愛のためなら

執事:
姫様の付き人。男

姫様:
愛のためなら犠牲になること厭わない。女。

王子:
ヒーロー気質。男。

メイド:
口が悪い。女


執事「あんたを誰にも渡したくないって言ったらどうする?」

姫様「私になんて言ってほしいの?」

執事「別に何を言おうが言うまいが、あんたが隣国の王子に嫁ぐことには変わりない。これは余興だよ。俺とあんたの最後のな」

姫様「君らしくないよ。突然どうしたの?」

執事「……一抹の寂しさというべきか。幼い頃から、俺はずっとあんたに仕えてた。あんたの成長をずっと側で見てきた。だからかな、あんたと共に在れないことが寂しいんだ」

姫様「……私だって寂しいよ。君と離れるのは。誰よりも長い時間を一緒に過ごしてきたんだから」

執事「せいぜい楽しもうぜ。最後の時間を」

姫様「そうだね。君と過ごす最後の時間だ。記憶に留めなくちゃ」

執事「なぁ、もし仮にあんたが姫じゃなかったら、俺を選んでいたか?」

姫様「えっ?」

執事「忘れてくれ。無意味な質問だった」

姫様「――本音を言えば、私はずっと君といたい。いつまでも君と笑いあっていたいよ! ……でも無理なんだ。私が嫁がないとこの国は終わってしまう。故郷がなくなるのは辛い」

執事「すまない。あんたを悲しませるつもりはなかった」

姫様「気にしないで。君のせいじゃない。誰も自然には逆らえないんだ。水を支給してくれた隣国には感謝してる。王子様のおかげでこの国は死なずに済むんだ。だから私はいかないといけないんだよ。本音がどうあれ、嫁ぐしか道はないんだ」

執事「分かってる。あんたがどれだけ国を想ってるかぐらい、何年一緒にいたと思ってんだ。仕方のないことだって分かってる。今更何を言おうが無駄なこともな。だからこれは余興なんだ。お遊びなんだよ、ただの」

姫様「うん、そうだね。これはお遊びだ。真剣じゃない」

執事「あぁ、だから許してくれよ。最後の時間くらい、あんたを俺の好きにさせてくれ」

姫様「うん。私を君のものにして。他の誰かの元に嫁いでも幸せな気分でいられるように。私の中を君で満たしてほしい」

執事「お安い御用さ。なにせ俺はあんたの執事だからな」

姫様「さすが頼りになる男だよ君は」

二人は最後だからこそ本音で語り合った。

執事「俺はあんたのために、あんたを突き放す。さよならだ」

姫様「さようなら。私の大切な人」

――数日後。

王子「あぁ、姫様。ようやく会えたね。待ち遠しかったよ。あなたに会いたくて会いたくて、食事も喉を通らなかったんだ」

姫様「そうなのですか? 嬉しゅうございます王子様。私もあなたに会える日を楽しみにしていました」

王子「姫様! ……あぁ、僕は感動している。猛烈に感動してる。生まれてきて良かったと心の底から思うよ。僕は姫様に出会うため、ひいては愛するために生まれてきたんだ」

姫様「私も王子様に会えて良かったと思います。王子様がいなかったら、私の国はどうなっていたことか……。ありがとうございます王子様、我が国を救ってくれて」

王子「頭を上げておくれ姫様。僕たちは夫婦になるんだよ。救援くらいどうってことないさ。それに困っている人がいたら放っておけない性質なんだよ僕は。なんて言うのかな生まれながらのヒーロー気質なんだよね僕は」

メイド「あらあら。またバカ……ごほん王子様が頭の悪いことをぺちゃくちゃと抜かしてるわ。教育係としては見過ごせないわね。えい!」

王子「痛いよ。どこから持ってきたのさ、そのハリセン! っていうか今バカって言わなかった?」

メイド「あら親愛なる王子様に私がそのような下品な言葉を用いるわけないでしょ。もう耳までバカになったんですか王子様ったら」

王子「今確実にバカって言ったよね」

メイド「あらやだつい本音が。もうダメじゃない。私のお口、めっっ!」

王子「他のメイドつけてくれない?」

メイド「それはちょっと。他のメイドは王子様のおバカさに呆れ返っているので」

王子「君が変な噂話を広げたからだろ!」

メイド「王子たるもの部下の失態は大きな心で受け止めなくてはいけませんわよ」

王子「もうやだこの子!」

姫様「あの……王子様?」

王子「あっ……ごめんね姫様。この子はね僕専属のメイドで、姫様の身の回りの支度もしてくれるんだ。何か困ったことがあったらこの子に言ってね」

姫様「はい、分かりました。……仲がよろしいんですね」

王子「えっ、そんなことないと思うけど」

姫様「そうでしょうか? なんだか懐かしくなってきました」

王子「懐かしいって何が?」

姫様「……私にも付き人がいたんですよ。王子様たちを見ていたら、なんだか思い出してしまって」

メイド「姫様。あなたの付き人、私の元彼なんですよ」

姫様「……えっ?」

メイド「ごめんなさい嘘です」

王子「無意味な嘘は止めなさい!」

メイド「無意味かどうかは王子様次第かもしれませんよ」

王子「はっ?」

メイド「ねぇお姫様。どんな気持ちになりました? イヤな気持ちになりましたか? それって好きってことですよね? お姫様は愛する男を故郷に残し、王子様の元へ嫁いできたんですね?」

姫様「ち、違います!」

メイド「ダウト。姫様の目は物語っていますよ。真実だとね。どうします王子様?」

王子「……うーん。僕ってもしかして余計なことしちゃったのかな?」

姫様「そ、そんなことは」

王子「僕はね困っている人は放っておけない人間なんだ」

姫様「?」

王子「だからね姫様。本当の気持ちを言ってくれ。僕の元に嫁がなくても救援は止めないから。困ったときはお互い様、助けられるのなら僕は助けるよ。姫様、好きな人がいるんならその人の元に帰りなよ」

姫様「……いいんですか?」

王子「もちろんさ」

数日後、姫様と執事の結婚式が王子の国で盛大に開かれた。姫様は幸せそうに笑っている。

メイド「私が言うのもなんですけど、本当に良かったんですか? 好きだったんでしょ?」

王子「本当の気持ちを隠して僕と結婚しても彼女は幸せになれない。好きだからこそこの選択肢しかなかったのさ」

メイド「お人よしにもほどがありますよ」

王子「それはメイドもだろ。メイドが気づかなかったら、僕だって気づいていなかったよ。ありがとう、僕に間違った道を選ばさないでくれて」

メイド「……教育係ですから」

王子「ははっ。でも婚期がまた遅れちゃうなぁ。早く結婚しろって言われてるのに。どうしたらいいと思うメイド」

メイド「王子様はまず乙女心を勉強するのが良いと思います」

王子「何で怒ってるの」

メイド「怒ってませんよ。王子様なんて嫌いです」

王子「ちょっと待ってよー」