メアリーの大冒険

メアリー:
女の子。喋る人形。

レイラ:
女の子。メアリーの持ち主。

鳥(とり):
流れ星の使い。


メアリーは旅をする人形です。元々はただの人形でした。あるとき彼女の持ち主のレイラが流れ星に願いました。

「私の大切な友達と話をしたい」

流れ星は願いを叶えました。メアリーはただの人形から生きる人形に、そう魂が宿ったのです。

レイラとメアリーはいつも一緒でした。メアリーが話せるようになってから、レイラの愛情はより深くなったのです。

彼女たちは家族よりも友人よりも恋人よりも濃密な時間を過ごしました。

ですが別れの時間は彼女たちが思うよりも早く訪れたのです。

メアリーの存在を不気味に思った両親が、レイラに内緒で人形をお店に売ってしまったのです。

レイラは大激怒。半身を引き裂かれたような思いにレイラは毎晩、涙が止まりませんでした。

そしてレイラは物言わぬ人と成り果ててしまったのです。

まるで人形のように動くこともなく、話すこともせず、ただただじっとしているだけでした。

両親は治療を試みるも失敗続き。

メアリーを売ってしまったことを深く後悔したのです。

レイラの両親はメアリーを取り戻そうとするも時すでに遅く、人形は姿を消していました。

・・・

メアリーはレイラの両親に売られた後、お店に飾られていました。

しかし喋る人形を客は不気味に思い、店主はメアリーを別の場所に売り払ったのです。

その場所はレイラの住む町から何十キロも離れたところにありました。

メアリーはレイラと会いたいという気持ちでいっぱいでした。

そして彼女は決意します。――レイラに会いに行こうと。

お店の倉庫から脱走したメアリーの大冒険が幕を開けました。

・・・

お店の外に出たメアリーは、とぼとぼと歩き続けます。

自分がどこにいるのか、レイラがどこにいるのか、何も分からないメアリーの心は不安でいっぱいでした。

歩けど歩けど知らない風景ばかり。小さな人形であるメアリーにとって、何時間も歩き続けるのは大変でした。

日が昇り、日が暮れる光景を三度繰り返した日、とある看板が目に飛び込んできました。

その看板にはレイラの住んでいた町の名前が書かれていたのです。

メアリーは歓喜の気持ちでいっぱいになりました。進むべき道は間違っていなかったのです。

看板には「この先七キロ」と書かれていました。

三日三晩、歩き続けたメアリーは三キロの道のりを歩いていたのです。

メアリーは走るように看板が示す先へ足を進めました。

人形の足では何日かかるか分かりません。

それでもメアリーの胸には希望が湧き上がっていたのです。

一日後、メアリーの目前には大きな壁が立ちはだかっていました。

何段あるかも分からない階段。

メアリーの体ではのぼるのが難しい段差。

しかしこの階段を乗り越えなければ、レイラの住む町に行くことはできません。

数十分経っても一段すら登ることができず、途方に暮れていました。

そんなとき大きな影がメアリーの後ろに現れたのです。

ビックリしたメアリーが振り向くと、そこには目をキラキラさせた女の子がいました。

女の子は不思議そうにメアリーを見ています。

「どうしたの?」

女の子は言いました。

「階段をのぼりたいの」

メアリーの言葉に女の子は胸をドンと叩きました。

まるで私に任せてと言っているようです。

女の子はメアリーを手で掴み、颯爽(さっそう)と階段を駆け上がりました。

「きゃああー!」

突然のことにメアリーは声を上げてしまいました。

女の子は怯むことなく、のぼっています。

ぐるんぐるんと振り回され、段々とメアリーは気持ち悪くなってしまいました。

「とうちゃーく!」

女の子はピタッと止まりました。

「ありがとう」

メアリーはお礼を言います。

「どういたしまして!」

女の子は満面の笑みを浮かべ、去っていきました。

その日の夜、メアリーは公園の片隅で休んでいました。

夜空には星がキラキラと輝いています。

しばらくすると一筋の光が降り注ぎました。それは流れ星でした。

メアリーは流れ星にレイラに会いたいと願いました。

するとバサバサという音が。

次の瞬間、メアリーは空に羽ばたいてました。鳥が口にメアリーをくわえたのです。

鳥はメアリーを離すことなく、夜空を駆け抜けます。

メアリーがじたばたと動いて逃れようとしますが、鳥は放すそぶりを一切見せません。

メアリーは諦めて、鳥に身を任せることにしました。

空の町の光景を眺めていると、見覚えのある家が目に飛び込んできました。

「レイラの家!」

メアリーは鳥の体をペチペチと叩きました。

「降ろして!」

鳥はレイラの家に向かって、下降を始めました。そのスピードはどんどん加速していく一方です。

「ぶつかる。止まって」

焦るメアリーですが、鳥は一向に言うことを聞きません。

鳥は旋回を始め、開いている窓に向かって一直線に飛び込みました。

隙間を潜り抜けた鳥は、どんと部屋の壁にぶつかり停止します。

そしてまるでつばを吐くように、メアリーを口から放しました。

「メアリー……?」

メアリーはぱっと起き上がります。

辺りを見回すと、びっくりした表情でこちらを見つめるレイラがいました。

「レイラ!」

「メアリー!」

二人は強く抱き合います。もう離さないとでも言うかのように。

鳥はその様子を眺め、そっと部屋を出て行きました。

「メアリー、ごめんなさい」

「レイラ、いいのよ。もう一度会えたんだから」

二人はこれまで以上にお互いを思うようになりました。