ある夜の小さな集会で(第9夜)

シマ:
自立猫、同居を考慮中

野良:
集会のゲスト、半同居犬

長老猫:
集会の主催者

姐さん猫:
集会の幹部、世話好き

黒:
情報猫


姐さん猫「こんばんは、ちょっと早く来すぎましたかね」

長老猫「いやいやわしとしては話し相手が来てくれて、嬉しいものじゃが」

姐さん猫「おや、シマのはどうしたんですかえ。何やら腹を立てているようですが」

長老猫「それがのう、例の二本足との同居についてなのじゃが」

姐さん猫「まさかまた・・・実はろくでなしの二本足だったとか?」

長老猫「いや当の二本足は大変に良い者のようじゃが」

姐さん猫「煮え切らない言い方なさいますねえ」

長老猫「まあ直接話を聞いた方がええじゃろう」

姐さん猫「みなが集まってからの方がいいですかね」

長老猫「いや、今のうちに聞いてやってくれんかの」

姐さん猫「勿論否やはありませんがね。シマの、こっちに来ておくれで無いか?」

シマ「あ、お姐さん。こんばんは」

姐さん猫「ご機嫌よろしく無いようだけど、何かあったのかえ?」

シマ「それが・・・長老様にもお話したんですが」

姐さん猫「あたしにも話しておくれ」

シマ「野良さんの所の二本足はいい人だし、僕が行くと喜んでくれるみたいなんであの後も時々行っていたんです」

姐さん猫「で?」

シマ「で、先日行った時に他の二本足が来てて」

・・・

知らない二本足「だからねえ、野良猫や野良犬に食べ物はやらないで欲しいんですよ。そのままこの辺りにいつかれて、子供とか産んで増えたりしたら困るじゃないですか」

野良の二本足「いえでも・・・」

知らない二本足「そりゃあねえ、お宅がきちんと飼ってくれてちゃんと去勢とかもするんなら、勿論構いませんけどね」

野良の二本足「はい」

知らない二本足「とにかく野良犬や野良猫が増えるのだけは、困りますからね。場合によっては保健所に通報します」

・・・

シマ「そんなの二本足の勝手な言い分じゃないですか」

姐さん猫「まあねえ、昔みたいにはあたしら自由に生きられなくなったのは事実だし」

長老猫「時の流れは止められはせん、しようのない事ではある」

シマ「だからと言って、あれじゃあいじめですよ。野良さんの所の二本足も、本当に困ってたんです」

姐さん猫「何か言ってたのかい、あんたは言葉が解るんだから何か聞いたとか?」

シマ「その時僕は怒っていたんですけど、野良さんの二本足がどうするつもりか気になって。でもってそれで野良さんに何かあったらと思って、そのまま何時もと同じように二本足の住処に行ったんです」

長老猫「野良のはおったのかな?」

シマ「丁度留守だったんです」

・・・

野良の二本足「まあシマちゃん、今日も来てくれたのね」

シマ「(なあ)」

野良の二本足「本当にどうしたらいいのかしらねえ、あなたたちはこんなにいい子たちで、何も悪いこともしていないのにね」

シマ「(なあ?)」

野良の二本足「このままではいけないのかしら、このままあなたたちとのんびり暮らすわけにはいかないのかしらねえ」

シマ「(な)」

野良の二本足「ごめんねえシマちゃん、私たちにもルールがあるからそれには従わなくちゃいけないの。でもねえ、勝手に去勢とか・・・あなたたちも子供を育てたいでしょうにねえ」

シマ「(なああ)」

野良の二本足「何かある前に、あなたたちを逃がした方がいいのかしら」

・・・

姐さん猫「じゃあ野良さんの二本足は、板挟みってわけかい?」

シマ「みたいです」

長老猫「ある意味一番気の毒かもしれんの」

シマ「解ってるんです、二本足には二本足のルールがあって、二本足の中で暮らしていくにはそのルールに従わなくちゃいけないって」

姐さん猫「そうなんだよ、二本足自身も同居の連中もねえ」

シマ「解ってるんですけど」

長老猫「で野良のは何と?」

シマ「僕とてもこの話、野良さんには出来なくて」

姐さん猫「そりゃあ言いにくいねえ」

シマ「だけど野良さん、犬の人たちってこういう空気に鋭いじゃないですか。何か気づいてるみたいなんです」

姐さん猫「どうしたもんかねえ」

黒「てえへんだ、長老様てえへんだ」

長老猫「黒の、何を慌てておる」

黒「こ、これが慌てずにおれますかい。野良のが・・・」

シマ「野良さんに何か?!」

黒「野良のの所の二本足が朝転んで怪我したんだと」

シマ「ええ?!」

黒「家ン中で転んだんで、誰も気づかなかったみたいで」

長老猫「じゃあその二本足は1日中家の中で倒れておったのか?」

黒「それがさあ夕方、野良のが出先から帰ってたら二本足の姿が見えなくて、でもってこれはおかしいってんで普段はやらない家の中覗き込んだんだと」

姐さん猫「で、発見したってわけかい」

黒「そうなんですよ、でやっこさん吠えて吠えて吠えまくって。周りに住んでる二本足が、うるせえって怒鳴っても吠え続けて」

シマ「それで、それであそこの二本足のことが?」

黒「おうよ、あまりにうるさいってんで近くの二本足が出張って、で怪我して倒れてる野良の二本足を見つけたってわけさ」

長老猫「それは何とも、重畳」

姐さん猫「野良のはよくやったねえ」

シマ「僕、野良さんの所に行ってみます」

黒「今はやめとけ、あのあたり二本足だらけだ」

シマ「でももし野良さんに何かあったら」

黒「いやそれは心配ねえ」

姐さん猫「だねえ、これで野良のは二本足にとって英雄になったわけさ」

長老猫「連中は自分勝手じゃからの、ただの野良犬がと馬鹿にしておっても、役に立つと解れば手の平を返す」

シマ「長老様、それって!」

姐さん猫「あんたの怒る気持ちも解るけどね、シマの。でもこれで野良のを追い出そうとする二本足も、何も言えなくなったってのも事実さ」

シマ「じゃあ野良さんは、あそこに住めるんですね。あの二本足と一緒に」

長老猫「そういう事じゃ」

シマ「そっか、良かった。同居はちょっと悩んでるみたいだったけど、これで野良さんも気持ちが決まるだろうなあ。僕やっぱりちょっと行ってきます」

姐さん猫「あたしがシマのを凄いと思うのは、こういう時ですよ」

長老猫「じゃのう」

姐さん猫「他の人、しかも種族も違う相手のためにここまで怒れるって、しかも喜べるってのは・・・・あの子の人徳ですかねえ」

長老猫「自分はどうなるのか、よりも他人を思いやれると言うのは、シマの最大の美点じゃろうて」

姐さん猫「ですよねえ」

黒「お話し中ですが、みな集まってますぜ。集会どうします?」

長老猫「おお、すまんすまん」

姐さん猫「では今夜は皆に、この話でもしましょうかねえ」