神宮寺光太郎とサガンの洞窟

神宮寺光太郎:
探検家で俳優の男

助手:
神宮寺の助手の男

監督:
ロケを指揮する監督。男


神宮寺光太郎「こんにちは、みなさん。今日はこの神宮寺光太郎、秘境中の秘境、まだ誰も足を踏み入れたことのないというサガンの洞窟へとやってまいりました。いやぁ、ワクワクしますねぇ。私は探検家兼俳優として、これまで三十年以上過ごしてまいりましたが、これほど胸躍ったのは初めてかもしれません。何しろ未だかつて誰もこのサガンの洞窟へ足を踏み入れたことがないんですよ。そこへこの私が初めて入るという非常に光栄な役を承ったんですから。いやぁ、昨日は緊張と不安、そして喜びで一睡もできませんでしたよ」

神宮寺光太郎「さて、ではさっそくサガンの洞窟へと入ってみましょう。みなさん、入りますよ、この神宮寺光太郎が人類史上初めてサガンの洞窟へと足を踏み入れますよ」

助手「ちょ、神宮寺さん、早いですよ洞窟の中へ入るの! もうちょっと、こう、溜めたほうが視聴者は喜ぶんですよ。それに最近はこの番組も視聴率は落ち目なんです。できるだけ引っ張って引っ張って引っ張りまくったほうがぜったい視聴率はアップしますよ」

神宮寺光太郎「なんだい、視聴率視聴率って。君はね、私の助手なんだからそんなテレビの世界のことなんて気にしなくていいんだよ。黙って私に従っていればいいんだ。それに私はサガンの洞窟へ行くことが決まってから、今日までずっと楽しみにしてきたんだ。目の前にそのサガンの洞窟があるんだぞ。すぐに入ってみたくなるってものじゃないか」

助手「神宮寺さんはだからいつまで経っても大物俳優に慣れないままなんですよ。普通なら神宮寺さんくらいの年齢になれば、俳優の世界ではベテランです。ほら、あの、なんて言ったかな……そうそう、鶴巻仙太郎さんなんてドシッと構えてるじゃないですか。こんな、いつまで経ってもロケなんてしてないでしょうよ」

神宮寺光太郎「おい、鶴巻仙太郎の名前を私の前でいうな! あいつと私は若い頃からずっとライバルだと言われてきたんだ。いや、若い頃は確実に私の方が演技力も知名度も上だった。ところがあいつが花山麗華と結婚してからと言うもの、いつの間にか立場が逆転して。花山麗華の父親は政界の大物だ。ぜったいあいつはそのコネを使って芸能界でのし上がっていったんだ」

助手「神宮寺さん、またその話ですか? 鶴巻仙太郎さんはそんな人じゃないですよ。それに花山麗華さんだってそうですよ。そんなコネなんて使わなくてもあの人の実力があれば、遅かれ早かれ芸能界でトップに立っていたはずです」

神宮寺光太郎「おい、君はなぜそうあいつの肩を持つんだ。君は私の助手だろう? もしかしてあいつの手先か? スパイか? それならただじゃおかないぞ! あいつはそういう卑怯なことを考えそうなやつだからな」

助手「ま、待ってくださいよ。ちょ、神宮寺さん、まさか本気でそんなこと思っているんじゃないでしょうね? この僕がこれまでどれだけ神宮寺さんに尽くしてきたと思ってるんですか! アストラの森やバルカン遺跡を探検した時だって、まったく自分で荷物を持とうとしない神宮寺さんの荷物を全て僕が持っていったんですよ。そのせいで、僕が蛇に気づかず噛まれてしまったことだってあったんですからね。あの時は三日三晩ずっとうなされっぱなしでしたよ」

神宮寺光太郎「はっはっは、そういうこともあったな。懐かしいなぁ。バルカン遺跡の時は私が地下に眠る聖堂を発見したんだったよな。あれはスゴイ発見だった。まさに歴史に残る大発見といって良いだろうな」

助手「え? そうでしたっけ? 地下の聖堂を発見したのは僕が先だったんじゃ……。それを神宮寺さんが僕じゃ絵にならないからと言って、手柄を横取りしたんじゃ……」

神宮寺光太郎「はっはっは、そういうこともあったな。まぁ、そんな昔のことは良いじゃないかね。それより君、本当に君は鶴巻仙太郎が送り込んだスパイじゃないんだろうな?」

助手「しつこいですよ神宮寺さん。それならとっくに神宮寺の……いや、神宮寺さんの助手なんてやめて、鶴巻仙太郎の元に戻ってますって。なんたって、鶴巻仙太郎には花山麗華っていう絶世の美女の奥様がいるんですから。あぁ、僕もいつかあんな美女と結婚したいなぁ……そのためにはもっと地に足を付けた仕事を探さないとなぁ」

神宮寺光太郎「おい君、私の助手は地に足が付いていないというのかね。ちゃんと給料だって払っておるし、休みだって与えておるだろう」

助手「だってあんな給料じゃ家族なんてとても養っていけませんよ。それに休みというならほとんど仕事のない神宮寺さんも休みじゃないですか」

監督「ハイッ! 準備オーケーでーす。さぁ、神宮寺さんとそこの君、いつまでくだらない話をしているんだ?さっさとサガンの洞窟へ入って下さいよ。こっちはとっくに準備してるんですからね」

助手「あっ……」

神宮寺光太郎「あっ……お、おい、これはどういうことだ? なんでサガンの洞窟がこんなに明るいんだ?」

監督「神宮寺さんたちがくだらない話をしてる間に先に入ってライトやカメラを設置したに決まってるじゃないか」

神宮寺光太郎「き、きさまーっ、私が昨日から楽しみにしていたサガンの洞窟へ、この私より先に入ったというのかね? えぇ?」

監督「うるさいなぁ、なかなか洞窟に入らないお前が悪いんだろうが!」

神宮寺光太郎「お、お前とは何だお前とは? この、こうしてやるーっ!!」

監督「おい、やるのか、イテッ。お前ーっ!!!」

助手「あ~あ、もうこんな仕事辞めよう。そうだ、鶴巻仙太郎さんのとこで雇ってくれないかな? 政治家になるのも良いな。おい、神宮寺、ぼ、僕はもうお前の助手なんて辞めるからな! じゃ~なっ!」

神宮寺光太郎「お、おい、俺のサガンの洞窟探検が~~っ」

監督「もう止めだ止めだ。こんなロケ撤収だ」