【BL】約束と涙

コウスケの部屋で向かい合って話をするコウスケとナオヤ。

コウスケ「おまえってホント突然だよな」

ナオヤ「何が?」

コウスケ「……あれ、今日って会う約束してたんだっけ?」

ナオヤ「会う約束はしてないな」

コウスケ「だろ。突然家来るとか、どんだけ幼なじみ」

ナオヤ「幼なじみだからなあ」

コウスケ「なんかあった?」

ナオヤ「何もないよ」

コウスケ「……ならいいんだけど」

ナオヤ「心配してくれてんの?」

コウスケ「そんなんじゃない」

ナオヤ「えー?」

コウスケ「おまえが落ち込んでると昔からロクなことがないんだ」

ナオヤ「例えば?」

コウスケ「家出に付き合わされて俺の方がこっぴどく怒られたりとか」

ナオヤ「アハハ」

コウスケ「メールで『死ぬ』とか送ってくるから急いで戻ったらただの食いすぎだったとか」

ナオヤ「死にそうだったんだもん」

コウスケ「俺はおかげで置いてけぼりにした彼女にふられたんだよ!」

ナオヤ「お気の毒さまだねえ」

コウスケ「くっそ腹立つなあおまえ」

ナオヤ「だっておまえ、俺の言うこと何でも聞いてくれるじゃん」

コウスケ「何でもは聞かねえよ」

ナオヤ「そう?」

コウスケ「そうだ。もう急な呼び出しにも応じないって決めてんだよ、俺は」

ナオヤ「そうかなあって思って俺が来てみたわけだよ」

コウスケ「……そういうことかよ?!」

ナオヤ「おまえはどこまで行っても俺からは逃れられないってことだな」

コウスケ「ひどい話にもほどがある」

ため息をついたコウスケ。思いついたように続ける。

コウスケ「……おまえ、俺ばっか構ってないで彼女でもつくんないの?」

ナオヤ「彼女ねえ。好きな女の子ができたらつくるよ、そりゃ」

コウスケ「今はいないってことか」

ナオヤ「好きな女の子はいないね」

コウスケ「そんなんでいいのか?おまえの青春」

ナオヤ「特に不便を感じたことはないよ」

コウスケ「困ったときとか頼れるやつ、いた方がいいじゃん」

ナオヤ「そう?」

コウスケ「おまえ親いねーんだし、どっかでそういう欲満たしといた方が安全な気がするけど」

ナオヤ「何が言いたいのかはわからないけど、俺の欲望は満ち足りてるからいいんだよ」

コウスケ「そう?」

ナオヤ「そう。落ち込んだときはおまえのところに行けばいいしな」

コウスケ「やっぱおまえ今日ちょっと落ちてんだろ?」

ナオヤ「どうして?」

コウスケ「そんな素直にモノ言うことないじゃねーか」

ナオヤ「俺はいつも素直だけど」

コウスケ「よく言うよ」

ナオヤ「素直じゃなければおまえのところに来てるわけないじゃん?」

コウスケ「どういう意味だ?」

ナオヤ「今日は何の日でしょう?」

コウスケ「え、何日だっけ?」

ナオヤ「6月20日」

コウスケ「え、なんかあったっけ?」

ナオヤ「……」

コウスケ「どうして黙るんだよー教えてくれよー!」

ナオヤ「いや、やっぱり覚えてないんだなーと思って」

首をかしげるコウスケ。その顔をみてナオヤは笑う。

ナオヤ「俺が初めて家出した日」

コウスケ「なんっじゃそれ」

ナオヤ「記念日なんだ」

コウスケ「家出記念日?」

ナオヤ「そう、家出記念日」

コウスケ「それとおまえの素直さの関連とは」

ナオヤ「あの日、おまえが俺のとこに来いって言ったんだ」

コウスケ「へ?」

ナオヤ「家出したら俺のとこに来いって」

コウスケ「……あぁ」

ナオヤ「だから素直に参上仕りました」

コウスケ「え、家出したの?」

ナオヤ「してない」

コウスケ「なんっじゃそれ」

ナオヤ「してないけど、おまえ最近来てくれないから、俺のところ」

コウスケ「おまえが来るからだろ?」

ナオヤ「だから、あの日のこと思い出してもらおうって思って」

コウスケ「おまえそれまさか」

ナオヤ「ん?何か思い出した?」

コウスケ「いや、なんか俺の記憶におかしなシーンが」

ナオヤ「残念、たぶんそれは事実だねえ」

コウスケ「おまえ、なんでこっち近づいて来てんの」

ナオヤは立膝でゆっくりとコウスケの方へと近づいていく。

コウスケ「なあ」

コウスケ「おい」

コウスケ「近いって」

コウスケ「コラ」

ナオヤはコウスケの頬に触れるだけのキスをする。

顔がこわばっているコウスケ。

ナオヤ「……嫌だった?」

コウスケ「嫌とかそういうんじゃなくて、男同士だぞ」

ナオヤ「昔、してくれたのはおまえの方じゃん」

コウスケ「それはなんていうか、ガキの頃の話だろ!父親がほっぺたにキスすると喜んでたんだよ!」

ナオヤ「だから俺のことも喜ばせようって思ってくれたってこと?」

コウスケ「おまえが泣くから!」

ナオヤ「どうやって泣き止めばいいのかわかんなかったんだよねえ」

コウスケ「……おふくろさん、死んだんだから当たり前だろ」

ナオヤ「うん。でもおまえとキスしたら涙が枯れた」

コウスケ「びっくりして止まったんだろ」

ナオヤ「そうかもね。でも、だから、泣きたくなったらおまえの顔思い出すようになった」

遠くを見るような表情をするナオヤ。

ナオヤ「涙がとまるから」

コウスケ「……へこんでるんなら来いって言っただろ」

ナオヤ「忘れてたくせに」

コウスケ「別に、本気で覚えてなかったわけじゃない」

ナオヤ「じゃあ俺、泣きたくなったら一生おまえのところに行っていいの?」

コウスケ「別にいいよ。話聞くくらいなら俺にだってできる」

ナオヤ「じゃあ、これから俺が言う言葉も一生覚えてて」

ナオヤはコウスケの目をじっと見つめて、ひとことだけつぶやいた。

ナオヤ「俺、好きな女の子はいないけど、ずっと大好きな男ならいるよ」