大江戸婚活事情~金持ちイケメンをゲットせよ~

おねね:
江戸で婚活合コンに命をかけている女子。豆腐屋の娘。

おうし:
江戸で婚活合コンに命をかけている女子。廻船問屋の娘。

おとら:
江戸で婚活合コンに命をかけている女子。勘定奉行の娘。

一心:
婚活合コンに来たメンズ。

真二:
婚活合コンに来たメンズ。

三太:
婚活合コンに来たメンズ。


これは違う世界線の江戸時代の話――
逞しく生きる女性達は、年収が高いイケメンを見つけて将来楽をしようとメドゥーサのように目を光らせて生活していた。

そんな中、今年29歳になるギリギリガールなおねね・おうし・おとらの三人組は、自分のスペックを棚に上げながら夜な夜な婚活合コンに勤しんでいた。

おねね「今日こそ金持ちイケメン来ると良いね。この前マジ失敗だったじゃん?」

おうし「もぉ~わかるぅ~。この前の合コン最悪だったしぃ~」

おとら「あれは黒歴史だよねー」

おねね「今回は参加費もバリ高だし金持ちイケメン絶対捕まえようね!」

おうし「もぉ~当たり前じゃん~」

おとら「じゃあ気合を入れて…せーのっ」

おねね・おうし・おとら「イケメン、ゲットだぜー!」

三人は円陣を組んでそう叫んだ。気合はバッチリだ。

先日の「柳の木の下合コン」ではイケメンがいない上に幽霊まで出てくる始末だったので、今回こそ金持ちイケメンをゲットしたい――三人はそう思っていた。

その気合たるや半端ではない。

なにせ今回は大江戸一と言われる超セレブ婚活合コンイベント「江戸城三の丸合コン」なのだ。

一心「どうもこんにちは、一心です。34歳です」

真二「今日はよろしくであります。自分、真二であります。今年31歳であります」

三太「どうも、三太っす!えっと、今年で30歳っすね」

おねね「はじめまして、おねねと申します。今年25歳になる豆腐屋の娘です」

おうし「私はおうしですぅ~。今年24歳ですぅ~。父が廻船問屋やってますぅ~」

おとら「おとら26歳ですー。実家は代々勘定奉行ですー」

一心「へえ、皆さん結構若いんですね」

真二「この合コンには三十路程度の女性が集まると聞いていたので意外であります」

三太「でも若い女性とお会いできて嬉しいっす!」

おねね「ですよね!」

おねね・おうし・おとら(ラッキー!全員イケメン♪)

女性陣はここぞとばかりにサバを読みまくった。

前日に美顔エステと高級スパでデトックスしたせいか、男性陣は意外にもそのことに気付かなかった。

おねね「それで、皆さんは普段どんなお仕事されてるんですか?」

三太「俺は飛脚やってます!」

おとら「は…?飛脚…?」

三太「はい!残業は多めっすけど、やりがいのある仕事なんすよ!」

おとら「それ残業代出ます?」

三太「いや、それが残念ながら出ないっす!でもお客様が満足すれば俺も満足なんで!」

おとら「ボーナスってあります?」

三太「いや、それも残念ながら出ないっす!でもお客様の笑顔がボーナスなんで!」

おとら「退職金ってどのくらいです?」

三太「いや、それが残念ながら出ないっす!でもお客様からの感謝の言葉が資産なんで!」

おねね・おうし・おとら(それブラック企業だし!ないわー)

女性陣は、おねねの父のような9時―17時の公務員以外ありえないと思った。

ホワイト企業以外ありえないと思った。

おうし「一心さんと真二さんはどんなお仕事をされてるんですかぁ~?」

真二「自分は風呂屋を営んでいるであります」

おねね「へえ、お風呂屋さんなんて素敵ですね」

真二「かたじけない。昨今は女性向けの岩盤浴なども精力的に取り入れているであります」

おとら「まあ素敵ー!じゃあ真二さんと結婚すると岩盤浴使い放題ですねー♪」

真二「あっ…いや、そこはちょっと…」

おねね「あら、ダメなんですか?」

真二「家族は社員になるので、社割で利用してもらうことになっているであります」

おうし「え~でもかなりお安いんでしょぉ~?」

真二「3%OFFであります」

おねね・おうし・おとら(どんだけケチなんだよ!ないわー)

女性陣は、どんなに金持ちであってもケチな男はありえないと思った。

金銭を出し惜しみする男は優しさも出し惜しみする男だと思った。

おとら「じゃあ、一心さんはどんなお仕事されてるんですかー?」

一心「俺ですか?うーん…俺は二人ほど素晴らしい仕事をしていないから…」

おうし「なにそれぇ~逆に気になるぅ~」

一心「ははは。実は俺、放蕩息子なんだよね」

おねね「放蕩息子?」

一心「うん。ガキの頃に親父と喧嘩して…15歳の夜に盗んだ籠で家出したんだ」

おとら「家出!?」

おねね「籠で!?」

おうし「それで!?」

一心「そこからしばらく海を眺めたりしてさ…」

おねね「海というと?」

一心「うん。近場で恥ずかしいんだけど…カリブ海」

おとら「カリブ海!?」

おねね「海賊かい!?」

おうし「マジかい!!」

一心「それからは本当に色んな土地を転々としててさ…ヒドイ息子なんだよ」

おねね「ちょっと待って、お金はどうしたの?食べ物や寝泊りするところだって…」

一心「うん。その土地その土地で地道に働いて稼いでたんだよね」

おとら「なんてワイルド!」

おねね「なんてワールド!」

おうし「なんてワンダホー!」

一心「だけど最近ようやく親父と仲直りしてさ…もう一度ここ大江戸でやり直そうかなって」

おねね・おうし・おとら(何だかわからないけど素敵…!貴方についていきたい…!)

女性陣は、何だかわからないけど一心の武勇伝に心奪われた。

何だかわからないけど一心に胸きゅんしてしまった。

おねね・おうし・おとら(だが待て…!父親の仕事をチェックしなければ…!!)

おねね「お父様はどんな仕事をしているの?」

おうし「たしかにぃ~放蕩息子をそのままにしておくとかちょっと気になるしぃ~」

一心「あー…そうだよね。実は親父も毎日これといった事はしてないんだ」

おとら「えー?それどういうこと???」

おねね「まさか…親子ともどもニート…的な?」

一心「それに近いかもしれない」

おねね「え!!?」

真二「一心は親父さんの仕事を分かってないからそんな事を言うのであります」

三太「そっすね!一心は頭がイカれてるからよく分かってないだけっす!」

おねね「は?それはつまりどういう…」

真二「一心の父親は、100万石の某有名城主なのであります」

三太「そっすね!超お金持ちっす!」

真二「であるからして一心は社長令息なのであります」

三太「そっすね!超お坊ちゃまっす!」

おねね・おうし・おとら(つまり将来のお殿様ー!!?)

女性陣は一気にザワついた。全身の毛が逆立った。

100万石の土地を持つ城主の息子…こんな玉の輿物件が他にあるだろうか?

いや、ない。一生かかってもない。

これを逃してなるものか――!

もはや隣にいるサバ読み女など味方ではない。敵である。

どんなことをしてでも隣の女を蹴落として一心をゲットせねばならない。

女の友情はこの世の何よりも薄っぺらいのだ。

おねね「一心さん、今度私の作った豆腐を食べてくれませんか?」

おうし「いやいや、私と一緒になってくださいぃ~」

おねね「は?何言ってんの?あんた廻船問屋なんだから飛脚との方が相性いいじゃん」

おとら「そうだよー。二人とも運送業者じゃーん」

おうし「うちはちゃんと残業代出るもん~。おとらこそ勘定奉行ごときがうざいんですけどぉ~」

おとら「ごときって何よー!うちは立派な公務員家系だしー!」

おねね「でも勘定奉行とお殿様じゃ天と地の差じゃん。諦めなよ」

おとら「はー?豆腐屋の娘が偉そうなこと言うなってかんじだしー」

おねね「は!?豆腐を馬鹿にする奴は豆腐の角に頭打って重傷になりやがれ!」

女性陣は醜い争いを始めた。

超セレブ妻という将来を賭けてこれでもかというほど醜い争いを繰り広げた。

もはや齢29歳がバレてもいい…伸ばしたシワが元に戻ってもいい…

落ちたファンデーション?――NO,NO,そんなの気にしない。

だって目の前には、死ぬまで一生楽して暮らせそうなボンボンがいて、それさえゲットして永遠に飼いならせばもう何も悩むことはないのだ。

まあ多少は悩み事もあるかもしれないが、せいぜいお気に入りのネイルが1mm剥がれたとかその程度のことである。

おねね「勝負よ!勝負しましょ!!」

おうし「負けてなるものかぁ~!」

おとら「私だって負けないしー!」

女性陣の戦いは三日三晩続いた。

そうしてやがて勝利を手にしたのは、豆腐屋の娘おねねだった。

おねねは友人や家族にも「私、社長令息と結婚するから!これでセレブ妻になれる!」と大層自慢したものである。

彼女の未来は明るかった。光り輝いていた。

おねね「これからどうぞ宜しくお願いします♪」

一心「うん、よろしくね」

おねね(は~もう最高!一心さんてば、お金持ちだしイケメンだし!)

おねねは完全にうかれていた。うかれながら一心とデートを重ねた。

ああ、これぞ薔薇色の人生…!!

そう思っていたある日のこと、一心から重大発表があった。

これはもしやプロポーズ!?

おねねは高鳴る胸をおさえながら一心をみつめた。

一心「これから一生一緒にやっていくわけだから、色々話しておきたいことがあるんだけど…」

おねね「うん!なに?」

一心「うちの実家の城のこととか…あと別荘のこととか…」

おねね「別荘!?別荘まであるの!?」

おっしゃあああああ!!!ラッキイイイイー!!!

おねねはそう思った。

表面上ふんわり笑顔を作ったが、内心ゲヘゲヘと下卑た笑いが止まらなかった。

一心「俺さ、某有名城主の息子だろ?」

おねね「うん♪」

一心「だけど実家の城とか別荘とか、まあいわゆる家督は兄貴が継ぐんだよね」

おねね「……はい?」

一心「俺、基本的に15歳の夜に勘当されてるから遺産とかも貰えない約束でさ」

おねね「え……」

一心「だから今んトコ、真二の風呂屋と三太の飛脚会社でバイトしながら暮らしてんだ」

おねね「……」

一心「あ!あとさ、親父に借金もしてるからそれも返済しなきゃいけないんだ」

おねね「……」

一心「でもこれから二人で頑張っていこうな!」

おねね「…って。ちょっと待ってよ!話が違うじゃない!!嘘ついてたの!?」

一心「え?だっておねねちゃんだって嘘ついてたでしょ?本当は今年29歳だよね?」

おねね「なっ…そ、それは…!」

一心「ははは、お互い様じゃん。じゃあこれからもよろしくね♪」

おねね「……」

おねね(オワタ……人生オワタ………)

おねねの目の前が真っ暗になったのは言うまでもない――。

因みに真二はその後、風呂屋をチェーン店化し、長者番付に載るほどの財を築いた。

また三太は、飛脚業界で顧客満足度NO.1をゲットし、接客コンサルタントとして起業し誰しもが知る英雄となった。

一心とおねねは……………とりあえずギリギリ生きているらしい。

END