美代ちゃんと割れない風船

美代ちゃん(みよ):
五歳の女の子。ちょっぴり風船が苦手。

美代ちゃんのお母さん:
三十歳の女性。

どんぐりおじさん:
五十歳の男性発明家。

ぺんぎん:
オスのぺんぎん。


――パァアーン!!

お母さんに買ってもらった風船が割れちゃいました。

でも美代ちゃんは風船の割れたことを悲しむよりも、大きな音を立てて割れる風船に驚いてしまい、それから風船の音が大嫌いになってしまったのです。

「美代ちゃん、お買い物に行きましょうか」

「うん、ママ」

美代ちゃん、今日は大好きなお母さんと買い物です。いつもお母さんとよく行くスーパーでは可愛らしいクマさんが赤や青、黄色など色とりどりの風船を配っています。

「美代ちゃん、あの風船貰ってきたら」

お母さんが言います。だけど、美代ちゃん、もう風船なんて欲しくありません。

「いらない!」

美代ちゃんはちょっと怒った顔でそう言います。

「あらあら、美代ちゃん、どうしたの? 前はあれだけ欲しがっていた風船なのに、どうしていらないの?」

そうお母さんが言うと、美代ちゃんは

「だってパァアンッて私を驚かせるんだもの」

「そっか。美代ちゃんはもう風船のこと嫌いになっちゃったのね」

お母さんはちょっぴり悲しくなってしまいました。だって子供の頃のお母さんは風船が大好きだったのですから。

そこでお母さん、なんとか美代ちゃんにもう一度風船を好きになって貰おうと近所の発明家どんぐりおじさんのところへ相談に行くことにしました。

「どんぐりおじさんこんにちは。ちょっと相談があるのです」

「おやおや、これは美代ちゃんのお母さん、どうしたのですか?」

お母さんはどんぐりおじさんに美代ちゃんが風船を嫌いになっちゃったことを伝えました。そして割れない風船を作ってほしいとどんぐりおじさんにお願いしたのです。

どんぐりおじさん、これには困ってしまいました。だって風船は割れるのが当たり前です。割れるからこそ風船なのです。

でもいつも笑顔で挨拶をしてくれる可愛い美代ちゃんのために何とかしてあげたいと思い、早速その日から割れない風船を作るため、寝る間も惜しんで研究をしました。

「う~ん、どうしたら割れない風船を作ることができるんだろう?」

どんぐりおじさんさっきから一時間も悩みっぱなしです。

そして次の日も――

「う~ん、これじゃダメだなぁ……」

まだまだ割れない風船はできそうにありません。

またまた次の日も――

「う~ん、あともう少しなんだけどなぁ……」

おやおや、もう少しで割れない風船は完成しそうです。

とうとう一か月後――

「やった~! できたぞぅ! 割れない風船が完成した! これなら鳥が突いても犬が噛んでも絶対割れないぞぅ」

まあ、なんと割れない風船が完成したのです。どんぐりおじさんとっても喜んでいます。

早速美代ちゃんのお母さんにその割れない風船を持って行ってあげたどんぐりおじさん。

「まあ、どんぐりおじさんありがとうございます。これで美代ちゃんも風船をまた大好きになってくれるでしょう。本当に割れない風船を作ってくれてありがとう」

お母さんはどんぐりおじさんに何度もそうお礼を言いました。

そしてお母さんは美代ちゃんに割れない風船をプレゼントしたのです。

「美代ちゃん、この風船なら絶対に割れないから怖くないわよ」

お母さんが言うと美代ちゃんは恐る恐るその風船を手に取ります。

「うわぁ~、本当だぁ! この風船なら怖くない!」

「美代ちゃん、これで風船のことをまた好きになったんじゃない?」

「うん、だ~い好き!」

その日から美代ちゃんは割れない風船とどこへ行くにも一緒。お友達と遊ぶ時にもお母さんと買い物に行く時にも、夜寝る時にだって傍(そば)に置いてあります。

一度お風呂にまで持って入ろうとして、お母さんにちょっぴり叱られちゃったこともあったくらい、いつでもどこでも美代ちゃんと割れない風船は一緒にいたのです。

こうして美代ちゃんはずっとずっと割れない風船を大切にしながら、すくすく大きく育っていきました。

そして美代ちゃんは、今では立派なお姉さんです。もう風船が割れたって怖くも何ともありません。

でもやっぱ美代ちゃんはお姉ちゃんになっても割れない風船のことが大好き。

そんなある日、お姉ちゃんになった美代ちゃんのところに一匹のぺんぎんが訪ねてきました。そのぺんぎんは美代ちゃんの持っている割れない風船の噂を聞きつけてやってきたようです。

「ねえねえ、君は割れない風船を持っているんだろう? それを僕にくれないかい?」

ぺんぎんはそんなことを言います。

「え? 私の割れない風船が欲しいの? どうして?」

美代ちゃんは不思議そうにそう言います。するとぺんぎんは

「僕はね、どうしても空を飛びたいんだ。僕だって鳥の端くれさ、あの大空を一度くらい自由に飛び回ってみたいんだ。その割れない風船さえあれば僕だって空を飛べるだろう?」

なるほど、ぺんぎんは風船を使って空を飛びたいようです。

「そっか。ぺんぎんさんはお空を飛びたいんだね。わかった、それならこの割れない風船をあげる」

美代ちゃんはそう言って大切な大切な割れない風船を、そうっとぺんぎんに差し出しました。

「ありがとう! これで僕も空を飛べる。この割れない風船をお腹に括り付けたら、僕だって空を飛べるんだぞぅ!」

こうしてぺんぎんは美代ちゃんに手を振りながら、大空を羽ばたいていったのです。

割れない風船とお別れした美代ちゃん、ちょっぴり寂しそうですが、もうお姉ちゃんなので割れちゃう風船も怖くはありません。

それにぺんぎんのお友達だってできたのですからね。

今頃、割れない風船をお腹に着けたぺんぎんは、大空を飛び回っていることでしょう。

ところで君は割れない風船ってどんなだと思う?