てんちゃんの大冒険

てんちゃん:
てんとう虫の子ども。歩き始めたばかり

てんちゃんのおかあさん:
てんちゃんと一緒にお散歩をする

かたつむりさん:
ばったさんを紹介する

ばったさん:
てんちゃんのおかあさんを助ける

いもむしさん:
かたつむりさんを紹介する


てんとう虫のてんちゃんが、今日もおかあさんとお散歩をしています。

あれあれ? またてんちゃんが葉っぱから落ちそうになってしまいました。

てんちゃんは歩き始めたばかりなので、まだ上手に歩けないのです。

あっちへふらふら、こっちへふらふら。けっしてまっすぐには進めません。

おかあさんはそんなてんちゃんと一緒に葉っぱの上を歩きながら、いつも落ちそうになったてんちゃんをひっぱりあげたりしています。

・・・

そんなある日、てんちゃんのおかあさんが、いつもの時間になっても起きてきません。

てんちゃんは心配になっておかあさんのベッドをのぞいてみました。

おかあさんは苦しそうにうめいていました。お顔が真っ赤です。

それを見ててんちゃんも、ちょっとお顔が赤くなってしまいました。

どうしたらいいのか、わからなかったからです。

「おかあさん、どうしたの?」てんちゃんは聞きました。

おかあさんは、何も答えず、苦しそうにしていました。

てんちゃんは困ってしまいました。

というのも、てんちゃんのおとうさんは、冬が来る前にたくさん餌をとるために、ちょっと遠くに出かけてしまったので、助けてくれる人が誰もいなかったのです。

・・・

「そうだ、この前のお散歩で出会ったいも虫さんに相談してみよう!」と、てんちゃんは思いつきました。

でも、ひとりでおでかけするのは、これが初めてです。

こわくてどうしたらいいのか、わかりませんでした。

もう一度おかあさんの顔を見ました。

おかあさんは目をつぶったまま、苦しそうにしていました。

「よし、いも虫さんのところに行こう!」てんちゃんは決心しました。

・・・

今度はころんでも、葉っぱから落ちそうになっても、助けてくれるおかあさんは、いません。

てんちゃんはこわくなって何度も後ろを振り返りましたが、それでもお出かけするしかありませんでした。

何度もころんで、何度も葉っぱからおちそうになりながら、ようやくいも虫さんのところにたどり着きました。

「やぁ、いも虫さん。ちょっと助けてほしいんだ。ぼくのおかあさんがお顔を真っ赤にして苦しそうにしているんだ。どうしたらいいんだろう。」

てんちゃんはいも虫さんに聞きました。

いも虫さんはちょっと困ってしまいました。

いも虫さんも、よくわからないからです。

いも虫さんは答えました。「そうだなぁ、ぼく、よくわからないよ。ごめんね。でも、きっとかたつむりさんに聞いたらわかるんじゃないかな。」

てんちゃんは聞きました。「かたつむりさんにはどこに行ったら会えるの?」

いも虫さんは答えました。「そうだなぁ、たぶんとなりのあじさいの葉っぱのあたりに居るんじゃないかな?」

てんちゃんはそれを聞いて言いました。「ありがとう! 行ってみるよ。」

・・・

いも虫さんと離れてから、となりのあじさいの枝に移るまでに、てんちゃんは3回も葉っぱから落ちそうになり、とうとう4回目で、本当に落ちてしまいました。

「あいててて。」痛くて涙がこぼれおちました。

この前おかあさんに飛び方を教わった時に、嫌がらずにもっと頑張っていれば、となりのあじさいまで飛んで行けたかもしれないのに。

てんちゃんは、急に悲しくなりました。

でも、おかあさんの顔を思い出して、もう一度立ち上がり、あじさいの枝をのぼっていきました。

しばらくすると、ようやくかたつむりさんに出会えました。

「やぁ、かたつむりさん。ちょっと助けてほしいんだ。ぼくのおかあさんがお顔を真っ赤にして苦しそうにしているんだ。どうしたらいいんだろう。」

てんちゃんはかたつむりさんに聞いてみました。

「そうかぁ、それはお熱があるのかな? おかあさんはおでこがあつかったかい?」かたつむりさんはてんちゃんに聞きました。

「うんっと、おでこはさわってないから、わからないよ。でも、お顔は真っ赤で苦しそうで、うんうんうなっていたんだ。ねぇ、助けて。」てんちゃんはかたつむりさんにお願いしました。

「そうかぁ。なんとか助けてあげたいなぁ。でも、ぼくはゆっくりしか動けないし、何もしてあげられないよ。残念だなぁ。でも、ばったさんなら助けてくれるかもしれないね。」かたつむりさんは答えました。

「ばったさんにはどこに行けば会えるの?」てんちゃんはかたつむりさんに聞きました。

「そうだなぁ、どこかなぁ。この前ばったさんと会ったのは、あじさいのとなりの草むらだよ。今日もそこに居てくれるといいんだけど。」かたつむりさんは答えました。

「わかった! 草むらだね。ぼく、行ってみるよ!」てんちゃんは迷わず、力強く答えました。

「ばったさんを見つけたら、すぐ声をかけてね。そしてまっすぐ早く近くに行くんだよ。ぐずぐずしていたら、すぐどこかへ飛んで行ってしまうから。」かたつむりさんは親切に教えてくれました。

「うん、わかった! ありがとう。ぼく、まっすぐ、早く、ばったさんの近くに行くよ!」てんちゃんは答えました。

・・・

てんちゃんは、せっかく苦労してのぼったあじさいの枝を今度は必死で駆け下りました。

「早く、早く、まっすぐ、まっすぐ!」自分に何度もそう言い聞かせながら、一生懸命駆け下りました。

ようやく草むらについてきょろきょろしていたら、急に風が吹いて、そのあとで緑色のかたまりが飛んできました。

ばったさんです。

「いそげ!」てんちゃんは自分にそう言い聞かせながら、一生懸命ばったさんにかけよりました。

「ばったさん! ばったさん! ねぇ、待って!」てんちゃんは一生懸命、まっすぐ進みました。

走る、というのとはちがいましたが、それでもいつもよりもずっとまっすぐ早く進みました。

ばったさんは首をくるっと回転させながらてんちゃんのほうをみて、少し待ってくれました。

「ばったさん、ばったさん、ちょっとお願いがあるんだ。ぼくのお母さんがお顔を真っ赤にして苦しそうにしているんだ。ねぇ、どうしたらいいんだろう。助けてくれない?」てんちゃんはばったさんに頼みました。

「うーん、お熱があるんだったら、このあじさいの葉っぱの露を飲ませてあげたら楽になるかもしれないね。ぼくがひとっ飛び、君のおかあさんのところに届けてあげようか。」ばったさんはそう答えました。

「えっいいの?」てんちゃんは今度はうれしくて泣きそうになってしまいました。

「うん、いいよ。それに、君も疲れているみたいだから、ぼくが背中に乗せていってあげるよ。さぁ、乗ってごらん。」と、ばったさんは言いました。

「さぁ、しっかりつかまっているんだよ。」ばったさんは言いました。

ばったさんの背中はちょっとつるつるしていて、しっかりと首につかまっていないと落ちてしまいそうでした。

「うん、つかまってる。おねがいします!」てんちゃんはこわくて目をぎゅっとつぶってしまいました。

ばったさんは大きな羽を広げてあじさいの枝のてっぺんの葉っぱまで飛び上がりました。

そして、葉っぱの露を上手に葉っぱでくるんで胸に抱えて、「さぁ、行こう。それで、おかあさんはどっちにいるんだい?」と、てんちゃんにたずねました。

てんちゃんは草むらと反対方向を指さして「あっち!」と答えました。

「よし、じゃあ行くよ。」とばったさんが言いました。

そして大きな羽を広げると、ひゅーっと音を立てながら飛びました。

てんちゃんは飛ぶのは、初めてです。

怖くてちょっと寒くて、どうしていいかわからなかったのですが、とにかく必死で背中につかまりながら、おうちへの道をばったさんに教えました。

・・・

ばったさんが5回飛んだあと、「さぁ、着いたよ、ここかい?」と言いました。

そこはおかあさんのいるおうちの前でした。

「うん、ここだよ。おかあさんはこのおうちの中のベッドで寝ているんだ。ばったさん、お願い、助けて」

てんちゃんは言いました。

「さぁ、急ごう」ばったさんは急いでおかあさんのところにかけより、あじさいの露を飲ませてくれました。

すると、みるみるうちにおかあさんの顔がいつもの優しい笑顔になりました。

「あ、おかあさんが元気になった!」てんちゃんが叫びました。

「あぁよかった」ばったさんも言いました。

おかあさんは、てんちゃんに、「どうしてばったさんが一緒にいるの?」と言いました。

そして、ばったさんとてんちゃんからこれまでのことをききました。

おかあさんはばったさんにお礼を言い、そしててんちゃんに言いました。

「で、てんちゃんは、葉っぱから落ちたりしなかったの? そんなに長く歩いた事なかったでしょう?」と。

てんちゃんは答えました。

「うん、いっぱいころんだり、落ちたりしたよ。痛かったよ。でも、おかあさんが心配で、ぼく、頑張ったんだ。お空を飛べたらもっと良かったんだけど。でも、まっすぐ早く進めるようになったんだよ。」と。

「じゃあ、おかあさんがもっと元気になったら、今度また一緒にお散歩しましょうね」とおかあさんは言いました。

てんちゃんはにっこりうなずきました。

そして、そのおとなりで、ばったさんもにこにこしながらゆっくりうなずきました。