空中での瀬戸際

タカシ:
男。かなりのビビリ。

ケンジ:
男。からかうのが大好き。


ガチャガチャガチャリ

タカシ「うぅ、怖いよー。高いよ」

ケンジ「大丈夫だって俺もついてるし、気にせずに飛び込めよ」

タカシ「でも危ないよ。こんな高さから飛び降りたら」

ケンジ「大丈夫だってたかがバンジーだろ。命綱だってついてるんだし、心配ねえよ」

タカシ「で、でも万が一ってことがあるかも。紐が切れない保証はどこにもないだろ」

ケンジ「お前は心配性だなぁ。みんな飛んでるんだぜ。切れるわけないだろ」

タカシ「今までに切れたことがないからって、僕のときにも切れないとは限らないじゃないか。僕のときに紐が切れる可能性だってゼロじゃないだろ」

ケンジ「仕方ねえなぁ。よし命綱いったん外せ。俺が先に飛んで安全性を保障してやろう」

タカシ「う、うん分かった」

ガチャガチャ

ケンジ「よし、貸せ」

ガチャガチャガチャリ

ケンジ「よーく見てろよ」

タカシ「うん気をつけてね」

ケンジ「大丈夫に決まってんだろ。よしじゃあ、行ってくるぜ」

ビョーンビョーン

ケンジ「やっほー。気持ち良いぜ」

タカシ「だ、大丈夫ー?」

ケンジ「問題ねえよ。むしろ最高の気分だぜ」

ガチャガチャガチャリ

ケンジ「なっ? 俺は無事に飛んだぜ」

タカシ「そ、そうだね」

ケンジ「これで分かったろ。大丈夫だって。だからさお前も飛んでみろよ」

タカシ「う、うんやってみる」

ケンジ「おう、その意気だ」

タカシ「よーし行くぞ」

ケンジ「って待て待て」

タカシ「えっ? 何どうしたの?」

ケンジ「命綱、付け忘れてるぞ」

タカシ「あっ」

ケンジ「バカヤロー。気をつけろよな。死んじまうとこだったぞ」

タカシ「ふえーん。やっぱり飛ぶ自信なくなってきたよぉ」

ケンジ「大丈夫だよ。命綱さえついてりゃ、落ちる心配はねぇ」

タカシ「でも僕落ちかけたよ」

ケンジ「それはお前のミスであって、バンジーのせいじゃない」

タカシ「うっ、そうだけど」

ケンジ「しゃあねえなぁ。だったら俺が一緒に飛んでやる」

タカシ「えっ? いいの?」

ケンジ「おう、親友のためだ。もう一度飛ぶなんてわけないぜ」

タカシ「ありがとうケンジ。僕やってみるよ」

ケンジ「おう、その意気だ」

タカシ「よーし、今度は命綱をしっかりとつけるぞ」

ケンジ「手震えてるぞ。俺がつけてやろうか?」

タカシ「こ、これぐらい僕一人でつけられるよ」

ケンジ「そうじゃないと困るぜ」

ガチャガチャガチャリ

ケンジ「準備できたか?」

タカシ「バッチリだよ」

ケンジ「よーし、ならいくぜ」

タカシ「行こう!」

ケンジ・タカシ「うぉぉおー!」

ピョーン

タカシ「う、うわぁああああ!!」

ケンジ「はっははっは。風が気持ちいいなぁ」

タカシ「あばばばば」

ケンジ「びびりすぎだろ」

タカシ「普通だよ。だって落ちてるんだよ。落下してるんだよ。飛んでるんだよ。怖いよ怖いよ怖いよー!」

ケンジ「大げさだなぁ。俺を見てみろよ。どっしりと構えてるだろ。これこそ動かざること山の如しの心って奴よ」

タカシ「今動いているよー。超動いているよー。絶賛移動中だよ。全然どっしりとしてないよ。何ならもう下につきそうだよ」

ケンジ「それだけ喋る元気があれば大丈夫だろうよ。ほーら、怖くなーい。怖くなーい」

タカシ「喋ってないと心が折れそうなんだよ。というか漏れそう」

ケンジ「おいおいおい、空中でお漏らししたら周りに降り注いじゃうぜ」

タカシ「だから頑張って我慢してるんだよ。もう早く地上に戻りたいよー」

ケンジ「大丈夫。もう終わるさ。ほんと楽しい時間ってあっという間だよな」

タカシ「恐怖しかないよ。むしろ時間の感覚が倍増してるよ。一時間くらい経った気持ちでいるからね僕」

ケンジ「風が気持ちいいなぁ」

タカシ「くそぅ!」

ケンジ「おいおい漏らしたのかよ」

タカシ「そっちのくそじゃない!」

ビョーンビョーン

ケンジ「あー、地上に戻っちまったなぁ」

タカシ「ようやく戻れた。もう足がガクガクだよ。二度と飛びたくない」

ケンジ「楽しかったなぁ。もう一回飛びたいなぁ」

チラチラ」

タカシ「そんな目で見られたって僕行かないからね。飛びたいなら一人で飛んでよね」

ケンジ「そうか。俺は親友と思い出を共有することすらできないのか。……辛いな苦しいな」

チラチラ

タカシ「もう一回飛べばいいんでしょ! いいよどこへだって行ってやる!」

ケンジ「そうこなくちゃな」

ガチャガチャガチャリ

タカシ「わぁ、高い」

ケンジ「さっきと同じ高さだぜ」

タカシ「それってつまりさっきと同じ恐怖を味わうってことでしょ。怖いなぁ怖いなぁ」

ケンジ「さっきと同じ楽しみを味わえるのか。楽しいなぁ楽しいなぁ」

タカシ「この野郎!」

ケンジ「はっはっはっ」

タカシ「この野郎!」

ケンジ「とぉ!」

タカシ「ぎゃあ!」

ビョーンビョーン

タカシ「心の準備がぁ!」

ケンジ「俺はいつでも準備オーケーです」

タカシ「あぁぁあ!」

ケンジ「愉快愉快」

タカシ「この野郎。覚えてやがれー」

ケンジ「えっ?」

タカシ「なんでこの距離で聞こえてないの?」

ケンジ「風の音で何も聞こえない」

タカシ「風め!」

ケンジ「風は吹いているだけだろ」

タカシ「聞こえてんじゃねえか」

ケンジ「こいつはうっかり」

タカシ「くそったれー!」

ケンジ「なんだよまた漏らしたのか」

タカシ「そんなわけ……あっ」

ケンジ「えっ? マジで漏らしたのかよ。」

タカシ「ノォオオオオオオ!」