【GL】アイスクリーム・レクイエム

橋本:
女子高生。スポーツ万能で同性の人気が高い。

藤田:
女子高生。橋本が好き。


橋本「なー? やっぱりアイスクリームは手作りに限るっしょ?」

藤田「橋本さん、飲み過ぎよ」

橋本「いいのいいの。このアイスクリームにウイスキーをたらすのがまた格別なんだから」

藤田「その前にも、だいぶ飲んでたんでしょう? お友達も帰っちゃったみたいだし」

橋本「はぁ? 帰ったの? 薄情な連中だなー。いちばん落ち込んでる私を放っておいて」

藤田「まぁまぁ、私がいるからいいじゃない」

橋本「うう、あたしの友だちは藤田だけだよー」

藤田「それはそうと、そろそろ飲むのはやめにしない? 顔真っ赤よ」

橋本「いいじゃん。飲める機会なんてめったにないんだし。こんなときは飲まんとやってられないわよ」

藤田「まったく、あなた未成年なのよ」

橋本「じゃあ私の代わりに飲んでよ」

藤田「橋本さんが未成年なら私も未成年なの。クラスメイトなんだから」

橋本「そっかあ、そりゃーそうだ」

藤田「それに、私はお酒ダメだから……」

橋本「なーんだ。優等生さまでも飲んだことくらいあるんじゃん」

藤田「内緒よ。水持ってきてあげるから、そこ座ってて」

橋本「あー、私もトイレ行きたい。おしっこ漏れる」

藤田「ちょっともらさないでよ?」

・・・

藤田「手は?」

橋本「ちゃんと洗いましたよ。まったくこの世話焼きさんは」

藤田「あなたほっとけないんだもの」

橋本「アイス、もう1つずつ開けよーぜー。たくさん買ってきたんだ」

藤田「たしかに絶品よね」

橋本「だろー? ……もったいないよねぇ」

藤田「暗い顔して、何がもったいないの?」

橋本「……このアイスクリーム屋さぁ。もうすぐつぶれるかも知んないのよ」

藤田「どうして? こんなに美味しいのに」

橋本「店の一人娘が大学に行ってたらしいんだけどさぁ。こんど結婚すんだって」

藤田「おめでたいことじゃない」

橋本「年が5つくらい上の、女の人だって」

藤田「……そう」

橋本「それで、おやじさん倒れちゃってさぁ。孫に店でも継がせる気だったのかね」

藤田「結婚……」

橋本「んー?」

藤田「できるといいわね」

橋本「あー、そーねー」

藤田「私たちが初めて話したときのこと、覚えてる?」

橋本「えーっと、いつだっけ?」

藤田「私が一緒に帰りましょうって誘ったの」

橋本「あ、思い出した思い出した」

・・・

藤田「あの、橋本さん、一緒に帰りません?」

橋本「なんだよ。女同士で気持ち悪い。もう話しかけんな」

・・・

橋本・藤田「……ぷっ、あははは」

橋本「ほんとに最初こんな感じだったよな。今でも覚えてる。うちに帰って、あたしはバカだって、べそかいたっけ。せっかく仲良くなれるチャンスだったのに。あたしも意識しすぎだったんだ」

藤田「そんな風に思ってくれてたなんて、嬉しい」

橋本「ふーっ、恥ずかし。もう一つ食べよう」

藤田「お腹こわすわよ」

橋本「このバニラ味をウイスキーにひたして食べると……、うんめぇー!」

藤田「私はチョコ系が好きだからあんまり合わないかな」

橋本「試してみるといいよ。観光地の名物アイスよりよっぽどマシだと思うからさ」

藤田「たしかに、ひどい味のものあるわよね」

橋本「北海道にはアスパラガス味のアイスが売ってるらしい。三年の修学旅行が北海道だからさぁ、一緒に喰ってみようよ」

藤田「私は、遠慮しておくわ」

橋本「えー、なんで?」

藤田「食べられないから」

橋本「?」

藤田「私は定番のやつが好きだな。おっかなびっくり口に入れるのなんてまっぴら」

橋本「そーいうことね。冒険心ってものがないのがさぁ、藤田のよくないところだよ。絶好のタイミングに一歩踏み出す勇気がね」

藤田「下校を誘ったときは勇気をふりしぼったのよ」

橋本「そうだね。ごめんごめん」

藤田「私こそ、ごめんなさい」

橋本・藤田「……」

橋本「ところでさぁ、このバニラにウイスキーをひたすやつ、いっぺん食べてみなよ。超オススメ」

藤田「だから私はお酒ダメだって……」

橋本「さっきも言ったでしょ。冒険心、自ら新たな冒険へ足を踏み出す力よ。あたしたち未来を担う若者がそんなおよび腰でどうするのよ。ほら、ほら!」

藤田「ちょっと、ホントにやめてって」

橋本「絶対食わず嫌いだから、ほら、美味いから」

藤田「ダメなの、やめて!」

強く振り払う藤田。アイスが床に落ちる。
藤田の口元に、アイスがべったりとついてしまった。

橋本「あー……」

藤田「ごめんなさい、私……」

橋本「もったいねえ」

橋本は藤田の口元に舌を這わせてアイスを舐めとった。

橋本「あたしたちも結婚しちゃおうか?」

藤田「えっ」

橋本「なーんてね。やっぱあたし酔ってるわ」

藤田「結婚しましょ」

藤田は橋本を抱き寄せて口づけた。口の中にあるアイスはバニラとアルコールの味がした。

橋本「ばっ、あんた、何」

藤田「ホントだ。美味しい」

橋本「あんたこそ酔ってるじゃない!」

藤田「冒険心、一歩踏み出す勇気、でしょ。あなたが教えてくれたことよ」

橋本「おかしいな。さすがに飲み過ぎたみたい。藤田が透けてみえる」

藤田「橋本さんが、アイスにウイスキーかけるから。お酒、舐めちゃったから」

橋本「ああ、そうだ。あたしは、藤田の」

藤田「お酒は成仏しちゃうって本当なのね」

――昨日、藤田さんが下校中に交通事故に会ったそうです。夜までは持ちこたえてたらしいのですが、残念ながら……

橋本「あたしは藤田の葬式に出て、それから、友だちと飲んでて、それで」

藤田「ありがとう、橋本さん。一回しか喋ったことのない私のために泣いてくれて」

橋本「私が一緒に帰っていれば、死ななかったかもしれない」

藤田「でも、死ななかったら、きっとこんなにお話できてないわ」

橋本「ごめん、ごめんなさい」

藤田「謝ることなんてないわ。私、幸せよ。私たち、さっきまで親友みたいだった」

橋本「親友じゃなくて恋人だろ! 結婚すんだろ! 消えんなよ!」

藤田「会いにきてくれて嬉しかったわ。また、アイス食べましょ」

大きな声を出した橋本はめまいがして、そのまま意識を失った。
目が覚めたら大量の溶けたアイスを冷凍庫に入れて、固まるまで藤田のことを想っていようと決めた。