吸血鬼になりたかった少女

吸血鬼:
僕口調のわりに意外と毒舌

少女:
自分に絶対的な自信を持つ


吸血鬼「僕を退治しに来たのかい?」

少女「私が吸血鬼を倒せると思う? あなたの目って節穴なのかしら」

吸血鬼「見た目じゃ判断できないよ。子供に見えて、実は1000歳だった。なんてことが何度かあったからね」

少女「安心しなさい。私は正真正銘、ただの人間よ。ハンターでもないから、吸血鬼を滅ぼすこともできないわ」

吸血鬼「だったら君は何しにここへ来たんだい?」

少女「決まってるじゃない! あなたと同じになるためよ」

吸血鬼「吸血鬼になるつもりかい?」

少女「えぇ」

吸血鬼「なぜ?」

少女「面白そうだから。それ以外に何の理由があるっていうの?」

吸血鬼「面白そう……ははっ。いいね、気に入った。お望みどおり吸血鬼にしてあげるよ」

少女「本当! 嬉しいわ」

吸血鬼「我慢してね。少し痛いと思うから」

少女「んん!」

吸血鬼「じゅるじゅる」

少女「あっ」

吸血鬼「ごちそうさま。おめでとう。君は晴れて吸血鬼だ」

少女「えっ? もう?」

吸血鬼「そんなに驚くことかい?」

少女「吸血鬼になった感じしないんだけど?」

吸血鬼「手鏡持ってる?」

少女「持ってるけど、それがどうしたの?」

吸血鬼「君はまったく気づいてないみたいだけど、ちゃんと変化してるよ。君の歯は今僕のように鋭く尖っている」

少女「早く言いなさいよ。どれどれ……私、鏡に映ってないんだけど」

吸血鬼「そりゃそうだろうね。吸血鬼は鏡にはまったく映らないから」

少女「早く言ってよ!」

吸血鬼「吸血鬼になりたいと言った割には、何も知らないんだね」

少女「うっ……」

吸血鬼「まぁいいさ。でもこれで分かっただろ。君は正真正銘、吸血鬼だ」

少女「ようやく吸血鬼になれた。ふふっ、これで私の美貌は永遠のものね」

吸血鬼「ん? 美貌?」

少女「そうよ。だって私って可愛いでしょ。美人でしょ。男はみんな私の虜と言っても過言ではないわ。でも私は人間、いずれ衰えてしまうかもしれない。私の美貌が失われるのは、世界にとって大きな損失。だから私は不老不死になろうと思ったの。吸血鬼になろうと思った理由は自分のためじゃない。世界のためよ!」

吸血鬼「あー、そういう感じなんだね君って」

少女「何よ! 何か文句でも?」

吸血鬼「んー。確かに君は可愛いと思うけど。でも飛びぬけて美人というほどじゃないよ。そこそこキレイって感じだ。よくそこまで自信満々になれるよね。世界の損失と言えるほどのルックスじゃないでしょ? 自分が見えていないんだね。鏡をよく見たら? ……って無理か。吸血鬼になったら鏡に映らないし。残念だ。君は自分の価値を知ることなく、生き続けることになるんだ」

少女「はっ!? 何を言ってるのよ。私がそこそこなわけないでしょ! 私より上の女なんていないわよ。絶世の美女なのよ私は。あなたに見る目がないだけでしょ。そこまで言われる筋合いはないわ!」

吸血鬼「気を悪くさせてしまったのなら、謝るよ。でも僕は思ったことを言ったまで」

少女「むかつく男ね」

吸血鬼「事実を言ったまでだよ。僕だって君に怒られる筋合いはない」

少女「……ねぇ、吸血鬼には確か魅了の力があったわよね?」

吸血鬼「あるよ。でもそれがどうかしたのかい?」

少女「決めたわ! あなたを私の虜にしてやる!」

吸血鬼「はい?」

少女「私にはプライドがあるの。ズタズタにされたままじゃ引き下がれないわ。教えてあげるわ。私の美貌にどれほどの価値があるのかを」

吸血鬼「えー」

――数ヵ月後。

吸血鬼「しつこい人だね、君も」

少女「頑固な人ね、あなたは。いい加減、私の魅力に気づきなさいよ」

吸血鬼「君は人の世界では魅力的だったかもしれないけど、吸血鬼の世界ではそうでもないよ」

少女「……」

吸血鬼「おや? 反論しないのかい?」

少女「まだ数ヶ月しか吸血鬼の世界で生きてないけど、分かったことがある」

吸血鬼「何が分かったんだい?」

少女「生まれながらの吸血鬼はイケメンとか美女とかそのレベルにない。なんなのあれ。人智を超えた美しさじゃない。誰も私に見向きもしないどころか、比べられて鼻で笑われるのよ。信じられない。人間だった頃が懐かしいわ」

吸血鬼「吸血鬼は妖しい魅力を持つ者が多いからね。仕方のないことだ」

少女「あなたが私に魅力を感じない理由も分かったわ。あんな女性が周りにいるんじゃ、私なんてちっぽけな女にしか見えないでしょうね。自分が恥ずかしいわ。バカみたい。井の中の蛙だったのね私。世界の損失になるって言ったこと後悔してるわ」

吸血鬼「ようやく分かったかい。自分の価値が。吸血鬼から見れば、人間の美しさなんてたかが知れてる。よく分かっただろ? 人間の中では上位でも吸血鬼の中では中くらいなんだよ君は」

少女「傷つくことばかり言わないでくれる。私は乙女なのよ。少しくらい優しい言葉をかけようとは思わないの? だから彼女できないのよ」

吸血鬼「痛いところをつかないでくれるか。というかね、僕に恋人ができないのは君のせいだよ」

少女「はぁ? 人のせいにしないでよ」

吸血鬼「君が僕につきまとうから、他の吸血鬼が寄ってこないんだよ。いい迷惑だよホント」

少女「……つきまとってなんていないわよ」

吸血鬼「現在進行形でつきまとっていると思うけど」

少女「……悪かったわね! 迷惑なんでしょ! もうつきまとわないわ! 一緒にいたって……あなたは私に魅力を感じないんでしょう」

少女は力なく呟き、背を向けた。

吸血鬼「どこに行く気だい?」

少女「私に魅力を感じてくれる人がいる場所へ」

吸血鬼「ふーん。だったら別に行く必要ないじゃないか」

少女「えっ?」

びっくりしたように少女は振り向く。吸血鬼はニタリと笑った。

吸血鬼「君が言ったんだろ。僕を虜にするって。君がつきまとうからいけないんだ。責任は取ってもらうよ」

少女「ど、どういう意味よ」

吸血鬼「ははっ。世界がどうかなんて知らない。君が人間だったとき、周りにいた男がどう感じていたかなんて知らない。僕が言えるのは、僕が分かるのは、自分の感情だけだ」

少女「……」

吸血鬼「君がいなくなるのは……僕にとっては大きな損失だ。僕は君に惹かれているんだと思う。ルックスどうこうじゃなく、君自身に」

少女「いいの? 側にいていいの?」

吸血鬼「あぁ、僕の側にいてほしい」

少女「あなたを魅了するつもりだったのに……いつの間にか私のほうが惹かれてた。多分最初に会ったときからずっと、私はあなたの虜だったんだと思う」

吸血鬼「僕だって君の虜だ」

吸血鬼「誇るといいよ。君は最強の吸血鬼だ」

少女「なぜ?」

吸血鬼「なにせ――」

吸血鬼「――ヴァンパイアロード(吸血鬼の王)である僕を魅了したんだから」