スーパーゴッドハンド翔の引きこもりな日常

俺:
スーパーゴッドハンド翔。選ばれし人間。(男)

綾香:
憎き妹(女)


俺の名前は「スーパーゴッドハンド翔」――人は俺のことを「翔」と呼ぶ。

え? それだと普通じゃん、って?

…フッ、そんなことはどうでもいいのだ。

問題は、俺が「スーパーゴッドハンド翔」だということ、それだけだ。

俺の右手には寄生虫が棲んでいて、いつも奴がうずいて仕方がないのだ…

え? それどっかで聞いたことがあるって?

…フッ、そんなことはどうでもいいのだ。

なぜなら問題は、俺が「スーパーゴッドハンド翔」だということだけであり――…

綾香「…あのさ。お兄ちゃんマジ寒すぎなんだけど」

俺が鏡の前で自分に陶酔していると、なんということか妹がノックもせずに入ってきた。

年頃の男の部屋に無断で入ってくるなど一体どういった教育をしているのか。親の顔が見てみたいものだ。ついでに兄がいるなら兄の顔も見てみたいものだと思う。

翔「なにを言っているのだこの馬鹿が! 俺を誰と心得る!」

綾香「えーっと、スーパーゴッドハンド翔だっけ? てか、マジウケるんだけど」

翔「ばっ…ウケることなどなにもないではないか!」

綾香「てかさ。お兄ちゃんそろそろ現実見たほうがいいよ?」

翔「何を言うか! 俺は常に現実を…」

綾香「見てないよね? だって中学卒業からもう10年も引きこもってるもんね?」

翔「うっ!!!」

綾香「もうさ、そろそろやめてほしいんだよね、こういうの」

妹の綾香は贅肉のつきすぎた色気0%の太ももをクネクネさせながら俺を馬鹿にしてきた。色気もないくせに小癪なことこの上ない。

綾香「綾香、友達にめっちゃ馬鹿にされてんだよ? お前の兄ちゃん引きこもりの厨二なんだろ、って。もうすっごく恥ずかしいんだから!」

翔「恥ずかしいだと? 一体どこがだ。俺はかの有名なスーパーゴッドハンド翔なのだぞ!」

綾香「有名っていっても悪い意味で有名なんですけど」

翔「そんなはずがあるか。お前は何もわかっていない。フッ…まだまだ甘い証拠だな」

綾香「うわー、お兄ちゃんにだけは言われたくなかったわ」

翔「仕方あるまい。お前の根性を叩きなおす為にも、俺の華麗なる技を披露してやろう」

綾香「は? 別にいらねーし」

翔「謙遜することはない。目をかっぽじって良くみるが良い」

綾香「いや、つか見たくねーし」

翔「フッ、また謙遜か。綾香よ、お前はいつのまにそんなに慎ましい女になったのだ?」

綾香「つかゴメン。ほんと頭大丈夫?」

翔「当然だ。俺を誰だと思っている?」

綾香「厨二ひきこもりのバカ兄貴」

翔「ちがーう! 断じて違う! お前はなんということを言いだすのだ!!!」

綾香「だって本当じゃん。隣のおばちゃんもすげー噂してるよ?」

翔「むむっ、噂とはどのような噂だ?」

綾香「あんな息子さんでかわいそうね~、だってさ」

翔「ふはははは! 馬鹿者めが!!! それはこの世で最大の褒め言葉ではないか!!!」

綾香「いや褒めてねーし。むしろ軽蔑されてるし」

翔「…よかろう。それほど褒められているとなれば、俺の力を見せないわけにはいくまいな?」

綾香「は? なんでそうなるの?」

翔「ふふ…このスーパーゴッドハンド翔の実力、思い知るが良い!!!」

綾香「つかマジ見なくないんだけど」

俺は妹の言葉を完全無視し、腕に封印されし力を120%解放した。

右手に棲む寄生虫がうずきだす…ああ、このかんじだ…

俺は俺を解き放つ――!

俺「ふんぬ…っ!」

俺はデスクの上から真四角の紙をさっと取ると、マッハのスピードで鶴を折り始めた。そう…これは折紙だ。しかしただの折紙じゃない。ハイパースピード折紙なのだ。

俺は猛スピードで折り終えると、バカな妹の前に美しいフォルムの鶴を差し出してやった。

ふふ、お前の大根足と比べたらなんとスラッとして細く美しい足なのだろう。まあ折鶴に足はないがな…!

見よ、これがスーパーゴッドハンド翔の力なのだ!!!

綾香「あー、鶴ね。これいつも得意げに作ってるやつでしょ」

俺「得意げではなく得意なのだ。なにせこの鶴で俺は世界一をとったのだからな!」

綾香「は? 馬鹿じゃない? 町内会のお祭りの出し物でたまたま褒められただけじゃん。大したことないしそんなの」

俺「なっ…!」

綾香「てか、そんな折紙うまくても金になんないし、ひきこもってちゃ意味ないし。スーパーゴッドハンド翔とかいってるけどさー、もともとは町内会のお祭りで“スーパーゴッドハンドで賞”をもらっただけだよね?」

俺「おのれええええええええええええ」

綾香「しかもそのお祭りも、引きこもりのお兄ちゃんを心配してママがむりやり引っ張り出しただけだし」

俺「違ううううう!!! 断じて!!!! 違ううううう!!!」

綾香「違わねーよ」

ドゴッ!

俺の腹に、妹の足蹴りがクリーンヒットした。

俺「うぐっ…これが…スーパーゴッドレッグ綾香の実力だというのか…っ」

綾香「うぜーよ。一緒にすんな」

俺「うぐっ!」

二度目の足蹴りで地面に蹲った俺は、妹をスーパーゴッドレッグ綾香としてあがめた。世の中にはまだまだ強敵がいるらしい。これに打ち勝つためには、より強靭なスーパーゴッドハンドと、密室にこもっての特訓が必要だ。

そう…だから俺は今日も折紙の技を磨きあげる…スーパーゴッドハンド翔の名に恥じぬように。

そのためにも、今後も部屋にひきこもることを固く誓ったのだった。

END