不死の殺し方、教えます

人見綾女:
主人公の女性

池:
綾女のクラスメイト

夜野:
綾女のクラスメイト

夕日明:
綾女の初恋の相手


私、人見綾女は不思議な看板を掲げる店を見つけた。そこにはこう書いてあった。――不死の殺し方、教えます――と。私は変な店だなと思いながらも、そのまま前を通り過ぎた。――だから私は気づかなかった。店の扉の隙間から私を盗み見る視線に――。

私は高校で奇妙な噂を耳にした。曰くこの町には不死身の化け物が出ると。出会った者は喰われる、現に何人か行方不明になっているとの話だ。『不死の殺し方、教えます』と書かれた店を見つけた翌日にこんな噂を聞くとは、不思議な縁もあるものだ。それにしても不死身の化け物とは――きっと行方不明者たちはそれぞれ別の理由で行方をくらましているはずだ。化け物に喰われるなんて馬鹿げた噂だ。そんなことを思っていると肩を叩かれた。振り返ると、いけ好かない顔の男――同級生の池だ――がにやにや笑っていた。

綾女「何のようだ?」

私は不機嫌な声で聞いた。どうせくだらない理由だろう。

池「今日、一緒に帰らない? 不死身の化け物が出るって噂だし、一人でいるのは危ないから。俺が守ってあげるよ。ね?」

やはりくだらない理由だ。そんなものいる訳ないだろうに。片目を瞑るな気持ち悪い。ウィンクのつもりか?

綾女「嫌だ。なぜお前なんかと一緒に帰らなきゃならんのだ。お前といるぐらいなら、不死身の化け物やらと一緒の方が遥かにましだ」

池「えー、そんなぁー」

恨みがましい目で私を見るな。そんな目で見ても意見は変わらんぞ。とそこへクラスの女子が集団を成し近づいてきた。

夜野「人見さん、今のは酷いよ。池君が可哀相だよ。池君は人見さんが心配で言ってあげたんだよ」

綾女「余計なお世話だ。それに化け物なんぞいる訳ないだろう? もしや信じておるわけじゃないだろうな?」

夜野「そ、そりゃそうだよ。噂は噂でしかないし、でも一人でいるのは危ないよ。人見さんは可愛いんだから、襲われるかもしれないよ? だから一緒に帰ったほうがいいよ」

綾女「だったら、夜野さんが一緒に帰ればいいだろう? 池君とやらと」

私がそう言うと夜野さんは顔を赤らめた。なぜかは分からんがこの男はもてるのだ。クラスの女子はみんな好意を抱いてるようだし。私は違うがな。

池「俺は綾女と帰りたいんだ」

綾女「名前で呼ぶな。馴れ馴れしいぞ!」

池「いいじゃん、幼馴染みなんだし」

綾女「良くないわっ! お前が馴れ馴れしくするから私はあいつに…………ぐすっ」

くそ、思い出してしまった。もう一週間も経ったんだぞ、いや一週間しか経っていないが正しいか。この男のせいで私は……夕日に振られたんだ。

綾女「うぅひぐぅう」

夜野「人見さん、泣かないでよ」

夜野さんが私の頭を撫でてくれた。優しい。

池「俺のせい?」

綾女「当たり前だ! お前が馴れ馴れしくするから、夕日にお前と付き合ってると勘違いされて、振られたんじゃないか!」

私は怒りを込めて睨んだ。と、その時、

夕日「別に勘違いで振ったわけじゃないんですが」

との声が聞こえ、私は振り返った。視線の先には夕日明――私が告白した相手――が立っていた。

綾女「夕日! 何でここに?」

夕日「人見さんに用がありましてね。ここに参った次第です。あと振ったのはただ単に好きじゃなかったからです」

私はショックを受けた。

池「おいお前、綾女に何の用だ?」

幼馴染みは庇うように私の前に立った。邪魔だ。

綾女「お前、私の前に立つな! それと名前で呼ぶな!」

池「酷いっ!」

夕日「池君でしたっけ? あなたに用はありません。邪魔です、どいてください。俺は人見さんに用があってきたんです」

池「二人とも酷い」

幼馴染みはわざとらしく泣いたふりをした。こっちを見るな、鬱陶しい。

綾女「私に何の用があるんだ?」

夕日「ここでは少し話し辛いので屋上に行きましょう」

夕日は私の手を取りさっさと歩き出した。後ろから騒ぐような声が聞こえたが、無視した。屋上に着くと夕日は私の手を離した。……残念。夕日は一息ついて話を始めた。

夕日「人見さん、不死身の化け物が出るという噂があるでしょう?」

綾女「あぁ、それがなんだ? 噂は噂でしかないだろう?」

夕日は首を横に振った。

夕日「噂ではありません。事実ですよ。不死身の化け物が出るのは」

綾女「はっ? 夕日何を言ってるんだ? そんなものいる訳ないだろう」

夕日「いいえ、いるんですよ。確実に。俺はそのことを伝えるために来たんです」

綾女「それを伝えて何の意味がある?」

夕日「人見さんが化け物に襲われるから」

夕日はとても真剣な目で私を見た。嘘をついているようには見えなかった。

夕日「人見さん、昨日あなたは『不死の殺し方、教えます』という看板を掲げた店の前を通り過ぎましたよね?」

綾女「な、何で知ってるんだ?」

夕日「あれ、俺の家だからです。人見さんが通った時、俺が店番をしていましてね。だから知ってるんです。そしてその時に気づいたんです」

綾女「何にだ?」

夕日「化け物があなたを狙っていることにですよ。俺の用というのはね、対処法を教えることです。よく聞いて覚えてくださいね」

夕日は懐から、札のような物を取り出した。

夕日「それでは『不死の殺し方、教えます』」

・・・

それから数時間後、私は不死身の化け物に襲われていた。私は逃げ回りながら、化け物を殺すための準備を整えた。私は夕日から貰った札に×印を描き、化け物に相対した。やれる、私なら出来る。私の名は綾女、化け物を殺めるぐらい簡単だ。私は化け物が迫ってくるのを待ち、私を喰おうと口を開けたところに札を突っ込んだ。途端、化け物はかん高い奇声を上げのた打ち回り、その命を失った。私は不死を殺せた。夕日の言うとおりの行動をして。私がしたのはとても簡単なことだった。不死と書かれた札の“不”の部分に×印を入れ、化け物に貼っただけ。夕日曰く――不死の“不”を消せば、“死”が残り、化け物は死に至る――。私は教えてくれた夕日に感謝しながら、家に帰った。明日夕日にお礼を言いに行こう。

・・・

俺は人見さんが無事に不死を殺したのを見て、店に戻った。店の中に入った途端、激しく扉を叩く音が聞こえ、扉を開けると怪我をした少女が立っていた。少女は俺を見ると、勢いよく迫ってきた。

客「不死の殺し方、教えるって本当ですか? もし本当なら教えてください。私今、不死の化け物に追われてるんです」

俺は少女を店の中に招きいれ、にっこりとほほ笑んだ。

夕日「分かりました『不死の殺し方、教えます』」

本日の売り上げは快調。