早乙女マリーの善行

赤鬼:
地獄の鬼

早乙女マリー:
16歳の少女


赤鬼「おめでとうございます! あなたは本日ちょうど一万人目のお客様です。いやぁ、運が良いですねぇ。あと一歩事故に遭うのが遅かったら、ダメだったところですよ。ついさっき一万一人目がここへやってきたところですからねぇ」

マリー「え? 何? 何? どういうこと? あたし死んじゃったの? ここはどこなの?」

赤鬼「おや、まぁ、気づいてなかったんですか? そうですよ、早乙女マリー様、あなたは本日、13時13分に交通事故に遭って死んでしまったんですよ」

マリー「えぇ?! ホントなの? ホントにあたし死んじゃったの? うえ~ん、まだやりたい事いっぱいあったのにぃ。恋だってまだしてないんだからぁ! いったいどうしてくれるのよぉ! 大好きな彼とデートもできないうちに死んじゃうなんてぇ~」

赤鬼「おや、彼がいたんですか? では今頃その彼はさぞかし悲しんでおられるでしょうね」

マリー「彼なんていないわよぉ~。恋はまだしてないってさっき言ったじゃないの」

赤鬼「だってさっき大好きな彼とデートがどうとか……」

マリー「だぁからぁ、もしもの話よ、大好きな彼がいたとしたらあんなデートやこんなデートをしたいなと妄想し……いや、まぁ、いいわ。とにかくどうしてくれるのよ赤鬼! 死んじゃったらもう何もできないじゃないの。あたしまだ16歳よ16歳なのよ。これからじゃないの人生は! それなのにどうして死ななきゃいけないのよぉ~」

赤鬼「いや、どうしてくれるのと私に言われましても。私はただのしがない赤鬼でして、何の権限もないんですよ。それに死んだのは早乙女マリー様、あなた自身の責任じゃないですか!」
マリー「……そ、そう言えばあたしはなぜ死んじゃったのかしら? あんまりはっきり覚えてないんだけど……赤鬼、さっき交通事故で死んだって言ってたわよね?」

赤鬼「えぇ、13時13分にトラックとぶつかって死んだと報告書にはありますが」

マリー「報告書? へぇ、そんなものがあるの? だったらそこに事故の様子とか詳しく書いてないの? 書いてたら教えてよ」

赤鬼「いや、それはできない決まりでして。とはいえ16歳で死んだとなるとさすがに可愛そうですね。よし、分かりました、私も地獄の赤鬼と恐れられた男だ。ここは特別に教えてあげましょう」

マリー「地獄の赤鬼? ふぅん、あんまり怖そうには見えないけど。まぁ、いいわ、早く教えて!」

赤鬼「えっと……この報告書には……トラックに飛び出した子供を助けようとしてはねられたとありますよ。早乙女マリー様、あなた子供の身代わりになったようですね」

マリー「あぁ、そう言えば2、3歳の男の子がトラックの前に飛び出したのを咄嗟に突き飛ばした覚えがあるわ。そっかぁ、あたし、あの男の子の代わりに死んじゃったのね。じゃあ、あの男の子は助かったってことね?」

赤鬼「えぇ、本日この地獄に子供はまだやってきてませんね」

マリー「だったら仕方がないわ。あたしの死は決して無駄死にじゃなかったってわけだものね。赤鬼、ここは地獄なのね?」

赤鬼「えぇ、でも子供をかばって死んだあなたがなぜ地獄にやってきたんでしょう?それほどの善行なら間違いなく天国行きのはずなのにおかしいなぁ。何か不手際でもあったのか……」

マリー「それもそうよね、どうせ死ぬにしても天国の方が良かったわ。あたし、生きてる頃、地獄に行くほどの悪人だった覚えなんてないわよ」

赤鬼「ちょっと待っててくださいね。閻魔様に聞いてきます」



赤鬼「お待たせしました早乙女マリー様、わかりましたよあなたが地獄へ来た理由が。さっき言ったこと覚えてますか? あなたが本日一万人目のお客様だと言ったでしょう?」

マリー「あぁ、そう言えば。死んだショックでそんなこと忘れてたわ。っで、一万人目がどうしたの?」

赤鬼「それがですねぇ、おかしいと思いませんか? 一万人目はまぁ、たまたま運が良かっただけのことかもしれませんが『お客様』って変でしょう?」

マリー「何が変なのよ?」

赤鬼「だって一度地獄へやってきたら永遠にここで過ごすことになるのが普通なんですよ。だからここへやって来る人たちは地獄の住人であって『お客様』ではない。それなのにあなたは『お客様』だ」

マリー「だって、赤鬼、あなたがそう言ったんじゃないの」

赤鬼「いや、私はただ閻魔様から渡されたメモを読んだだけでして」

マリー「そうなの? っであたしが『お客様』だったらどうなるの?」

赤鬼「えぇ、そこですよそこ! 早乙女マリーさん、喜んでください。やはりあなたは地獄へ来るような悪人ではなかったということです。死んだ時の善行が認められて、天国にいる神様から『地獄天国その他一周ツアー』がプレゼントされたんですよ!」

マリー「は? 何それ? じゃ、じゃあ、地獄へ来たのはただの観光旅行ってこと?」

赤鬼「そうですよ、ここを見学したら次は天国への観光旅行が待っているんですよ!」

マリー「なぁんだ、神様も紛らわしいことするなぁ。まぁ、でも死んじゃったことには変わりないのね。でも天国なら悪くないかな」

赤鬼「早乙女マリーさん、さっき私が言ったこと聞いてましたか? 私は『地獄天国その他一周ツアー』と言ったんですよ。だから地獄天国以外にもう一つその他が残ってるんですよ」

マリー「え? その他? それってどこなの? 天国と地獄以外にまだあるの?」

赤鬼「えぇ、その他っていうのは『母体』なんですよ。早乙女マリーさん、あなたは地獄と天国を見学した後、母体を見学するんです。これがどういう意味だか分かりますか? 生まれ変われるということですよ。あなたは地獄へやってきた一万人目の記念すべき人のうえに子供を助けるという善行を行った。だから特例ですぐに生まれ変われるというわけなんです」

マリー「え? そうなの? じゃあ、あたしはまた人間界で暮らせるのね!」

赤鬼「はい! さて、ではさっそく参りましょうか。『地獄天国その他一周ツアー』の案内人は私が務めさせていただきます」

マリー「ではお願いね、赤鬼さん!」

赤鬼「ハイッッ!!」



「おぎゃ~おぎゃ~」

「おめでとうございます。とっても可愛らしい女の子ですよ」