キノコ狩りから温泉へ

ゴロウ:
キノコ狩りに嵌まりつつある男

クマ:
くま


ゴロウ:ぎょえーもうこんな時間だぜー。キノコ狩りは楽しい楽しいとは聞いていたがこんなに楽しいものだとは思わなかった。というかむしろ途中で採ったキノコをつい味見したら時間がすっとんでたわけだけど、というかそういった経験を含めて面白いと言い張る感じなんだけど、というかさっきから足がふらふらで吐き気が凄いんだけど…あれ…ぐ…ぐえー…。



ゴロウ:むむ、ここはどこだ。私は誰。私はゴロウ。知ってたわ。記憶あるわ…それにしてもこの洞窟はなんじゃろな。火が焚いてあるということは誰かがオレを運んでここまで運搬したというわけ? なぜこのオレを運び入れたのか、というと介抱するためだろう。超親切な人が居るもんだ。ありがたい。

クマ:そう?

ゴロウ:うんそう…うわっ!

クマ:だろ? オレすげー親切なんだよね。

ゴロウ:ひ、ひぃぃぃ!!

クマ:おいおい、落ち着けよ。オレはおめーの命の恩人だよ? お礼くらい言っても良いんじゃない?

ゴロウ:スゥ…

クマ:目を瞑ってどうしたの。

ゴロウ:さっき食ったキノコやっぱやばい奴だったのかなぁ。やっぱりこれ幻聴や幻覚ではないのかな。

クマ:というと?

ゴロウ:いやもう、キミというクマがオレを介抱して会話をするということが不思議でたまらないんだ。

クマ:なんでよ、オレ喋っちゃだめなの? あと目開けなよ。

ゴロウ:開けない。怖い。そもそもキミはクマだろ? 人間の発声器官を有していないでしょう?

クマ:いやこれは違うよ。

ゴロウ:何が。

クマ:俺は確かにクマという名前なんだが動物の種類としてのクマじゃないんだ。

ゴロウ:だがキミが台詞を言うときにこう、先頭に「クマ:」とついているわけで…ああそうか、それはつまり名前の「クマ:」ということか。あなたは人間で名前が「クマ」なんですね。

クマ:左様。さ、目を開けられよ。

ゴロウ:なるほどね。ぱちくり。なるほど君は黒い毛に覆われて2メートルぐらいの身長の…クマじゃねーか! バカ!

クマ:ははは。キミは面白いな。そうとも私は正真正銘動物のクマだよ。もう目は閉じないでくれよ。

ゴロウ:あわー、こわい。何考えているか分からない目がとても怖い。

クマ:じゃあもうあれだよ、キノコ食ってぶっ倒れてたんなら幻覚として俺をみてみりゃいいんじゃない?

ゴロウ:あー…うん、そうね、キミは幻覚として考えておこう。幻覚自身が幻覚どうこう言う点に少し引っかかるけどしょうがない。

クマ:そうそう。幻覚ついでに話聞いてくれよ。

ゴロウ:山の中で毒キノコ食ってクマに介抱されながら深夜にオレは何を聞かせられるの。

クマ:ある山村の学校に花子という子がいたんだけどね。

ゴロウ:ふんふん。

クマ:彼女はいじめられていたんだ。それを苦に学校の屋上から飛び降りて亡くなってしまったの。それ以来その屋上からは「返して~返して~」という声が聞こえてくることがあって、つい「何を?」と答えると「私のお弁当ーーー!!!!」て叫びながら追いかけてくるんだって。

ゴロウ:怖い話じゃねーか! これ学校の怪談じゃねーかよ!! こえーよばか!

クマ:ふふふ。

ゴロウ:ふふふじゃねーよ! いま超真っ暗でこえーよ何聞かせんだよマジで。

クマ:ちなみにこれはオレの創作怖い話です。

ゴロウ:すげーよ! でも花子さん居なくて良かったよ…。

クマ:いや花子さんは居るよ。

ゴロウ:居んの!?

クマ:キミの後ろにね…。

ゴロウ:ぎえー! やめろや! そういうのやめろや!

クマ:急な関西弁は健康に悪いよ。

ゴロウ:それもそうだな。

クマ:うん。

ゴロウ:ところで何か幻覚じゃない気がしてきたんだけど気のせいかねこれは。

クマ:幻覚じゃないんだよね本当は。実は。

ゴロウ:しかしもう何かどっちでもよくなって来たんだけど何でオレを介抱してくれたの。

クマ:それより先に言うことあるんでは。

ゴロウ:それもそうじゃ。助けてくれてありがとうございます。

クマ:どういたしまして。

ゴロウ:ところで何で。

クマ:そりゃまあ、何つーか、ほら、周り見てくれよ。

ゴロウ:超真っ暗だね。おっかない。

クマ:そんだけ?

ゴロウ:え? まあ木とか…岩とかあるね。

クマ:そうなんだよ。それしかねえの。超つまんねーのここ! 超田舎! 超田舎!

ゴロウ:ええ…いやでもキミはクマなんだから…自然で生きる方の人たちでしょ…。

クマ:いや前までは良かったんだけどさあ、ある日この、落雷みたいのが走ったのよ。体の中に。

ゴロウ:うん…?

クマ:もう何が原因か良くわかんねーんだけど、何か偶然がどうこうしてオレはスゲー頭良くなったの。そして人の言語も喋れるようになったわけ。

ゴロウ:それじゃ何が何だか。

クマ:まあいいじゃん。そんでめきめき色んなことが考えられるようになったらよー、もうこの山めっちゃつまんねーの。虫とか小動物しかいねーの!

ゴロウ:うん…。

クマ:でも都会言ったら絶対何か悲劇的な感じになるじゃん! 危険生物つって捕まって麻酔銃がどうのこうので少女と友達になって死別ですよ絵本化して映画化決定ですよ! オレはふつーに過ごしてみてーだけなの!

ゴロウ:しかしキミはクマだからなぁ。都会は難しいんじゃないかい。

クマ:そーなの。そんなときにキミが偶然ぶったおれてたからここまで運んで話し相手になってくんねーかなーとか思ったわけ。

ゴロウ:なるほど…キミはさびしんぼなんだね?

クマ:正直に言うとそうだ。オレは結構さびしい。なぜなら仲間がウガァとしか言わないから。

ゴロウ:そうか…それは大変だな。

クマ:マジな話、お前が来てくれて結構感謝してたりするので、邪険に思わないで欲しい。

ゴロウ:いやもう、そこまで聞かされたらんなこと思わねーよ。

クマ:…あれだよ、あのだな、友達になってくれー!

ゴロウ:おほう? おーおう、いいぜ。

クマ:まじかよ…ありがとう…!

ゴロウ:ぶっちゃけオレも友達いねーしな!

クマ:えー…。

ゴロウ:引くなや!!

クマ:急な関西弁は消化器官に悪いよ。

ゴロウ:確かに。



クマ:しかしおめー、こんなことまでして本当に良かったの? オレとしてはありがたいけども。

ゴロウ:良いんだよ。あんなとこで暮らしてたら精神が腐れ飛んでしまう。都会は怖い。

クマ:マジか。人間でもこえーのか。

ゴロウ:正直めっちゃ怖いのでこんぐらい田舎の方がオレに合ってるわ。

クマ:でも同居ったってここ洞窟だぜ?

ゴロウ:でも洞窟ったってここ電気引いてるしネット回線もあるじゃん。

クマ:まあ確かにオレの頭が良すぎるので最早洞窟型ホテル的な感じではあるけど。

ゴロウ:そっちこそオレここに住んでも大丈夫なの?

クマ:えーむしろめっちゃありがたいんですけど。精神が満たされていくのを感じるんですけど。

ゴロウ:マジかーやはりオレたちはウィンウィンの関係なのか。つってもオレにできることはやるから何でも言ってね。

クマ:あーじゃあ人間の道具使った作業やってもらおっかな。オレ手が超クマだから料理とかちょっと手間取るんだよね。

ゴロウ:なるほどな。包丁で何か切ったりお掃除する感じか。でもパソコンあるけど。

クマ:爪でキーボード打ってるわ。

ゴロウ:うわ器用。つかじゃあ、早速何か料理すっかな!

クマ:材料はそこの冷蔵庫に入ってるからね。

ゴロウ:おお、肉に野菜になんでもござれだわ。

クマ:それからちょっと離れたところに温泉掘ってみたから後で行こうぜ。

ゴロウ:マジかよすげえなぁ。オレも何か…ああそうだ! 今度街から何か買ってこようか。

クマ:おーそりゃ助かるわ…マジで助かるわ。

ゴロウ:え? 何か欲しいものあったの?

クマ:森の香りの芳香剤。

ゴロウ:ここで嗅げるわ! 終生嗅ぎ続けられるわ!

クマ:天然水。

ゴロウ:飲めるわ!毎日飲んでんだろ! そこらにあるわ!

クマ:温泉の香りの入浴剤。

ゴロウ:掘ったわ! さっき掘ったっつってたろ!

クマ:…ふふ。

ゴロウ:…へへへ。

クマ:いやー、楽しく暮らそうぜ。クマ人生が上向いてきた気がするよ。

ゴロウ:オレも良い感じだわ。

クマ:じゃあよろしくだぜ。

ゴロウ:おうよろしくな。