宴の後に

大野正幸:
主人公。

堀田麻衣:
主人公の元クラスメイト。


男1「みんなまたな~」

女1「うん、また絶対やろうね!」

男2「おう!じゃあ俺こっちだわ」

女2「あたしこっち~」

中学同窓会の後。

二次会のカラオケを終えて、駅前まで戻ってきた僕らは、そこで会を締めて、解散することになった。

成人式の後に行われた同窓会で、懐かしいメンバーに会って、当時は飲めなかったお酒を飲んだ僕らは、すっかりいい気分になっていた。

だから近いうちにまた飲もうなんて軽い気持ちで約束をしてしまったが、冷静に考えればそれが実現する確率は低そうだ。

特に僕は実家を離れ、東京の大学に通っている。

電車を乗り継げば半日もかからず帰って来られるとはいえ、僕は地元が実際の距離以上に遠いところのように感じていた。

そんな複雑な気持ちでみんなが駅やタクシー乗り場の方向に消えるのを見送ると、僕も自分の実家がある方向へ顔を向ける。

少し体をひねるだけの動作に、妙に力がこもる。

期待するな…期待しちゃだめだ…。

僕がなんとか体を向けた先には、先ほどの同窓会のメンバーの一人がこちらを向いて立っていた。

正幸「あ、麻衣さん…」

麻衣「みんな行っちゃったね。こっちの方って私たちだけなんだ?」

正幸「ああ、うん。そうみたいだ」

麻衣「じゃあ一緒に帰ろう?」

僕は頷いた。

頷いたはいいが、どのくらいの距離を保って歩けばいいかさえ、今の僕にはわからなかった。

駅を離れ、川沿いの道を歩く。

僕の家まではあと1キロちょっとしかない。

彼女の家はもうちょっと先だが、それでも会話がないまま家まで送るというのもおかしい。

何か話しかけなきゃ…。

麻衣「さっき、あんまり話せなかったね」

正幸「えっ?ああ、うん。たしかに」

逆に話しかけられてしまった。

好都合ではあるが、情けない…。

麻衣「マサって昔も男子の誰とも仲良かったもんね」

正幸「まあ、そうかな」

マサ。

それは僕の中学時代のあだ名だった。

しかし当時彼女からそんな風に呼ばれたことはあっただろうか。

麻衣「特に田口君と吉野君と仲良かったよね」

正幸「ああ、たしかに。よく覚えてるね」

麻衣「うん、だって田口君はバスケやってたし、吉野君は頭よかったでしょ」

そうなのだ。

僕が中学時代、親友と呼べるくらいの仲だったのが田口と吉野の二人。

田口はバスケが強かったうちの中学の中でもレギュラーとしてチームを引っ張っていたし、吉野は常に学年でトップクラスの成績だった。

そんな二人は学年でも目立っていたし、彼女が覚えているのもわかる。

でも僕と二人の仲が良かったことまで覚えているなんて意外だった。

それに僕は…。

正幸「でも俺はさ、二人みたいに目立った特技もないし、正直今思うと、なんであの二人と仲良くなれたのか、不思議なんだよね」

麻衣「そう?私は昔から、あの3人の仲っていいなあって…、ああいう友達関係作ってみたいなあって思ってたんだよ?」

正幸「あ、え…?そうなの?」

麻衣「うん。なんかね、みんな個性がバラバラなのに、3人が集まるとカッチリ一つになるっていうか…。居心地がよさそうな3人に見えたもん。お互いがお互いを認め合ってるようにも見えたしね」

正幸「個性…。俺の個性ってなんだろ?」

麻衣「うーん、やっぱり面白いところじゃない?」

面白い…。

確かに僕は昔から目立ちたがり屋で、人を笑わせるのが好きな子供だった。

特に女の子の前ではすぐ笑いに走るタイプだったけど、それは照れ隠しでもあったわけで、今となっては完全に黒歴史と化している。

特に好きな子の前では…。

麻衣「今日もね、遠くから見てて面白いなあって思ってたよ」

正幸「確かに今日はちょっとはしゃぎすぎた…」

麻衣「ふふっ。マサは変わらないね」

変わらない?

地元を離れて、友達も変わって、自分自身も随分変わってしまったと思ってたけど…。

気づけば僕の家まであと少しの距離というところまで来ている。

もし僕が本当に昔から変わっていないのなら、僕にはずっと胸に秘めた気持ちを言う権利があるんじゃないだろうか。

正幸「麻衣さん、さ」

麻衣「ん?」

正幸「同じクラスだったんだから、中学の時も、もっと話せばよかったね」

麻衣「…うん、そうだね。私も、あの頃マサに伝えるべきだったこと、いろいろあった気がするな」

え…?

これってもしかして、もしかするのか?

深夜12時を回って、郊外の田舎道には僕ら以外誰もいない。

ここで言わなかったら、次に言うチャンスはやってこないだろう。

正幸「麻衣さん、俺も中学の頃から、ずっと麻衣さんに言いたかったことがあるんだ」

麻衣「ん?なに?」

正幸「俺、1年で同じクラスになってから、ずっと麻衣さんのことが好きだったんだ」

麻衣「…えっ?」

あれ?

ちょっと僕が思い描いてた反応とは違うかも…。

しかも、あれ?

これ以上僕は何を言えばいいんだ…?

麻衣「ふーん…。そうなんだ…」

正幸「う、うん…」

麻衣「そっか。それ、中学の頃に聞きたかったな」

正幸「え、それって…」

麻衣「ううん、私は部活の先輩にずっと憧れてたから…」

正幸「がくっ」

麻衣「でもマサのことは、ずっと気になってたんだ。先輩に憧れてる時の気持ちとは違って、もっとマサと話してみたいって」

正幸「じゃあもっと話しかけてくれたら…」

麻衣「それはマサも一緒でしょ?女子とあんまり話すタイプじゃ無かったよね」

正幸「う……まあ…」

麻衣「私もね、話してみたいって気持ちもあったけど、マサは男子同士で仲良くしてる方が似合ってるなって思ってたし、私もそれを見てたかったんだ。あの頃はね」

正幸「あの頃は…」

麻衣「ねえ、私今どこに住んでるか知ってる?」

正幸「確か神奈川の大学に通ってるって聞いたけど…」

麻衣「そう。マサは東京だよね」

正幸「うん」

麻衣「あの頃はそう思ってたけど、今日は絶対マサと話そうって決めてたの。呼んだことないけど、マサって呼ぶのも決めてた。解散した後マサと二人になれるのもわかってたしね」

正幸「それは、うん、俺も…」

麻衣「まさかあんなこと言われるとは思わなかったけど…。でもやっぱり話してみてよかったって思った」

正幸「俺は…ちょっと言って後悔した」

麻衣「そうなの?今はもう好きじゃないんだ?」

正幸「中学からずっと好きって…キモくないか?卒業以来会ってなかったのに…」

麻衣「それは私が決めること」

正幸「…好きだよ、悪いかよ」

麻衣「ぜーんぜん。ねえ、今度は東京で会おうよ」

正幸「それって、同窓会のテンションでうっかり出た発言?」

麻衣「あはは、違うよ。確かにみんなはああ言ってたけど、また同窓会するのは大変かもね。でも私たちはあっちですぐ会えるでしょ?」

正幸「まあ、電車に数十分乗ればね」

麻衣「中学の頃は同じクラスで、こんなに近くに住んでて、それでもほとんど話したことなかったのに、東京と神奈川だったらすぐ会えるなんて、面白くない?」

気づけば僕らは話しながら僕の家の目の前まで来ていた。

正幸「…たしかにね」

いつの間にか彼女のペースになってはいたが、僕は快諾し、彼女は自分から連絡すると約束して、その日は別れた。

あれから2週間。

彼女からの連絡はない。

やはりあれは、アルコールと懐かしさによる、現実になりえない約束だったのか。

連絡先は交換したから、僕から連絡することもできる。

僕は彼女の言葉を思い出した。

マサは変わらないね。

彼女と同じクラスだった頃の僕はどんな人間だっただろう?

きっとこの状況だったら、自分から連絡はできなかっただろう。

僕は変わってないのか?

あの日彼女と話したことを何度も思い出してみる。

彼女は僕のことを意外なほどよく覚えていたし、よく見ていてくれたようだった。

僕は変わるべきなのか?

答えを出せないまま、僕は一人暮らしの部屋であの日の彼女との会話を何度も思い出していた。