ボックスゲーム

桜花:
ボックスゲームのプレイヤー。

佳純:
ボックスゲームのプレイヤー。

進行役:
ボックスゲームの進行を務める。


進行役「桜花様、準備はよろしいですか?」

桜花「はい」

私はゲームの進行役の人に返事をする。

進行役「佳純様も準備はよろしいですか?」

佳純「うん」

テーブルを挟んだ向こう側にいる佳純も返事をした。

進行役「それではボックスゲームのルールを説明します。各自には二個のボックスと一つの赤いボールが与えられます」

進行役の人はポケットから赤いボールを取り出した。

進行役「お二人には先攻後攻を決めていただきます。先攻の方は赤いボールを二個のボックスの内のどちらかに隠してください。後攻の方には赤いボールが隠されているボックスを選んでいただきます。五回戦の内、先に三回勝った者を勝利とします。ルールはこれだけです。簡単でしょ?」

確かに簡単だ。わかりやすい。

私と佳純の前に二個のボックスと赤いボールが置かれた。ボックスを持ち上げてみる。非常に軽かった。まるで持っていないみたいだ。

進行役「先攻後攻を決めるので、じゃんけんをしてください」

進行役の人の指示通りにじゃんけんをする。私はグーで佳純はチョキだった。

進行役「桜花様、先攻後攻どちらになさいますか?」

桜花「先攻で」

進行役「桜花様が先攻で佳純様が後攻ですね。それではボックスゲームスタートです」

進行役の人がゲームの開始を告げた。

・・・

右のボックスに隠すべきか、それとも左のボックスに隠すべきか。迷ってしまう。

最初は様子見として、利き手である右に隠すとしよう。私は赤いボールを右のボックスに隠した。

進行役「佳純様の番です。お選びください」

佳純は二個のボックスを交互に見る。それを何度か繰り返した。

佳純「う~ん。さっぱりわからない!」

佳純は頭を掻き毟り、苛立ったのかテーブルをバンと両手で叩いた。

佳純「わからないから、勘で当てる。右のボックス」

佳純は投げやりに答える。当たってる。

進行役「桜花様、右のボックスをお開けください」

言われたとおりに右のボックスを開ける。

進行役「赤いボールですね。佳純様成功です」

当てられたけど、私も当てれば問題ない。

進行役「佳純様、お隠しください」

佳純が隠し終えるまで待った。

進行役「桜花様の番です。お選びください」

右と左のどちらに隠したんだろうか。

桜花「左のボックス」

私も桜花と同様に勘で答えた。当たってますように。

進行役「佳純様、左のボックスをお開けください」

佳純は左のボックスを開ける。何もなかった。

進行役「空ですね。桜花様失敗です」

失敗したが、次は当てる。

進行役「二回戦を始めます。桜花様、お隠しください」

一回戦は右に隠したし、次は左に隠そうか。でも、佳純はそう考えて左を選ぶかもしれない。なら、もう一度右に隠そう。

進行役「佳純様の番です。お選びください」

目を細めて、佳純はボックスをじっと見る。

佳純「わかんない!」

貧乏ゆすりしている。どうやら、かなり苛立つタイプのようだ。

佳純「う~ん。右のボックス」

またも佳純は投げやりに答えた。

進行役「桜花様、右のボックスをお開けください」

私は右のボックスを開けた。

進行役「赤いボールですね。佳純様成功です」

これで佳純は二回成功したことになる。

進行役「佳純様、お隠しください」

佳純は隠し終える。

進行役「桜花様の番です。お選びください」

ここで当てて成功しなければいけない。後一回成功されたら負けだし。

桜花「左のボックス」

一回戦の時と同じボックスを選んだ。先刻は外れたが、今度は当てる。

進行役「佳純様、左のボックスをお開けください」

左のボックスを佳純は開けた。

進行役「赤いボールですね。桜花様成功です。三回戦を始めます。桜花様、お隠しください」

一回戦二回戦共に右に隠したから、左に隠そう。

進行役「佳純様の番です。お選びください」

舐めまわす様に佳純は二個のボックスを交互に見やる。

机に突っ伏しつつ、佳純は言った。

佳純「まったくもってさっぱりだ!もういいや左のボックスにする」

進行役「桜花様、左のボックスをお開けください」

私は左のボックスを開けた。

進行役「赤いボールですね。三回勝ったので、佳純様の勝利です」

負けてしまった。

・・・

桜花「勘で三連続当てるなんてすごいね」

私は佳純に賞賛の目を送った。

佳純「実際のところは勘じゃないけど」

桜花「え? 勘じゃないの? それじゃあ、どうやって当てたの?」

私は身を乗り出して、佳純に問うた。

佳純「私はボックスを選ぶ前にテーブルを叩いたよね。これで当てたんだけどね」

桜花「テーブルを叩くことが、赤いボールを当てるのとどう関係があるのかわからないんだけど」

私は思考を巡らせてみたけど、さっぱりわからなかった。

佳純「このボックスが軽かったからできたんだ」

それはつまり重たかったらできないということか。

佳純「やったことを実践するから、よく見ておくんだ」

そう言って、佳純は赤いボールを右のボックスに入れる。それから、テーブルを叩く。

桜花「……あっ!」

赤いボールが入っているボックスの方が、何も入っていないボックスよりも跳ね上がる高さが低かった。そういうことか。ボールの分だけ重量が増しているから、高さが低めなんだ。

佳純「後は簡単。高さが低めのボックスを選べばいいだけ」

すぐ苛立つタイプと思っていたけど、間違いだ。そう演じていただけに過ぎない。

桜花「負けたけど、楽しかったよ」

次の時にはこのやり方を使わせてもらおう。

佳純「私も楽しかったよ」

桜花「次に合える日を楽しみにしているよ」

私は佳純の目を見つめた。希望に満ちた目をしている。それは当然だろう。私が佳純の立場なら、同じ目をする。

佳純「私もだ。それが数年後か、数十年後かになるかはわからないけど」

進行役「勝利なさいました佳純様は釈放です。負けてしまわれた桜花様は牢屋に逆戻りです」

進行役の人は律儀に会話を終えるのを待ってくれていた。進行役の人は佳純を刑務所から釈放した後、私を牢屋へとぶち込んだ。

・・・

進行役「次のボックスゲーム予定日は一年後になります。それまでは牢屋で過ごしてください」

桜花「はい」

進行役「必要なものがあれば、私に申し出てください。費用は私が出しますんで」

桜花「それじゃあ、小説と漫画を何冊か買ってきてもらえませんか? それとゲームも」

内心申し訳ないと思いつつもそう言った。

進行役「小説と漫画とゲームですね。わかりました。……今月の家賃払えるかな?」

最後だけ素に戻った。私のせいでこの人が家賃を払えずに追い出されたら、どうしよう。

進行役「明日には持ってきますので、これで失礼します」

桜花「あ、はい」

進行役の人は立ち去った。

明日まではやることないから退屈だな。明日には小説と漫画読んだり、ゲームしたりして暇を潰せるからいいけど。

私は一年後のボックスゲームで勝利して釈放されるぞ。それまでよろしく牢屋。