迷宮求深者 −Deep Diver− 第7話

●イリス:
冒険初心者の、エルフの少女。
パープルトゥルースというパーティに、迷宮第六階層で置き去りにされてしまうが、リュウヤとモトスに救われる。

●リュウヤ:
イリスが最初に出会った戦士。
炎を吹き出す剣と、ハイレベルの戦士ですら知覚不可能なほど速い剣術を使う。

●モトス:
リュウヤとコンビを組んでいる盗賊。
魔法が使え、ダガー(短刀)に魔法を込めて戦闘に利用したり、ワイヤーを用いた独特の戦術を行う。

●パープルトゥルース:
ライナス、テリー、ローレンス、ジュリアス、ヘレスの五人で編成されている、美形集団パーティ。
イリスの兄ドウラがかつて所属していたパーティで、一年前迷宮第六階層で全滅しかけた際、ドウラを見捨てて脱出した過去があった。
迷宮第四階層で、リュウヤとモトスにきついお仕置きをされる。


イリスが目覚めたのは、寺院の治療室内だった。

リュウヤ達に運び込まれた彼女は、眠っている間に、ワイトから受けたダメージの診察と治療を受けさせられていたのだ。

女僧侶「もう大丈夫よ、イリスさん。
以前よりちょっと力が出ないかもしれないから、念のため訓練場で、
ゆっくりトレーニングに励んでみてね」

イ「あ、あの、リュウヤさんとモトスさんは?」

女「あの二人なら、また酒場で飲み食いしてるわよ、きっと。
っと、そうそう、あなたに伝言があったんだわ。
メモメモ……っと」

イ「伝言?」

女「アリスへ。治療代は、モトスにツケておい——あ、こっちじゃない。
えーとね、お兄さんの遺品は宿に保管してあるから、後で確認してね
……だって」

イ「は、はい、ありがとうございます!」

女「まだ、続けるの? ここで」

イ「わかりません。今はまだ——」

冒険者にとっての総合病院的役割を果たす「聖ホールスティン寺院」から出たイリスは、リュウヤ達と利用していた木賃宿へ向かった。

カウンターに申し出ると、待っていたかのように一室へ案内される。

そこはリュウヤが利用していた部屋で、中は綺麗に片付けられ、床の上には麻布が敷かれていた。

その上には、兄・ドウラが身に付けていた遺品が、丁寧に並べられていた。

イ「!! こ、これは……」

遺品の脇に、古びた封筒が置かれている。

それは、ドウラがイリスに宛てた手紙だった。

生前出しそびれたものなのだろうか、その内容は、新しいパーティへの期待と、迷宮探索で新たな領域に潜行する意気込みが記されていた。

兄が、大きな希望を抱いたまま、あの塔まで進んで行っただろうことが、手に取るように理解出来る。

みるみるうちに、両目に涙が溢れて来た。

イ「……ありがとうございます、ありがとうございます……!!」

イリスは、兄の手紙を抱き、一人泣いた。

アリス「あんたらねぇ! もうちょっとだけ待ってくれれば、
あたしがもっと楽チンに進めてあげたのにさぁ!
水臭いったらありゃしないわ〜!」

モ「そうは言ったって、そんな余裕なかったもん。なあリュウヤ?」

リ「そーそー。なんせ一刻を争う事態だったんだから。
あ、んで、あの子、結局何者だったの?」

モ「あー、たまたまドウラを知ってる人が居てね、聞いといた。
彼ら、この大陸の北西部にあるエルフの街の出身者でさ」

ア「北西って、もしかしてエルフィリア? あの大きな水道橋のある?」

モ「そうそう、そこのイイとこのお坊ちゃんとお嬢ちゃんらしいわ」

ア「うっそ! そうなんだ!!」

リ「マジかぁ、どうりで、なんとなく気品があると思ったわ。
——って、おいモトス!」

リュウヤがモトスの肩を突き、酒場の入り口を指す。

そこには、パンパンに顔を膨らませたライナスを筆頭に、パープルトゥルースのメンバーが居た。

まるでこそこそと、身を隠すかのように、隅っこの席を探しているようだ。

思わず席を立とうとするリュウヤを引き止め、モトスは「しーっ」と指を立てた。

モ「役者が揃ったよ、ホラ」

ア「ありゃま!」

少し遅れて、今度はイリスが店に入ってきた。

見慣れた装備ではなく、今日は白いドレスのような綺麗な衣服をまとっている。

店主と何か話しているようだが、店主がひたすら頭を下げているだけで、何を言っているのかはわからない。

ふと見ると、パープルトゥルースのメンバーもイリスに気付いたようで、驚愕の表情で彼女を見つめていた。

モトスとリュウヤは、こっそり席を立つと、イリスの方へ静かに歩み寄った。

ア「あいつら、ま~たくだらないことしようとしてぇ……
ホント、ガキなんだから」

アリスは、特大ジョッキに残ったエールを一気に煽り、呆れた目で顛末を見つめた。

イ「御機嫌よう、パープルトゥルースの皆様」

イリスは、彼らの脇まで歩み寄り、笑顔で挨拶した。

無論、まともに返礼出来る者などおらず、全員顔が引きつっている。

イ「とりあえず、生還出来たことだけでも、ご報告しておこうと思いまして」

ラ「あ、ああ、それは……何より」

イ「あなた方は、今月から北西のエルフィリアに向かわれるご予定だったと、
先日お話されておりましたね?」

へ「え、ええ……」

イ「私も、兄の件を両親に報告する必要がありますので、よろしければ現地で
またお会いいたしましょう」

テ「へ、へぇっ?」

イ「私の父は、エルフィリア全地域を司っている領主です。
エルフィリアに冒険者の方々が参られた際は、必ず謁見を
お願いしておりますので、その際は何卒——」

ラ「ひ、ひぃっ?!」

ライナスをはじめ、パープルトゥースの一同は、全員怯えて椅子からずり落ちた。

小首を傾げるイリスの背後では、物凄くわざとらしい笑みを浮かべたリュウヤとモトスが、五人を睨みつけていた。

—–

いつの時代も、冒険者は金と名誉、探究心に突き動かされる。

大陸オーデンスの一王国キングダム・ブランディスの主要都市「ハブラム」にも、そういった輩が数多く集まってくる。

各々の欲望・目的の形は実に様々だが、共通していることが一つある。

それは——どうしてもここでやりたい「何か」がある、という事。

二十年の時を呑み込み、今も尚君臨する無秩序な暗黒空間「地下迷宮」。

その謎を解かんとして、今も尚、新たな志に燃える冒険者達が訪れる。

そして、そんな彼らとはちょっとだけ違った目的の者達も——

迷宮求深者 −Deep Diver−    完