マチコとマチオ

マチコ:
マッチを売っている。

マチオ:
マチコの弟。


マチコ「マッチは入りませんか? 今なら半額ですよ? お買い得です!」

私はは毎日のように路上でマッチを売っていた。しかし、誰一人として足を止めることはなかった。チラリと目をやるだけでそのまま素通りする。

私のような美少女を一チラミだけで済ますなんて、きっと崩れた顔の女が好きなのだろう。

マチコ「こんな寒い日にはマッチが必要だと思うんです。シャカッとするだけで火がつくんですよ。ほんのりと温まるんです。これを買わないなんて人生損しちゃいますよ?」

自分で言っといて何だけど、この程度で人生が損するわけがない。この時世にマッチは売れない。湿気があればいくらシャカッとして火はつかない。それならば他の道具で代用するだろう。

数時間粘ったが、今日もマッチは売れなかった。

少し肌寒くなってきたから、私は諦めて帰ることにした。

マチコ「ただいま、ご飯はできてる?」

マチオ「お帰り、お姉ちゃん。ご飯はテーブルの上に置いてあるから」

マチオはそう言いつつ、ライターを使ってタバコに火をつけた。

私はあまりの衝撃に腰が抜けそうになった。

マチコ「マチオ! 何でライターを使ってるのよ! 私たちは代々マッチ売りの家系なのよ? ライターを使うということはつまり先祖を裏切る行為にも等しいのよ? 先祖に申し訳ないと思わないの? 情けないったらありゃしないわ」

私はマチオの行為に呆れながら椅子に腰かけた。ギロリとマチオを睨み付け、私はライターでタバコに火を点け、一服した。

マチコ「ぷはぁ~」

マチオ「……ライター使ってるじゃねえか」

マチコ「あら、ヤダ。私としたことがマッチではなく、ライターを使うなんてね。でもライターの方が手っ取り早いからね。今はマッチではなく、ライターの時代だわ。誰よ、マッチはいつの時代でも売れるなんて言ったの」

私はタバコを灰皿に押し付け、テーブルに置いてあったパンを齧った。

マチオ「お姉ちゃんだよ! マッチは頭の体操でよく使われるから、きっと売れるに違いないって言ったじゃないか」

マチコ「……そうだったわね。当時の私をぶん殴ってやりたいわ。まったく売れないじゃない。ずっと売れ残っているわよ。当時の私はいったい何を考えてたのかしら?」

若かりし頃の自分に思いをはせる。あの時は本気で売れると信じていた。先祖はマッチを一つ残らず売っていた。私はその血を受け継いでいるのだから、きっと商才があると信じて疑わなかった。しかし、ふたを開けてみれば、私には商才がなく、マッチを売ることができなかった。

マチオ「この際、マッチはやめてライターを売ればいいんじゃないか?」

マチコ「私もできればそうしたいわよ。でもできないのよ!」

マチオ「なんでだよ? そうしたいならすればいいじゃないか?」

マチオは何も分かっていないようだ。しかし、それも仕方のない事だ。マチオは家事担当で、マッチ担当は私だから。

私は無言で押入れの前まで歩き、ゆっくりと開けた。

マチコ「在庫が大量に残っているからよ。まずはこれを何とかしないとライターに移行できないわ。どうやって処理すればいいのかしら?」

私は大量の箱にうんざりしつつ、思考を巡らせる。一気に処理できる方法はないものか?

マチオ「一気に燃やせばいいんじゃないか?」

マチコ「あんたバカじゃないの? これだけ量があるのよ? こんなのを燃やしたら、辺り一面は火の海よ? 大勢の人が住処を失うのよ? あんたにその責任が取れる? 無理でしょ」

マチオ「……ごめん」

マチオはしょんぼりとした表情で謝ってきた。少し言い過ぎただろうか?

マチオ「それじゃ、山で燃やすのはどう?」

マチコ「山火事になるわよ」

マチオ「それじゃ、どこで燃やせばいいんだ?」

マチオは頭を抱えて悩みだした。まず燃やすという発想から離れてほしい。燃やすことに執着しすぎだ。

私は再び思考を巡らせた。マッチを処理し、ライターに移行するにはどうすればいいだろうか? マッチではやっていけないし、ライターで生計を立てるしかない。

ふとある妙案が浮かんだ。この方法ならどうだろうか? これならマッチを処理できると同時にライターも売ることができる。人はおまけという言葉に弱い。この方法ならいけるはずだ。

マチコ「ちょっと頼みがあるんだけど、ライターを買ってきてくれない? 箱でお願いしたいんだけど」

マチオ「ライターを箱で買うのか? マッチはどうするんだ? まあ、別にいいけどさ」

私はマチオにお金を渡した。マチオはお金を持ってライターを買いに行った。

押入れからマッチが入った箱を取り出し、私は早速準備に取り掛かった。

・・・

マチコ「ライター要りませんか? 最新のライターですよ。今ならマッチもおまけでつけちゃいます。値段はたったの250円です。お買い得ですよ?」

これまで足を止めなかったことが嘘だったかのように、人が集まってきた。最新とおまけの言葉に反応したのを私は見逃さなかった。

そう私の妙案とは――ライターにおまけとしてマッチをつけて売ることだった。