しつこい記者

記者:
男性 テレビ局の記者

吉村会長:
チャイルド株式会社の会長


――エフ倉庫前

記者「え~、ここはエフ倉庫前です。内部はどうなっているのでしょうか。おぉっと、出てきました、出てきました。チャイルド株式会社の吉村会長が何者かによって誘拐されてから三か月、警察はこのエフ倉庫に吉村会長が監禁されているとの情報を得て、今日やって来ました。実際、吉村会長はこのエフ倉庫に監禁されていた模様で、今ようやく助け出されたというわけであります」

記者「おぉっと今、警察官数名に囲まれて吉村会長がエフ倉庫から出てきました。吉村会長の様子はどうなっているのでしょう。むむっ、若干やつれてはいるようですが自分の足でしっかり歩いているようです。どうやら大丈夫のようですね。いやぁ、それにしても三か月もの間、犯人によって自由を奪われていたわけですから、精神の方はかなり参っていることでしょう。しかし『叩き上げの鬼』と恐れられた吉村会長のことですから、我々が心配するようなことはないのかもしれませんね」

警察「ちょっとそこを開けてください。おいっ、何やってるんだ、ジャマだ」

記者「す、すいません、われわれも仕事なもので。ちょっと取材の方良いですか? 警察はいったいどこからこのエフ倉庫に吉村会長が監禁されているとの情報を得たのでしょうか?」

警察「そんなこと教えられるわけがないだろっ! ちょっとそこをどきなさい」

記者「いや、そこを何とか。せめてヒントだけでも教えてくださいよ。ね、我々だって視聴者に真実を伝える義務があるんですよ。ねぇ、なぜ吉村会長の監禁場所がこのエフ倉庫だってわかったんですか?」

警察「だからそんなこと言えるわけないと何度言ったら分かるんだね? 君たちのような記者はいつだって警察の足を引っ張ってばかりじゃないか。今だってそんな邪魔になる場所に陣取って、いったい何の権利があるというのだね?」

記者「いやぁ、権利というほど大層なものはありませんが、私だってこう見えて吉村会長のことはずっと心配してたんですよ。三か月前、吉村会長が自宅を出たところで何者かに誘拐されてからというもの、寝る間も惜しんで独自に情報収集をしていたんですから」

警察「っで、君たちが情報収集をして何か有益な情報を得たというのかね?」

記者「いえ……それは、まぁ、何とも……」

警察「ほら、みたまえ。君たちがいくら頑張ったところで我々警察のジャマをするのが関の山なのだよ」

記者「それは言い過ぎでしょ。それより吉村会長を誘拐した犯人の目星はついたんですか? ここに監禁されているとの情報を得たくらいだから、犯人の目星だってついているのでしょう?」

警察「ふん、それこそ教えられるわけがない。さぁ、いつまでも君たちに付きあってはいられない、私も忙しいんだ、そこをどきなさい」

記者「あ……ちっ、行っちまったか。結局何の情報も漏らしてくれなかったな。おい、カメラマン、ところで吉村会長はどうなった? ん? 何? 病院へ運ばれたって? そうか、では我々も病院へ向かうとしよう」

――病院前

記者「さぁ、こちらは三ケ月間の渡って監禁されていたチャイルド株式会社の吉村会長が入院している病院です。中には入れませんが、エフ倉庫から吉村会長が出てきた時の様子を見る限り、それほど憔悴している様子はなさそうだったので、まぁ、一応念のための入院というところでしょう。というか、世間が落ち着くまで病院で大人しくしているといった方が良いかもしれませんね」

記者「あ、今、この病院の院長が出てきました。ちょっとお話を伺ってみましょう。院長、吉村会長の様子はどうですか。ケガなどはしていませんか? 私だったら三ケ月もの間、あんな倉庫に閉じ込められたらトラウマになってしまいそうですが、吉村会長のことですからきっと大丈夫でしょう」

院長「君たち記者は人の不幸を喜ぶのが仕事なのかね。何だね、そんな嬉しそうな顔をして」

記者「まさかぁ、私だって吉村会長のことが心配だったからわざわざここまでやってきたんですよ、分かってくださいよ。ほんの少しだけでいいので吉村会長の様子を話してくださいよ、ね、良いでしょう院長?」

院長「おほん、えーっ、吉村会長は多少やつれた様子ではあるものの、特にこれといったケガなどはしておらず、とりあえずは心配ないと言って良いでしょう」

記者「そうでしたか、それは良かったです。さて、ところでひとつだけお尋ねしたいことがあるんですが……」

院長「何だね? 私に聞きたいことというのは?」

記者「えぇ、それがですねぇ。先ほどエフ倉庫から吉村会長が出てくるところを見たんですがね、三ケ月間も監禁されていたわりにね、ヒゲがまったく伸びていなかったんですよね。さぁ、これはどういうことなんでしょうねぇ?」

院長「私がそんなことを知るわけないだろ?」

記者「ですよねぇ。ではそこにいる警察の方はどうですか? もしかしたら吉村会長の自作自演なんて可能性もあるんじゃないですか。おかしいと思ったんですよね、へへっ、我々はしつこいですよ。吉村会長に直接話を聞くまでここを動きませんからね」

その後、男性だと思っていた吉村会長が女性だと判明し、世間を賑わすのであった。