思わないか?」

魔王「しかし……この嫌われたわしがいまさら勇者などと……」

勇者「なあに、そこは一から始めればいいんだよ。それに、魔王っていうのは人前に出てないせいで顔は知られてないだろ?」

魔王「そう言われれば、そうだな。いつも椅子に座って指示を出しているか、よほど危険人物が出てこない限りは自分では行かなかったな」

勇者「そうだろ? だから入れ替わったところで誰もわかりゃしないっていうことだ」

魔王「……」

勇者「新しい人生の扉を開けてみないか?」

魔王「さすが勇者、すごい台詞だな」

勇者「まぁ、まだ勇者だからな!」

魔王「そうだな。ここで、わしがノーと言ったら……どうなる?」

勇者「そりゃあ当初の予定通り、お前を倒してオレが魔王になる!」

魔王「勇者とは思えない程の悪どい面構えをしながら言われると、本当に倒されそうな気分になるな」

勇者「オレは強いからな!」

魔王「倒されてしまうより新しい人生か、それもいいかもしれんな」

勇者「飽きたらオレを倒しにくればいいからな!」

魔王「もう魔王面か? ……そうだな。それも楽しそうだ」

勇者「それじゃあ、交換するってことでいいか?」

魔王「いいぞ、逃げ出さずにわしがここに再び来るまで、魔王として働いてくれ」

勇者「まぁ、お前のやり方とは違うかもしれないけど、オレなりにガンガン破壊するぜ!」

魔王「それをわしが止めるわけだな」

勇者「できたらな」

魔王「やってやるさ。新しい人生、だからな」

勇者「決まりだな!」

魔王「あぁ……また会う日まで。誰にも倒されぬようにな」

勇者「こっちの台詞だ! またな、勇者!」

魔王「またな、魔王」

魔王城を去ったのは元魔王、そしてこれからの勇者だった。