ハントガールハント

男:
20代後半の会社員。パーティで知り合った彼女と同棲していたが、最近別れた。

美女:
深夜のバーにあらわれた謎の美女。男にしたしげに話しかけ、クイズで盛り上がるが……。


■深夜のバーカウンターにて

美女「にんにくが大嫌い」

男「んー、これは逆に、いや裏をかいて……。よし決めた。『本当』!」

美女「ブッブー、はずれ。吸血鬼はにんにくが嫌いという説、これは迷信です。まれに嫌いなやつもいるかもしれないけど、吸血鬼は基本的にニンニクを気にしません」

男「くっそー、じゃあ次の問題!」

美女「いきますよ。吸血鬼は――、太陽の光に弱い!」

男「うーん、これは、吸血鬼といえば有名中の有名な弱点じゃないか。ひっかけか? いやいや、むしろそう思わせることがねらい? 答えは……『本当』!」

美女「ファイナルアンサー?」

男「イエス、吸血鬼は太陽が苦手だ」

美女「正解!」

男「よっしゃー!」

美女「正解です。吸血鬼は太陽が苦手。嫌いというだけならまだしもだけれど、太陽に当たると身体が燃えて焼け死んでしまうわ。いくらふだん不死身とはいえ、夜中しか活動できないならプラマイゼロよね」

男「お姉さん、オカルトの話好きなんですね。これで、5問中3問クイズに正解しましたよ。約束通り、俺の部屋に来てくれるでしょ?」

美女「がっつき過ぎの男の人は嫌われるわよ」

男「いいじゃないですか。彼女が海外旅行中でさびしい思いをしてるんですよ。なぐさめてくださいよ」

美女「ふふふ、しかたないわね。約束だものね、ついていってあげるわ」

■マンションの前

男「ここ、こちらが俺のマンションです」

美女「へえー、見た目の割にいいところに住んでいるんじゃない」

男「でしょー、50階建ての高層マンションですよ。自慢するわけじゃないけど場所も40階越えでしてね。家賃はまぁーかなりのもんですが、窓からながめる景色はすさまじいものです」

美女「あら、ぜひ見てみたいものだわ」

■男の部屋の扉の前

男「あれ、なにぼーっとしてるんですか?」

美女「なにって、レディーを招くなら言うことがあるんじゃない?」

男「言うこと?」

美女「勝手に他人のおうちへ上がり込む、はしたない女と思ってるのかしら」

男「あ、失礼。どうぞ、お入りください」

美女「どうも、ありがとう。ところで、もう一問、クイズで遊ばない?」

男「え、はずれたら帰るなんて話はナシですよ」

美女「だいじょうぶ」

男「じゃ、どうぞ」

美女「問題です。吸血鬼は、所有者の許可がないと家に出入りできない。どーっちだ?」

女は紅色のくちびるを歪ませて笑った。口元からは、するどい牙がきらりとのぞいた。

■男の部屋の中

男「くそっ、何なんだよ、あの女」

男は片腕を切り裂かれて半身が血にまみれている。身体をひきずりながら、広い部屋の奥へと逃げていく。男の通った廊下には血がべったりと残っている。

美女「高層マンションはセキュリティが固いってのは迷信よね。いったん中に入ってしまえば、あとは追いつめるだけ、袋のネズミだもの」

男「はぁはぁ、俺は、バケモノを家までつれてきた、まぬけってことかよ」

美女「お部屋をきれいにしてるって本当なのねー。男のくせに、物もほとんど置いてないし、寝に帰るだけの部屋ってこと?」

女は余裕の表情で、ゆっくりと楽しむように、男のあとをついていく。

美女「だいじょうぶ、食事をするときは、まわりをできるだけ汚さないように気をつけるから。ん、あれあれ、困ったことになったわね。どうしてかしら」

女はしぶい顔をした。

美女「そういえば、あなた彼女が旅行中って言ってたわね。同棲していたのかしら。ということは、ここまでがゲストを招くことができるテリトリーで、いまあなたが逃げ込んだのはあなたのプライベートルームってところかしら?」

男「……」

美女「ね、お願い。入ってもいいでしょ?」

男「……」

美女「だんまりか。ま、そりゃそうよね。でもこのままにらめっこしていたら、どうなるかしら。あなたの傷、動脈までざっくりよ。もう立っていることすら難しいんじゃない。ゆっくりと失血死するより、私に食べられた方がいい死に方よ? これでも私、人間の目から見たら、芸能人とか比べものにならないくらいの美人だと思うけど」

男「……血が止まらねぇ」

美女「ちょっと、錯乱してるの? やめてよ、せっかく久しぶりの獲物なんだから。よしわかったわ、一つ取引をしましょう。あなたがこれからおとなしく食べられるっていうなら、あなたの彼女には手を出さないわ。それでどうかしら?」

男「……本当か?」

美女「本当、本当。吸血鬼ってプライド高いのよ。さすがにプライドをかけた約束を反故にすることはないから安心なさい」

男「そうか。もう俺は目もかすんできた。あんたみたいな美人に喰われるならって、思い始めてきたよ」

美女「まかせなさい。さ、早く魔法のことばを」

男「ああ……、【入ってきていいよ】」

美女「物わかりのいい男って好き。約束は本当に守ってあげるからね。彼女のお帰りはいつなの? それまでにはお部屋の汚れとかをきれいにしておいてあげるから。あなたは失踪ということにして」

男「彼女は帰ってこないよ。旅行中ってのは見栄を張っただけさ。先月に別れて、このマンションは――彼女の金持ちな父親が家賃を払ってくれていたんだが――引き払うことになってる」

美女「ふーん? え、ちょっと待ちなさいよ」

男「荷物はすべて送ってしまったし、カーテンもない広々とした部屋だろ。明日から新しい生活が始まるってワクワクしてた。最後に、高層階の景色を見ながら、美女と楽しく過ごそうって思っていたのに、くそっ」

美女「ねえ、私、この部屋から出られなくなってるんだけど?」

男「日付が変わったからな。もう、俺の部屋じゃない。管理人か、次の所有者に許可を求めないと、出入りはできない……そうだろ? もし君が吸血鬼という話を信じるならば、だけどね。……もう俺は目も開けていられない。あと数時間後に、この部屋にさし込む朝日は、それはそれは美しいものなんだ。もう見ることができないなんて残念だよ。どうか俺の代わりに楽しんでくれ」

美女「あの……、ねえ、話をきいて。もう一つだけ取り引きしない? 吸血鬼の血って、人間の傷くらいなら簡単に治せる効果があるんだけど――」

二人は、腹のさぐりあいをしながら話し合った。

結果、夜明けの前に、吸血鬼の美女は男の身体を治すことになった。男と美女が手を組んで、男を捨てた彼女の方を喰うということで話がまとまった。

この件をきっかけに、男と美女は腐れ縁となり、男が死ぬまで付き合いは続いた。が、それはまた別の話。