【BL】完璧なカノジョ

久太郎(きゅうたろう):
主人公の男子高生

ハルカ:
久太郎のカノジョ

辰夫:
久太郎の中学時代の男友達


高校になったら絶対彼女を作る――それが久太郎の目標だった。
中学時代、周囲の男友達が続々と彼女を作りステップアップしていく中で、久太郎はただ一人取り残されたのである。

――こんな惨めな生活はうんざりだ!

そう思った久太郎は、高校入学直後から好みの女子にマシンガンのように告白していったが、残念なことに全て撃沈していた。
10…20…30…ああ、もうどれくらい告白しただろう? 恐らく2クラス分は告白したはずだ。しかし手ごたえがない。こんなはずじゃなかったのに…
そう意気消沈する久太郎にようやく春がやってきたのは、高校2年の夏のことだった。

久太郎「えっ、ハルカちゃん、俺とつきあってくれるの!?」

ハルカ「うん、いいよ」

久太郎「おお…まさかハルカちゃんみたいな可愛い子が俺と付き合ってくれるなんて! 夢みたいだよ!」

ハルカ「久太郎くんのこと好きだったから嬉しい」

久太郎「本当に!?」

ハルカ「うん」

久太郎(まさか合コンで知り合った女子高の子が彼女になるなんて!)

久太郎(神は俺を見捨てていなかった!)

久太郎は喜びのあまり、ハルカにプレゼントをしまくった。
バイトで一生懸命貯めたお金はすべてハルカとのデート代とプレゼント代に消えていったが、そんなことはもうどうでもよかった。
久太郎にとってはハルカという彼女がいるという事実が一番大切だったのだ。

久太郎「そうだ、もうすぐ夏休みだし一緒に旅行とか行きたいな」

久太郎「できれば二泊三日くらいで…そこで俺は初チューをするんだ…ぐへへ」

久太郎「けど二人きりだとハルカちゃんの両親にあやしまれるな…」

久太郎「よし。じゃあここはグループで旅行ってことにしよう! そうすれば怪しまれずに済むだろう」

久太郎はさっそく中学時代の男友達である辰夫に連絡した。
男子校に進学した辰夫とはその後も付き合いがあり、ハルカと知り合った合コンも辰夫が設定したものである。
ある意味、辰夫のおかげでハルカと出会えたといっても良いだろう。

辰夫「グループ旅行? へ~良いじゃん。じゃあ俺の彼女と4人で行くか」

久太郎「おお~ありがとう!」

辰夫「にしてもまさか久太郎に彼女ができるとはな~」

久太郎「ふふふ、俺を甘くみちゃいかんぜ」

辰夫「で、彼女どんな子なの? かわいい系? キレイ系?」

久太郎「まあ可愛い系かな。っていうか辰夫、知ってんだろ?」

辰夫「え?」

久太郎「ほら、お前が前にセッティングしてくれた合コンに来てた子だよ。ハルカちゃん。女子高に通ってるっていう」

辰夫「ハルカ…?」

久太郎「え、まさか覚えてないの? 目がくりっとしててさ、ロングヘアーの…」

辰夫「……ああ、アイツね! いたいた、そういえば……っていうか、え、お前ハルカと付き合ってんの?」

久太郎「だからそうだって言ってるじゃん」

辰夫「マジかよ! いや~…まあ別にお前が良いなら俺は文句言わないけどさ」

久太郎「なにそれ、どういう意味だよ?」

辰夫「いや…うん、まあ…」

久太郎「なんだよ、気になるな! まさか…実は彼氏がいるとかそういうことじゃないだろうな!?」

辰夫「それはないと思う。彼氏欲しいって言ってたし」

久太郎「はぁ、良かった…。じゃあ何?」

辰夫「俺の口からは言えないから本人に聞いてみれば? とりあえず旅行の件は俺が進めとくからさ」

久太郎「おう…」

久太郎(なんだよ辰夫のやつ、歯切れ悪いな。絶対何か隠してるだろ…)

そんなモヤモヤが募りつつも、ついに楽しい夏休みがやってきた。
待ちに待ったグループ旅行では、電車に揺られて有名な避暑地に向かった。
昼はカヌー、夕方はバーベキュー、夜は花火と存分に楽しんだ後は、ペンションの中でまったりとした時間を過ごす。
少しして辰夫とその彼女が同じ部屋に去っていくと、久太郎とハルカはようやく二人きりになった。

久太郎「ハルカちゃん、今日楽しかったね」

ハルカ「うん。明日も楽しみ」

久太郎「俺もだよ。まあ本当はハルカちゃんと二人きりで来たかったんだけどね」

ハルカ「…久太郎くんのエッチ」

久太郎「そ、そういう意味じゃないよ!? そりゃまあ、俺だって男だし、そういうのをまったく期待しないわけじゃないっていうか…」

ハルカ「じゃあ…キスして?」

久太郎「えっ」

ハルカ「ホントに好きならして…口に」

久太郎「く、口に……ごくっ…」

久太郎(きた…ついにこのときがやってきたぜ、頑張れ俺えええ!!!)

久太郎は口から心臓が飛び出そうになりながら、なんとかハルカにキスをした。
あまりに緊張しすぎて頭が真っ白になったが、まあなんとかミッションクリアした次第である。

久太郎「白状するとさ、女の子と付き合ったの初めてなんだ。だからキスも初めてで…下手だったと思うけど」

ハルカ「そんなことないよ」

久太郎「ちなみにハルカちゃんはキスするの初めてじゃなかった?」

ハルカ「ううん、ハルカも男の子とキスするの初めてだった」

久太郎「え、本当に?」

久太郎(辰夫がなんか隠してそうだったのって何だったんだ…?)

ハルカ「でもね、ハルカも久太郎君に言っておきたいことがあるんだ。聞いてくれる?」

久太郎「うん、なに?」

ハルカ「実はね、ハルカ……………男なの」

久太郎「…………ん?」

ハルカ「男なんだ、実は」

久太郎「え。」

ハルカ「本当は辰夫と同じ男子校に通ってるんだ。で、彼氏が欲しいから辰夫に合コンに連れてってもらったの。校内の男子にはよく告白されてたんだけど全員イマイチだったんだよね。やっぱり共学の男子と付き合いたかったし…」

久太郎「まてまて! 話についていけないんですけど!」

ハルカ「ついてきてくれないと困るんだけど」

久太郎「困るのは俺の方だよ! え、お前なんで男なのに女の格好してんだよ!?」

ハルカ「最近はやりの男の娘ってやつだよ。ハルカ可愛いから女の子の格好すごい似合っちゃうし、この方が男子に好かれるでしょ?」

久太郎「じゃあ単に女装してるだけで普通に男ってこと? そんで男が好きなの?」

ハルカ「そうだよ」

久太郎「あのさ………そういうのなんで先に言ってくれないんだよ!?」

ハルカ「だってこういうのって恋のかけひきでしょ?」

久太郎「どこがだよ! 困るよ!」

ハルカ「困るって…じゃあ久太郎、俺が男だって分かったらもう付き合ってくれないの?」

久太郎「当たり前だろ!」

ハルカ「ひどい…さっきのキスは嘘だったの?」

久太郎「嘘じゃねーけど! 俺やっと念願の彼女ができたってすごい喜んでたのにコレかよ!」

ハルカ「ハルカ、別に彼女でもいいよ。久太郎の前で女装し続けるから」

久太郎「そういう問題じゃないだろ!」

ハルカ「久太郎、ハルカのこと嫌いになっちゃったの?」

久太郎「いや……そういうわけじゃないけどさ…」

ハルカ「じゃあもうちょっと彼女でいさせて? 久太郎に別の彼女ができるまでで良いから」

久太郎「……わかった」

その日以降、久太郎は必死で新しい彼女を作ろうと努力した。
しかしハルカとデートすればするほど、周囲から「彼女めちゃくちゃ可愛いな」だとか「そんな彼女欲しい」だとか言われ、久太郎は段々と自分の気持ちがわからなくなってきてしまったものである。

ハルカは男だったが、彼女として完璧だった。
カワイイし料理も気遣いもできるし、その上ハルカの通う男子校はトップレベルの進学校でもあり頭も相当良かった。
もはや久太郎にとって、男であるという事実以外にハルカを手放す理由など存在していなかった。

そうして数年後――

女子「久太郎くん、ずっと好きでした。つきあってください…!」

久太郎「ありがとう。でも…ごめん。俺、彼女いるんだ」

女子「その人と別れて私と付き合ってほしいんです…!」

久太郎「それは無理だ。だって俺の彼女…完璧なんだ」

女子「え…」

久太郎「俺も悔しいけど、完璧すぎてもう離れられないんだ…!」

初めて女子から告白されるという奇跡に出会った久太郎だったが、その頃にはすでにハルカの完璧さに恋して抜け出せなくなっていたのだった。

END