いつきのアイドル事情

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いつき:
アイドルグループ「MIS」のリーダー

みゆき:
アイドルグループ「MIS」のメンバー

さつき:
アイドルグループ「MIS」のメンバー

マネージャー:
「MIS」のマネージャー


いつき「みんな~! 私たちのライブに来てくれてありがとう!」

私は観客席に向かって大きく手を振った。

客は満員だ。といってもこのライブハウスは500人までしか動員できない。そのことを鑑みると客の数は少ないと言えるだろう。小さなライブハウスでしか活動できないのだから、仕方ない事ではあるけれど。

私はアイドルグループ『MIS』のリーダーだ。メンバーの頭文字から取った。

いつき「まずはメンバーの自己紹介からだよ!」

私は手を右に向けた。

みゆき「食べることが大好きないつきです!」

みゆきは笑顔で観客に向かって大きく手を振った。観客席からは『みゆき! ひゅー!』と聞こえてくる。

私は手を今度は左に向けた。

さつき「料理が大好きなさつきです!」

さつきは片足を上げながら、満面の笑みで観客に手を振る。『さつき! ひゅー!』と聞こえてきた。

いつき「そして神に作詞の才能を与えられたいつきです!」

私は観客に向かって大きく両手を振った。しかし、『……いつき、いぇーい』というやる気のない声しか聞こえてこなかった。なんで私の時だけ、こんなにテンションが低いのだろうか? 私は他の二人と違ってまったく人気がないのだろうか?

しかし、私がいなければこのグループは成立しない。なぜなら私が作詞と作曲を担当しているからだ。私一人いれば事足りると言っても過言ではない。まあ、私だけだと500人のライブハウスですら満員にできないけれど。

いつき「それじゃ、一曲目を歌うよ! 一曲目は『大きな耳あか取れた』です! 耳の穴かっぽじってよく聞いてね! 耳だけにね!」

観客は一瞬にして静まり返った。思いっきりすべった。そこは空笑いでもいいから笑ってほしかった。じゃないと恥ずかしすぎる。居たたまれない。

いつき「……急に耳がかゆくなったぁ~どうしてだろう~全然耳掃除ぃ~してないからかなぁ~」

私はとりあえず歌って恥ずかしさを吹き飛ばすことにした。すべった事実はもう消すことはできないから、そのことは考えないことにする。人の噂も七十五日と言うし、忘れてくれるだろう。……七十五日だって? けっこう長い。

みゆき「やっぱりぃ~耳掃除はぁ~必要だねぇ~」

みゆきのパートになった途端に観客が盛り上がった。私の時は盛り上がらなかったのに。歌詞を考えたのは私なのに。

さつき「指を突っ込んでぐるぐるするぅぅ~けれどぉ~耳あかはぁ出てこない~」

さつきのパートも盛り上がっている。正直羨ましい。

いつき「キミはぁかくれんぼのぉぉ~天才だねぇ~気配を消すのが上手だね~」

私のパートになった途端、急にお通夜みたいな空気になった。誰も死んでないはずなんだけど。もしかして観客の中では私は死んでいるのか?いや、私があまりにも歌が上手いから、絶句しているのかもしれない。

みゆき「でも負けないよ~所詮キミは私の一部に過ぎないものぉぉ」

さつき「私はぁご主人~キミは従者に過ぎないのぉ~」

観客はかなり盛り上がっている。私の時もそれくらい盛り上がってほしいものだ。

いつき「たとえ耳がぁぁ血まみれになろうとも~ぉ必ずキミを取るっっ」

バリボリと聞こえてきた。誰かお菓子を食ってる? ライブの最中なんだけど。

みゆき「それがぁご主人たる私のぉぉ~使命なのだからぁ」

さつき「指を突っ込んでぐるぐるするぅ~けれど~耳あかは出てこないぃぃぃ」

いつき「キミはぁかくれんぼの天才だね~~気配を消すのが上手だね~~」

いよいよラストスパートだ。

みゆき・いつき・さつき「大きな耳あかぁ取れた~次回のぉ~耳掃除までお預けだぁ~次も負けないよぉぉぉぉ」

観客席から大きな拍手が聞こえてきた。しかし、それはみゆきとさつきに対する拍手であって、私に対する拍手ではないだろう。

いつき「続いての曲は『もっと私にセリフを』です」

音楽が流れだした。

いつき「私はぁぁ神のシステムには逆らうことができない~」

みゆき「所詮~神の手ごまに過ぎないのだからぁぁ」

さつき「でも~始まりの町ですぅぅ以外のセリフも言ってみたいんだぁ~」

みゆきとさつきへの声援は聞こえてくるが、私への声援はない。一人でもいいから私を応援してほしい。

いつき「セリフがあるだけマシかもしれないぃ~けれどぉぉそれじゃぁぁ満足できないんだ~」

みゆき「同じセリフを~言い続けるのはもうイヤなんだよ~~」

さつき「神のシステムに~縛られたくないんだ~」

一曲目と同様かなり盛り上がっている。

いつき「私の人生は~神のシステムに則っていたぁぁ~」

みゆき「決められたレールの~上を歩くのはもうごめんなのぉぉ~」

さつき「これからは~自分の人生を歩いていくぅぅぅ」

観客はうちわを振っている。うちわにはみゆきとさつきの写真が貼り付けられているが、私の写真は一つもなかった。自分で言うのもあれだけど、この三人の中では私が一番可愛いと思うんだけどな。

いつき「セリフがあるだけマシかもしれない~けれどぉぉそれじゃぁぁ満足できないんだ~~」

みゆき「同じセリフを~言い続けるのはもうイヤなんだよ~~」

いつき・みつき・さつき「一度でいいからたくさんのセリフを言いたいっもっと私にセリフをぉぉぉ~」

パチパチと盛大な拍手が聞こえてきた。

いつき「ここからはですね。観客のリクエストに応えて歌っちゃいます! 歌ってほしい人を指名してね!」

観客は次々とリクエストするが、指名されるのはみゆきとさつきばかりだ。





マネージャー「やっぱり男のいつきをアイドルグループに入れるのは無理があったか……次回からはみゆきとさつきだけでユニットを組ませた方がいいかもしれない」

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