将来の夢は勇者です。

光太郎(こうたろう):
将来は勇者になる予定の中学一年生の男子。

勇者(ゆうしゃ):
ネットで出会った現役の勇者。年齢不詳のおじさん。


今年中学1年生になる光太郎は無類のRPGゲーム好きである。

将来の夢は勇者で、ゆくゆくは仲間を募って魔王を倒したいと思っている。

ところがその夢を両親に話したところ、猛反対された上に泣かれてしまった。

勇者を目指すのはそんなに悪いことなのか――?

そう悩む光太郎は、ある日ネットで現役の勇者に出会い、初めての対面を果たしたのだった。

勇者「はじめまして、勇者です」

光太郎「あ、はじめまして! おじさんが勇者ですか?」

勇者「ああ、そうだよ」

光太郎「今日は色々お話を伺いたくて…俺、将来勇者になりたいんです」

勇者「あ、マジに? いやーでもあんまりオススメはできないかなー」

光太郎「え…そうなんですか? どうしてですか?」

勇者「まぁ一言で言って不況? みたいな? 勇者って最近あんまり必要とされないんだよね」

光太郎「そうなんですか…じゃあ勇者になるのは倍率が高いんですね」

勇者「ほんとそれ。勇者難民になるかもよ」

光太郎「そっか…。ちなみにおじさんは勇者として会社に所属とかしてるんですか?」

勇者「いや、俺はフリーの勇者だから」

光太郎「フリー! そういうパターンもあるんですね!」

勇者「そりゃそうよ。ほら、世の中には会社員とかフリーランスとか色々いるでしょ。それと一緒。勇者もいろんな働き方を選べる時代なわけよ」

光太郎「そうなんだ…。で、具体的にはどうやって魔王を倒してるんですか?」

勇者「いい質問きたね。実は今そこが問題になっててさ、この世には魔王っていうのがいないわけ」

光太郎「はい…それは俺もうすうす感じてました」

勇者「でしょ? だからね、まるで魔王だよねーっていう悪い人を倒すのが今の時代の勇者なわけよ」

光太郎「なるほど! 勉強になります!」

勇者「ところがそんなに悪い人っていうのはそうそう姿を現さないわけよ。そもそも現代社会には警察とかもいるし、そういう場合勇者はしゃしゃり出ちゃいけないの」

光太郎「えっ、じゃあどうすれば…」

勇者「だからね、警察がやるような仕事はやらないの。警察がやらないような仕事を勇者がやるわけよ」

光太郎「おおー! 警察がやらないような仕事をやるなんて、それだけでカッコイイっすね!!」

勇者「だろ? 俺もそういうとき、本当に勇者になってよかったなぁって思うよ」

光太郎「やべぇ…めっちゃテンションあがってきました!」

勇者「ははは! お前も早く勇者になれるといいな!」

光太郎「はい、頑張ります! ちなみにおじさんは最近どんな悪い人を倒したんですか?」

勇者「ん?」

光太郎「参考に聞きたいんです! 将来こういう人と戦うんだなぁってイメージトレーニングとかもしておきたいし!」

勇者「ああ、そう? おじさんが最近倒したのは家電製品だね」

光太郎「え…家電製品…?」

勇者「そう。近所のおばちゃんが家電製品が壊れたって言って困ってたんだよ」

光太郎「はぁ…」

勇者「なんで家電製品が壊れたかわかるだろう? そう…悪い奴の仕業だ」

光太郎「えっ!! そうなんですか!?」

勇者「そりゃそうにきまってんだろ! 悪い奴が家電製品を操作したからおばちゃんが困っちまったんだ。だから俺は勇者として家電製品を倒してやった!」

光太郎「ということは…家電製品は!?」

勇者「ゴミとして捨ててやったに決まってんだろ! 倒した後は始末しないとな!」

光太郎「その後おばちゃんはどうなったんですか!?」

勇者「そりゃ新しい家電製品を買ったに決まってんだろ。新品のほうがいいわね~なんて喜んでたぜ。俺は本当に良いことをしたと思ってるよ」

光太郎「そっか…家電製品を壊すなんてただの破壊かと思ったけど、そういう問題じゃないんですね!」

勇者「当たり前だろ! 俺は勇者だぜ?」

光太郎「ですよね! 俺、おじさんのこと尊敬します!!」

勇者「おう。俺の話を理解できるなんてお前は見込みがあるぜ」

光太郎「本当ですか?」

勇者「ああ。他のヤツラはちっとも理解できないらしくて、お前は少しおかしいとか、現実を見ろとか言ってくるんだ。本当に困った奴らだよ…」

光太郎「それは問題ですね! 俺は将来おじさんみたいな勇者になりたいです」

勇者「おお、そうか! じゃあお前、弟子入りするか?」

光太郎「え! 本当に良いんですか!?」

勇者「ああ。学校卒業していきなり勇者になるより、バイトで勇者をやっといた方が後々仕事もしやすいだろ」

光太郎「そうですね! うわー嬉しい! 俺、おじさんと出会えてよかったです!」

勇者「よっしゃ! じゃあ決まりだ! お前は今日から勇者見習いだな!」

光太郎「はい! よろしくお願いします!」

こうして光太郎は勇者見習いとなった。

ちゃんと将来のことを考えているという姿勢を示すため、もちろん両親にも報告した。

しかしこの報告を受けた両親は大激怒した上に泣き出してしまったものである。

更には「もうその男とは会うな!」と禁じられてしまった。

光太郎「折角、現役の勇者と出会えたのに…!」

光太郎「でも俺は諦めない…この世にはもっと他の勇者もいるはずだ…」

光太郎「その人達を探して、何としても勇者になってやる…!」

こうして光太郎は、勇者という夢に対しますます熱意を燃やすのであった。

勇者への道のりは遠い――。

END