【ブラコン】【シスコン】沙智と春樹

沙智:
春樹の姉。

春樹:
沙智の弟。

吾郎:
応援の達人。


私は昼食を食べたかったが、見たこともない男がじっと見つめてくるので、食べる気になれなかった。私は隣に座っていた春樹を見た。春樹は笑顔でその男を見つめている。この男は春樹の友人なのだろうか?

沙智「春樹、あの男は一体誰なんだ? なんで私のことを見てくるんだ?」

春樹「あの人は応援の達人だよ」

沙智「応援の達人ってなんだよ。なんでそんなの連れてくるんだよ」

春樹「お姉ちゃん、ここ最近、食欲がなかったでしょ? それで心配になって応援の達人を連れてきたんだよ。応援されたら、食欲が戻るんじゃないかと思ってね」

沙智「戻らねえよ! ただの夏バテだから心配しなくて良かったのに。まあ、その気持ちは嬉しいけどな」

吾郎「いいか、自分が食べていると思うんじゃないぞ! 食事の神様に食べさせてもらっていると思え!」

応援の達人は私を指差し、ものすごい剣幕で応援らしきものをしてきた。指をさすんじゃない。初対面なのに失礼過ぎるだろ。

沙智「……何なんだ、あいつの応援は。ものすごく腹が立つ」

春樹「怒りのエネルギーを食欲のエネルギーに変えるんだ。食事の神様もきっと応えてくれるはずさ」

沙智「どうやら春樹はあいつに悪い影響を受けているようだな。一発シメておくか」

私は指の関節をパキポキと鳴らし、応援の達人に近づいた。応援の達人はあろうことか私のことを鼻で笑った。怒りが頂点に達した。どうやら腕に自信があるようだ。私も甘く見られたものだな。カンフーは君のためにあると言われたことがない私の見様見真似のカンフーをお見舞いしてやる。

春樹「おっと、お姉ちゃんVS応援の達人の戦いが始まろうとしています。いったいどちらが勝つのでしょうか? これは見ものですね」
いや、止めろよ。なんでノリノリで審判をやろうとしてるんだよ。そこは弟としてお姉ちゃんの暴走を止めるべきだろう。春樹がそんなことやりだしたら、もう後戻りできないじゃないか。応援の達人との戦いはもう避けられない。運命の歯車は動き出してしまった。……私はいったい何を言っているのだろうか? 何が運命の歯車だよ。

春樹「第1問、お姉ちゃんの下着は何色?」

私は突然のことに理解が追い付かず、固まってしまった。その瞬間、応援の達人がテーブルをバシンと叩いた。

吾郎「白色!」

春樹「正解! 応援の達人、1ポイント獲得!」

沙智「ちょっと待て、パニック! 何で私の下着の色を知っているんだ? いつ見たんだ? まさかとは思うが、隠しカメラを仕掛けているわけじゃないだろうな?」

春樹「続いて第2問――」

沙智「先へ進むんじゃない! 私はあまりの恐怖に背筋が凍りつきそうなんだぞ! 私の下着の色を知っている理由を教えろ!」

春樹「――お姉ちゃんの初恋の相手は誰?」

吾郎「春樹!」

春樹「大正解!」

沙智「ちょっと待て、大正解ってなんだ? 私の初恋の相手が春樹ってどういうことだ? なんでそれが大正解になるんだよ」

春樹「え? お姉ちゃんは僕のことが嫌いなの?」

沙智「いや、別に嫌いじゃないけど。春樹のことは大好きだよ」

春樹「それは良かった」

春樹はとても嬉しそうだった。どうにも春樹は私のことが好きすぎる。それは決して悪いことではない。ただ姉弟に対する好意というよりも異性に対する好意に近い。危うい一面を抱えている。私はそのことが心配でならない。

沙智「ただ私は姉弟として春樹が好きなんだ。異性として好きという訳じゃない。初恋の相手ではないよ」

春樹「……うん、分かっているよ。僕の願望に過ぎないってことはね」

春樹は先ほどの表情とは一転し、悲しい表情をしていた。胸がチクリと痛んだ。春樹も姉弟の一線を越えてはならないことは分かっている。それでも私への思いを抑えることができないんだ。

私はときどき、自分の春樹への思いは本当に姉弟に対するものなのかと疑問に思うことがある。本当は異性に対するものなんじゃないかと思う時があるのだ。一線を踏み越えてはならないという考えが理性を抑えている。私も危うい一面を抱えていると言える。

吾郎「第3問はまだなのか?」

応援の達人は不思議そうに私たちを見ていた。空気読めよ、今はそれどころじゃないと分かるだろ。どんよりとした空気が漂っていることになぜ気付かないんだ。

春樹「第3問、お姉ちゃんは自分に嘘をついている?」

応援の達人はキョトンとした表情で春樹のことを見ていた。この問題は台本にはなかったのだろう。だから応援の達人は問題に答えることができないんだ。

この問題には私が答えるしかない。否、私が答えなければならない。私は自分自身に問い質した。春樹のことを本当はどう思っているのか自問自答する。すぐに答えは出た。

私は春樹のことをじっと見つめる。

沙智「うん、嘘をついているよ。私は春樹のことが大好きだ。姉弟としてじゃなく、異性として好きだ」

春樹「僕もお姉ちゃんのことが大好きだよ。もちろん異性としてね」

私は春樹を抱きしめた。応援の達人はようやく状況を察したのか、盛大に手を叩いている。

この気持ちに気づかせてくれてありがとう、春樹。