優奈の撃退☆大作戦! 前編

その少女・優奈は、一人暮らしをしていた。

林に取り囲まれた二階建ての一軒屋で、周囲には他に家屋はない。
街に出るのも一苦労な場所で、大変不便ではあるものの、優奈はこの静けさと自然に囲まれた環境が気に入っていた。

しかし、優奈には悩みの種があった。
時々ではあるが、敷地内に勝手に人が入って来るのだ。

その家は、周囲に何もなく垣根や塀もないため、どこまでが庭なのか曖昧だ。
そのせいなのか、不法に立ち入ってしまう通行人が居るようだ。

「全く、困ったもんだわ」

その日も、家庭菜園の中に誰か立ち入ったようで、畑の一部に大きな靴跡がくっきり残っている。

「んもう! どうしてこういう事するかな~」

優奈が気付かないということは、恐らく真夜中に浸入してくるのだろう。
腹立たしかったが、幸い、優奈自身が侵入者に襲われるようなことは、これまでなかった。

しかし、今後はどうかわからない。
優奈は、なんとか対策を施さないと……と、考え始めた。

「え~っと、まずは……柵を作らなきゃね」

優奈は、早速家の中を探り、柵の代わりで地面に固定できそうな何かを物色し始める。
一番物があるリビングを探るが、普通の家具や食器類があるだけで、特に役立ちそうなものはない。
冷蔵庫の横、棚やタンスの後ろ、テレビ台の脇などをくまなく探すが、出てくるのはせいぜい埃を被ったコードや得体の知れないゴミばかりだ。

「うわぁ、随分掃除サボってたなぁ~」

誰に言うともなく、優奈はつい愚痴を零してしまう。
よく見ると、テレビにも結構埃が溜まっている。
電源の入っていない画面には、誰も居ないリビングの様子が映し出されていた。

続けて、二階も調べてみる。
寝室、物置、自分の部屋……大して広くない二階は、すぐに探索終了してしまった。
勿論、目的のものはない。
優奈は勢い余って天井裏や屋根の上まで登って調べてみたが、どうやら使えそうなものは何もないと結論付けるしかないようだった。

「ふわぁ、壮大な時間の無駄遣いだったかぁ~」

気がつけば、もう夕方近い時刻である。
街に出るのもおっくうに感じ、優奈は今日はもう諦めることにした。
もしかしたら、林の中に使えそうな木切れとか落ちてるかもしれない? などと考え、自分は倹約家かな? などと考え、ほくそ笑む。

夕方から夜にかけての、優奈の時間は、主に読書だ。
二階の自室に篭り、本棚にあった本を適当に物色する。
生憎、自分が選んで買った本はここにはないので、半分以上意味が分からないものなのだが、それでも幾つかは楽しめるものがあった。

最近、優奈は「絵本」に凝っている。
「はなさかじいさん」「桃太郎」「つるの恩返し」など、昔から良くあるなんてことのない絵本で、子供の時に何度も読んだものだが、今じっくり目を通すと、なかなか感慨深い。

床の上に何冊も本をちりばめ、読みふける。
そんなことをしているうちに、時間などすぐに過ぎてしまうのだ。

――ガタン

ふと、一階で物音が聞こえた。
しばらくすると、人の話し声まで聴こえて来る。
聞き間違いではない……どうやら、男が二人以上はいるようだ。

(ひぃ?! ま、マジでぇ?! とうとう家の中まで?!)

とうとう、恐れていた時がやって来た。
優奈は大慌てで、何か武器になるような得物を探すが、そんなものは全く見当たらない。

(そ、そっか! あれば柵に使ってるもんね。
……って、ど、どうしよう!!
ど、ドロボウさん? それとも……ブルブルブル)

咄嗟に隠れようと考えるも、逃げ場がなければいつか見つけ出されてしまうかもしれない。
そう考えると、なんとかしてここから脱出するか、或いは穏便に侵入者に退出願うしかない。

(と、とと、とりあえず!
ど、どんな人達なのか、確認するっぺ!)

思い立ったら即実行、優奈は勇気を振り絞ると、足音を殺して階段へ向かった。
数段降りたところで、階下から明かりが見えた。
下の階の電気は点いてない筈なので、明らかに侵入者が持ち込んだ光源だ。

玄関を見てみるが、ドアは開け放たれ、靴が全く置かれていない。

(ええっ?! た、他人の家に、勝手に! しかも、土足ぅ!?)

だんだん腹立たしさがこみ上げて来たが、迂闊に動いたら危ない。
優奈は慎重に、物音を立てないように、こっそりと一階の様子を窺(うかが)ってみた。

?「――へぇ、結構綺麗じゃん?」

?「思ってたよりはね――」

男の話し声が、二人分。
リビングの方から聴こえて来る。

(か、かかか、家具を、ぶ、物色してるの?!
ちょっと待って! じゃあドロボウさんって事?!)

リビングの方から、何かを動かすような、ガタガタという大きな音が響き出す。
このままでは、大変なことになってしまう!
しかし、ここは周囲に人の住む家がまるでない、林の中の一軒家。
隣人や警察を呼ぼうにも、今の優奈にはその手段がない。

ふと、開け放たれた玄関から、そのまま真っ直ぐ外に脱出出来ることに気付く。
侵入者の明かりがこちら側に向いていないのを確認すると、優奈は思い切って、外に飛び出してみた。

幸い、物音を立てることなく、家の外に出ることが出来た。
ふと見ると、家の前には大きな車が一台停車している。

(うっわ……車ごと敷地の中に入ってるじゃん!
どんだけ図々しいのよ、あのドロボウサンったら!!)

恐怖よりも、だんだん怒りの方が上回り始めた優奈は、何か反撃の手段はないか考え始めた。
反撃と言っても、別に傷を負わせる必要はない。
ちょっと脅かして、逃げさせればいいだけだ。

(あ! いい事考えた!)

ドロボウは、家人の突然の反応に驚いて、逃げ出すこともあるらしい。
下手に前に出ると反撃される危険もあるが、一旦外に出たなら……

(よぉ~し! 今度はこっちが脅かしてやる!!)

イヒヒと意地悪な笑みを浮かべると、優奈は家を迂回し、リビングの窓にあたる場所まで進む。
ここの雨戸は、建てつけが悪いのか、ちょっと強い風が吹くとガタガタと揺れるのだ。
これを利用して――

(よおぉぉぉし、優奈ちゃんユーレイ大作戦、開始だ☆)

優奈は雨戸に手をかけ、力一杯動かそうとした。
だがその時、室内から、男達の激しい悲鳴が聞こえてきた。

(え? ちょ……気が早いって!)

何があったのか、男達は室内でドタドタと走り回ってるようだ。
さしあたり、ゴキブリが出たのか、それとも盗もうと思った家具が足にでも落ちたのだろう。

(よし! 機は熟した!
今なら、効果絶大間違いなしだわ!)

だんだんノリノリになってきた優奈は、雨戸を思いっきり揺さぶり始めた。
途端に、ガタガタという耳障りな音が響き出す。
雨戸の隙間から、明かりがこちらに向けられたのが判る。
室内で、足音がこちらに近づいてくるようだ。

(おっと! 隠れなきゃ!)

別な窓に移動した優奈は、しばらく身を潜め、男達の動きを観察する。
大きな音がして、雨戸が開かれた。
どうやら、男の一人が外に出たようだった。

?「お、おい……だ、誰もいねぇ……ぞ?」

男の呟きが、聴こえて来る。
しめた! 明らかに動揺している!!

(フフフ、優奈ちゃんゴースト作戦効果アリ!)

さっきと作戦名が違うようだが、優奈は満足な結果に満面の笑みを浮かべる。
やがて、男の足音がこちらに向かってくるのがわかる。
よし、それなら……と、優奈は身構えた。

優奈「わっ!!」

?「――ぎゃあぁぁぁっ?!?!」

家の角を曲がってこちらを覗き込んだ瞬間、優奈はしゃがんだ状態から立ち上がった。
両手を広げて、目一杯の変顔を作り、男を威嚇する。
効果は絶大だったようで……

?「出た、出た! デタァァァァァァ!! マジで出たぁっ!!」

男は、部屋に戻らず、そのまま車の方へ逃げて行った。

?「あ、おい! どうしたんだよ!」

もう一人の男が、慌てた様子で外を覗き込む。
すかさず室内に入り込んだ優奈は、今度はその男の背後に回り……

優奈「う~ら~め~し~や~ぁ~♪」

古典的な幽霊台詞を、男の耳元で囁いてみた。

?「ぎ、ギャアァァァァァァァァっっ!!」

叫び声を立て、男は窓から外に飛び出した。

ものの数分もしないうちに、車のエンジンの音がする。
どうやら、男達は逃げ帰ろうとしているようだ。

(た、楽しい♪ これはハマるわ♪ よぉし、ダメ押しっ!)

優奈は外に出ると、切り替えしている最中の車に向かって突進していった。
両手を広げて、オバケだぞ~!! といわんがばかりに。

優奈「まぁてぇ~い♪」

?「「うわあああああああ! 追ってきたあぁぁぁぁ!!」」

スピードを上げて、車は逃げ去った。
痛快を通り越し、もはや快楽の領域に達しようとする、達成感!
優奈は、ゾクゾクするほどの勝利の余韻に、酔いしれていた。

「フフフ♪ これでもう、勝手に入り込んだりはしないでしょ。
でも、これなかなかいい方法ね、今度誰か来たらまたやってみようかな♪」

優奈は、先ほどまでの恐怖もどこへやら、今度は新たな来訪者を待ち焦がれるようになってしまった。

→後編へ続く