狐と僕と夏休みの初恋と

狐:
女の子 年齢不詳 見た目は10歳くらい
白い髪に白い肌、目が赤く白い着物を着た女の子の姿をしているが、忘れ去られた神社のお稲荷さま

けーた:
男の子 10歳
夏休みに祖父母の家へ遊びに行き、そこで不思議な体験をする
心優しく気弱な少年

ゆうたろう:
男の子 10歳
三つ葉村に住む男の子、威張っている
けーたと仲良くなりたいが素直になれず意地悪をしてしまう

しゅん:
男の子 9歳
三つ葉村に住む男の子、泣き虫
オバケが一番嫌い

まき:
女の子 10歳
三つ葉村に住む女の子、ませている
オバケは平気だが虫が嫌い


母「けーた、けーた、起きなさい。早く準備して、もう出発するわよ」

けーた「うん…お母さん、あともうちょっと…」

母「いい加減に起きなさい、もう出ないと。ほら、おじいちゃんとおばあちゃんが待ってるんだから」

8月、夏休み。僕は今日から1週間、三つ葉村に住んでいるおじいちゃんとおばあちゃんの家にお泊りに行くんだ。

でも三つ葉村にはコンビニもゲームセンターもない。

あるのは山と川と海、それだけ。

けーた「お母さん、ゲーム機持ってっていい?」

父「何言ってるんだ、せっかく自然がいっぱいの場所に行くんだからゲームなんかせずに山や川で遊びなさい」

母「そうよ、ゲームは壊したら駄目だから置いていきなさい」

ちぇ。僕は別に行きたくないんだけどな。

そりゃ、おじいちゃんとおばあちゃんに会えるのは嬉しいけど、クーラーもない遊びに行く場所もない所なんてつまらないんだもん。

僕と同じ年の子供もいるみたいだけど、いっつも意地悪してくるから会いたくないし…。

そうこうしている内にもうついちゃった、車の中では寝ていたからあっという間だったな。

母「けーた、ほら、おじいちゃんとおばあちゃんよ。すみません、今年もお世話になります」

おじいちゃん「よく来たね、疲れただろう。ほら、上がりなさい」

おばあちゃん「けーた、久しぶり、大きくなったねえ」

父「親父、お袋、半年ぶり。ほら、けーた。いつまで不貞腐れているんだ、挨拶は?」

けーた「…こんにちは」

母「あらやだこの子、久しぶりに会うから照れてるんだわ」

あはは うふふ

けーた(なんだよもう。結局皆僕を放ったらかしにしてるじゃん。あーあ、こっそりゲーム持ってくればよかった…、ん?)

カサカサ

けーた「あれは…」

ゆうたろう「よお、けーた。今年も来たのかよ。相変わらず小せえな」

しゅん「ゆ、ゆうちゃん、勝手に人の家の敷地に入っちゃだめだよぉ…あ、けーた君、久しぶり」

まき「もー、2人共おいてかないでよ! けーた! 背伸びた? 久しぶりだね!」

けーた「あ、うん…久しぶり」

ゆうたろうは僕と同い年の10歳。体が僕より大きいからか、僕がよそ者だからか、すごく威張ってる。

しゅんは僕より1つ下、とってもビビりで、まきちゃんは僕と同じ年だけどなんだか年上みたいな話し方する女の子。

3人共三つ葉村に住んでる唯一の子供みたいで、僕がここへ来る度になんだかんだ会いにきてくれる。

ゆうたろう「おい! 今から肝試し行くぞ。今年は一つ葉神社だ」

しゅん「肝試しって普通は夜じゃないの?」

まき「夜中はお父さんとお母さんに見つかったら怒られるし、出られないもん」

ゆうたろう「けーたみたいなひょろひょろした都会の奴は、肝試しにも来れないか? しゅんよりビビりじゃねーか」

けーた「別に…オバケなんで怖くないけど。でも一つ葉神社って、そんなのあったっけ」

この三つ葉村には、神社は三つ葉神社しかないはずだ。

しゅん「大人も知らない人が多いんだけど、三つ葉山の麓にあるみたい。いとこのお兄ちゃんに教えてもらったんだ」

ゆうたろう「おい、行くのか行かないのか、どっちだ。早く決めないと置いていくぞ」

けーた「行くよ、行けばいいんでしょ」

まき「よーし、じゃあ暗くなる前に行こう! 早く!」

そう言ってまきちゃんが三つ葉山の方へ走っていくと、ゆうたろうとしゅんもその後を追いかけていった。

僕は本当は行きたくなかったけど、でも退屈していたから、ちょっとの好奇心でついていったんだーーー。

しゅん「はぁ、はぁ、まきちゃん早いなぁ」

ゆうたろう「くそっまた負けた」

まき「へへ、1番! でもけーた君も早くなったね」

けーた「あ、ありがと…それにしても…」

けーた「一つ葉神社って…ここ?」

しゅん「僕もゆうちゃんもまきちゃんも初めてきたんだけど…なんかちょっと怖いね」

まき「うん…こんなにボロボロだなんて…全然人が来ていないのかな?」

ゆうたろう「肝試しにはもってこいじゃねーか。よし、行こうぜ」

???「ねえ」

けーた「え?」

まき「どうしたの? けーた」

けーた「え? 今誰か話しかけなかった?

しゅん「何言ってるの?」

まき「まさか、オバケとか?」

しゅん「ええ、オバケは嫌だ…帰りたいよう」

まき「怖くないよオバケなんて! 虫の方が怖いもん」

???「あなた達、お名前は? 村の子?」

けーた「いや、僕は…」

ゆうたろう「おい! 何やってるんだ! おいてくぞ!」

まき「うん、今行くー」

しゅん「ゆうちゃん怒っちゃうから、僕達もいこっか。うう、昼間なのに怖いなぁ」

けーた「今誰か、別の女の子の声が聞こえた気がしたんだけど…」

???「私の声、聞こえてるの?」

けーた「!!! うわ、びっくりしたぁ、君、誰? ここの村の子? でもこんなに髪の毛が白い女の子いたっけなぁ」

???「私はいちは、ここに住んでるの。あなたは私の声が聞こえるの。そう、そっか、うふふ」

けーた「聞こえるって、うん、聞こえるけど…いちはちゃん、は、えっと…」

いちは「ねえ、あなたのお名前は?」

けーた「けーただよ。10歳。いちはちゃん、悪いけど、僕、早くいかないと、ゆうたろう君達が待ってるから…」

いちは「けーた。けーたって言うのね。10歳か、じゃあ私も10歳。ねえけーた。あっちよりも、もっと楽しい場所があるの、ほら、行こう」

けーた「え、あ、ちょっと、」

いちはちゃんは僕と同じ年の女の子とは思えないくらいの力で僕の手を引っ張って駆けだしていく。

白い髪の毛に白い着物を着ている女の子、白い肌が綺麗で、僕のクラスのあきこちゃんより可愛いかもしれない。

こんな可愛い女の子と手を繋ぐなんてとドキドキしていたら、いつの間にか花畑についていた。

けーた「わあ、こんなにいっぱいお花が咲いている場所があったんだ」

いちは「好きなだけいていいよ、ずっといようよ」

けーた「ううん、でも、暗くなる前には帰らないと怒られちゃうから」

いちは「そっか、そうだよね、やっぱり…。仕方ないか、じゃあちょっとだけ遊ぼう」

いちはちゃんは色んな遊びを知っていて、どこから出してきたのかお手玉やおはじきでも遊んだ。

まるでおばあちゃんと遊んでいる時みたいに、懐かしい遊びばっかりだ。

けーた「あ、そろそろ帰るよ。もう日が暮れてきたし」

いちは「うん…じゃあ、わかった。しょうがないか。けーたはやっぱり連れていけないよね。」

いちは「じゃあね、けーた」

ばいばい

けーた「うん、ばいば…あれ?」

いちはちゃんに手を降ろうといちはちゃんの方を向くと、そこにはもう誰もいなかった。

お花畑もいつの間にか消えていて、周りは山しかない。

それにいつの間にか一つ葉神社の階段の前に座っていた。

あれ? 不思議だな、さっきまで夕方じゃなかったけ? 何でまだお昼なんだろう。

けーた「おかしいなあ、いつの間に歩いてきたんだろ?」

足を踏み出そうとした時、階段の上からゆうたろうのおっきな声が聞こえてきて驚いた。

ゆうたろう「おい! けーた! お前今までどこにいたんだよ!」

しゅん「探したんだよ~、どこ行ってたの?」

まき「心配したじゃない!」

3人が階段の上から駆けおりてくる、。

ゆうたろう「俺が、意地悪したから、どっか行ったのかと…」

しゅん「ごめんね、僕も、けーた君がついてきてると思ってたんだけど…」

まき「離れ離れになったらいちは様に連れていかれるんだよ!」

けーた「いちはちゃん?」

しゅん「そう、いちはさま。一つ葉神社のお狐さまで、子供が好きで1人で遊んでいる子を連れていっちゃうんだっていとこが言ってた」

もしかして。

ふと振り返った瞬間、いちはちゃんのうふふ、って笑い声がすぐそばで聞こえた気がした。

ゆうたろう「おい、けーた。もう意地悪しないから、俺が悪かった」

けーた「うん…いいよ」

しゅん「ゆうちゃん、ずっとけーた君と仲良くなりたいって言ってたもんね」

まき「でも、ジャイアンだからつい威張っちゃうんだよね」

ゆうたろう「う、うるせえなあ! 別に俺は…!」

けーた「いちはちゃん…」

また、あそぼうね

あれから数十年経って、大人になってから聞いた話。

いちはちゃんは一つ葉神社のお稲荷さんで、栄えていた頃は神社にも子供が沢山遊びに来ていて、そこにいつの間にか白い髪の女の子が混ざってるんだって。

村の子供達と一緒になって遊んでいたのに、神社に人が来なくなって、やがて廃神社になって、きっと寂しかったんだろう。

だから僕を連れて行こうとしたのかもしれない。

あれから何度も三つ葉村に行っているけれど、あの日以来いちはちゃんには会えなくなった。

それでも僕は何度も何度も諦めずに一つ葉神社に行っている。

だって、あれが僕の初恋だったからーーー。

けーた「いちはちゃん、遊びにきたよ。こんにちは」

うふふ。ひさしぶり、何して遊ぼう?