勇者になりたい特進クラスと勇者になれない普通課コース

ファンタジー世界歴1506年――。

今迄の世の中では魔王1名、勇者1名というふうに規定が決まっていたが、ある時から「うちの息子も勇者になりたいのに1人しか勇者になれないというのは不公平だ!」というモンスターペアレンツが出現し、勇者になりたい人はみんな勇者になれるようになった。

その為、現在勇者は1万5000名いる。

しかしすべての勇者が勇者として大成できるわけではなかったため、高校ではとうとう勇者特進クラスができるようになった。

そう…勇者になったからといって人生成功するとは限らなくなったのである。

ハヤト「お前、勇者特進クラスなんだって?」

ユウヤ「ああ、そりゃもう将来絶対に勇者として成功したいからな」

ハヤト「俺なんか普通科だからちっとも勇者になれる気がしないぜ」

ユウヤ「え、お前も勇者になりたいの?」

ハヤト「そりゃそうだよ! けど特進クラス受験したら落ちちゃって…」

ユウヤ「あー…まあいまどきの勇者は頭が良くないとなれないからな」

ハヤト「そういうもんなの?」

ユウヤ「そりゃそうだよ。もう根性とヤル気とかじゃ魔王倒せないから」

ハヤト「マジかよ! 剣と魔法と冒険があれば勇者になれるんじゃないの!?」

ユウヤ「古い古い。今の時代の勇者はロジカル思考と自主性と学歴がモノを言うんだよ」

ハヤト「マジかよ!」

ユウヤ「因みに今日は、魔王を作る授業をするんだ」

ハヤト「は? 魔王を作る…???」

ユウヤ「そう。魔王というシステムがどのように構築されているか基礎から学び自らも作成してみるという授業なんだ。自ずと魔王の仕組みが理解できるようになる」

ハヤト「へえ…。けどそれって魔王を増やすことになっちゃわない?」

ユウヤ「まあ一時的にはね。でも僕らが授業で作成した魔王はちゃんと『打倒魔王シュミレーター』という訓練用シュミレーションゲームで活用されているんだ」

ハヤト「そうなんだ。なんか良くわからないけどすげーな」

ユウヤ「そうだ、お前勇者になりたいんだよな?」

ハヤト「まあそうだけど…」

ユウヤ「じゃあこのシュミレーションゲームを試してみないか?」

ハヤト「へ?」

ユウヤ「実はこのシミュレーションゲームはまだまだ改善の余地があって試作を繰り返している段階でもあるんだ。だからぜひ君みたいな勇者候補に実際に体験してもらって感想を聞きたいんだけど」

ハヤト「ゆ、勇者候補?俺が…?」

ユウヤ「ああ、そうだ」

ハヤト「でも俺、普通科コースだし…」

ユウヤ「そんなの関係ないさ。もしこのシミュレーションゲームで高得点をたたき出せば、成績はアレだけど実践的だと評価されて勇者への道が開かれるかもしれない」

ハヤト「マジかよ!」

ユウヤ「どうだ、やってみないか?」

ハヤト「やる! 俺やるよ!」

ユウヤ「そうこなくっちゃな!」

こうしてハヤトは、ユウヤたち特進クラスの生徒が作った魔王が住む、訓練用シミュレーションゲームを体験することになった。

因みにこのシミュレーションゲームは3Dの完全バーチャルリアリティである。

その中では普通の日常生活もあり、今迄通りの高校普通科に通うシーンもある。違いは勇者として魔王を倒すという部分だけである。もはや現実と相違ない。

ユウヤ「うーん、まさかこんなに簡単に騙されてくれるなんて。さすが普通科だな」

ヨウコ「ユウヤってば普通科の子だますとか悪魔みたいだよねー。あ、悪魔っていうより魔王か!」

ユウヤ「やめてくれ。僕は将来勇者の中の勇者になる男だぞ」

ヨウコ「わかってるよ~。でもハヤト君、もう二度と戻ってこれないんでしょ?」

ユウヤ「多分な。そもそもこのゲームは特進用だし、普通科のやつじゃ僕達が作った魔王すら倒せないさ」

ヨウコ「じゃあなんでいつも普通科の子をだましてゲームの中に放り込むの?」

ユウヤ「実験に決まってるだろ。どこまで魔王に対抗できるか試してるのさ。それが分からないと丁度良い強さの魔王が作れないだろ」

ヨウコ「ユウヤってやっぱり悪魔みたいだよね~。勇者になる予定なのに強い悪魔を作ろうとしてるんだもん」

ユウヤ「馬鹿だな。魔王は今や必要悪なんだ。魔王が存在しなければ勇者でいられない。勇者が勇者として生きていくためには魔王が必要なんだ。しかもすぐ倒される奴じゃ駄目だし、強くて倒せないままでも駄目…つまり丁度良い強さの魔王が必要だ」

ヨウコ「ユウヤって魔界と癒着してるよね~」

ユウヤ「ふふ、これも頭が良いからこそできることなんだよ。この世をコントロールできるのは僕みたいな頭脳の持ち主だけだからな」

ヨウコ「ユウヤってば素で魔王みたいだね~」

ユウヤ「ふふ、そんなに褒めるなよ」

ヨウコ「うーん、褒めてないんだけど…まあいっか!」

一方、ユウヤが魔界と癒着してそんな悪巧みをしているとは知らずシミュレーションゲームの中に放り込まれたハヤトは、命の危機に晒されるどころか、意外にも快適な生活を送っていた。

ハヤト「このシミュレーションゲーム、まじで現実みたいだな~」

ハヤト「外に出ると魔王がウヨウヨいて危険だし、今日も学校サボろっと!」

ハヤト「ゲームの中に入ってまで魔王倒すとかめんどくさいしな。俺はこの手持ちのスマホゲームで魔王倒すゲームでもやってれば満足だわ」

ハヤト「いや~この引きこもり生活快適だわ~。もう現実に帰るのや~めた!」

勇者になりたい願望はあるものの基本的にそんなの面倒だと思っていた普通課コースのハヤトは、引きこもっていてもまるで怒られないゲーム世界でのんびり暮らした。

特進クラスのユウヤの悪巧みは、普通科コースのハヤトにとってはまったく意味をなさないのであった…残念!

END