チーズバーガー

アキラ:
バンドで食べていこうとしている22歳の青年。バンドではギター担当で曲を作っている

サチ:
特に趣味もなく生活のためだけに働いているアキラの彼女。


サチ「疲れたぁ」

アキラ「いつも疲れてるね」

サチ「毎日つまらないんだから疲れる」

アキラ「だろうね」

サチ「チーズバーガー美味しいね」

アキラ「チーズバーガーが一番美味しい」

サチ「明日空いてる?」

アキラ「うん」

サチ「どこか行かない?」

アキラ「いいよ」

サチ「美術館に行きたくて。今クリムト展やってるから」

アキラ「そうなんだ。いいね」

サチ「知ってるの? クリムト」

アキラ「知らないけど」

サチ「だと思った」

アキラ「今曲作っててさ」

サチ「どんな?」

アキラ「最近ロックダメでしょ。かっこ悪くて。だからあえてロック全開の曲にしたくて」

サチ「売れそうなの作ればいいのに」

アキラ「それじゃロックじゃない」

サチ「そうなの?」

アキラ「そう」

サチ「めんどくさいなぁ」

アキラ「まぁね」

サチ「私もなんかやろっかなぁ……」

アキラ「いいんじゃん」

サチ「でもなんにもないしなぁ……」

アキラ「………」

サチ「昨日も起きて会社行って仕事して、帰ってきてご飯作って食べて寝ただけ」

アキラ「そうなんだ」

サチ「こんなのつまらないでしょ?」

アキラ「俺は無理」

サチ「だよね。なんかおもしろいことないかなぁ」

アキラ「なんで明日クリムト見に行こうと思ったの? 絵なんて珍しいよね」

サチ「クリムトいいでしょ。綺麗で。絵を見ればなにかやりたくなるかもしれないし」

アキラ「そうなるといいよね。クリムトあんまり知らないけど。名前しか」

サチ「女の人の絵が多いんだよ」

アキラ「そうなんだ」

サチ「明日楽しみにしてて」

アキラ「うん」

サチ「なんで働かなきゃいけないのかな」

アキラ「食べる為」

サチ「ほんとに?」

アキラ「普通はそう言ってるでしょ」

サチ「会社員つまんない」

アキラ「なら辞めればいいのに」

サチ「でも収入がなくなるの怖いし、毎月の収入が決まってないと不安だから」

アキラ「決まってるほうがおかしくない?」

サチ「そうかなぁ」

アキラ「そうだよ。それは誰かからお金を貰ってるってことで、その誰かに嫌われたり、何か他の理由で突然お金が貰えなくなることもあるんだよ」

サチ「そうなの? でもなぁ」

アキラ「だったら自分で稼いだほうがいい。収入がなくなるかもしれない不安もないし。稼がないと元々収入がないんだから。あってもなくてもわかりやすい」

サチ「うーん。でも辞めるの怖い」

アキラ「ま、いっか」

サチ「うん」

アキラ「バンドってさ、メンバーいるでしょ」

サチ「いる」

アキラ「けっこうめんどい」

サチ「なんで?」

アキラ「自分のペースでやれないから。だからバンドなんだけど」

サチ「そうなの?」

アキラ「いいときはいいんだけど、仲が悪くなるとさぁ」

サチ「まぁね。気にしなきゃいいんじゃない」

アキラ「気になるよ」

サチ「じゃあ辞めたら?」

アキラ「1人じゃバンドじゃないし」

サチ「そうだね」

アキラ「最近始めてることあって」

サチ「なに?」

アキラ「パソコンで曲作ってるんだよね」

サチ「へー。どんな感じの?」

アキラ「テクノっぽい曲」

サチ「いいね」

アキラ「何曲か作って、ネットで公開する」

サチ「できたら聞かせて」

アキラ「もちろん。ダンス系でも踊れない曲」

サチ「なんでダンス系なのに踊れないの?」

アキラ「だからいいんだよ」

サチ「よくわかんない」

アキラ「ダンス系だから踊れなくていい」

サチ「あ。そっか」

アキラ「そう。今格好悪いロックを作るのもそう」

サチ「あー。なるほど」

アキラ「それがかっこいいでしょ」

サチ「ちょっとわかってきた」

アキラ「でしょ。そうなんだよ」

サチ「ふふふ」

アキラ「おもしろいよね」

サチ「うん」

アキラ「アートって、無駄なものでさ。俺はアートだと思って音楽やってるから」

サチ「うんうん」

アキラ「だから役に立っちゃまずいよね」

サチ「そうかあ」

アキラ「そう。みんなが役に立つことを考えてやってるから、俺はアートをやる」

サチ「でも売れないでしょ」

アキラ「そうなんだよね。そこがね」

サチ「でもなんかやれそうな気がする」

アキラ「もうちょっとなんだけど」

サチ「うん」

アキラ「知らないけどクリムト楽しみになってきた」

サチ「でしょ。たぶん楽しいよ」

アキラ「芸術家って普段どうしてたんだろう」

サチ「どうだろうね」

アキラ「社交的なことやイメージを売り込む以外のとき」

サチ「地味なんじゃない」

アキラ「だよなぁ。ほんと地味だと思う」

サチ「うん。1人で絵描いてたり、地味だよ」

アキラ「そうだよね」

サチ「役に立っちゃいけないんでしょ、だって」

アキラ「そう。ダメ」

サチ「変なの」

アキラ「うん。いなくてもいいんだよ」

サチ「なのかなぁ」

アキラ「でも、いないとまずい」

サチ「言われてみるとそうかも」

アキラ「おもしろいと思うんだよ」

サチ「おもしろい。ほんと」

アキラ「コーヒーおかわりしたら? レシートある?」

サチ「あったと思う。捨ててないから」

アキラ「レシートとコーヒーカップ持っていくとお代わりできるから。金払うけど」

サチ「そうなんだ。でもいいや」

アキラ「そう」

サチ「チーズバーガーやっぱり美味しいよね」

アキラ「うん」

サチ「早く曲作ってよ」

アキラ「もちろん。できたら最初に聴いてよ」

サチ「いいよ。私売ろうかな」

アキラ「うん。売って。旅行行こうよ」

サチ「いいね。あったかいところに行きたい」

アキラ「うん。ゆっくりしようよ」

サチ「うん。そうしよう」