勇者は宿屋に泊まりたい

勇者:
未成年。とても疲れている。

主人:
宿屋の主人。非行少年に厳しい。

魔法使い:
二十歳越えの女子。勇者の仲間。死んでいた。


勇者:「オヤジ、泊めてくれ」

主人:「お客さん、何歳だ」

勇者:「とりあえず一夜でいい」

主人:「何泊か聞いてるんじゃない。何歳だって聞いてんだ」

勇者:「十五歳だけど」

主人:「もう夜中の十二時だぞ!」

勇者:「ああ遅いし、夕飯がないならそれでも別に」

主人:「そうじゃない!こんな夜中に外泊しようとして!親御さんには言ったのか!」

勇者:「親?もう何ヶ月か会ってないな」

主人:「かーっ!親の心配をよそに素知らぬふりして外泊たぁふてえ野郎だ!」

勇者:「いや、俺、勇者だし、親の心配とかないよ」

主人:「みんなそう言うんです!自称勇者の親不孝者はみんなそう言うんです!」

勇者:「そんなこと言われても勇者だし、ほら見て炎の魔法使えるよ」

主人:「そんくらいの火ならマッチがあれば誰でもつけれらあ!大人ぶるのは自分でお金が稼げるようになってからにしなさい!」

勇者:「お金なら十五万円くらいあるけど」

主人:「親の金か!塾の入学金だってだましてもらって逃げてきたのか!『僕、こんどこそ勉強頑張るからさ!』ってなさけねえ」

勇者:「いや、俺がモンスター戦って、集めたお金なんだけど」

主人:「かーっ!夜盗かい!道理で薄汚れた格好してると思ったよ!」

主人:「いいかい!あんたみたいな若造には毎日飽きもせず同じ退屈な仕事を繰り返す大人は理解不能な存在かもしれないよ。しかし、それをモンスターだと言って狩るたぁ」

勇者:「いや、そんな変な偏見持ってねえよ。どんな若者観してんだよ。怖いわ。ちゃんと人食い狼とか洞穴の宝箱から集めた金だよ」

主人:「たしかに君を受け入れてくれない社会は怖いかもしれない。それでもだ!大人は君を食ったりしない!ほらおじさんだって君の話をちゃんと聞く!」

主人:「だから親のへそくりはちゃんと返すんだ!何も怖いことはない!なんならおじさんが一緒に行ってあげてもいい!」

勇者:「いや。おっさん、俺の話、なんも聞いてねえよ。もう疲れてるんだよ。どうしたら泊めてくれるんだよ」

主人:「君が未成年な以上、今すぐにでも親御さんのところに戻るべきだ」

勇者:「俺が未成年なのが悪いのね。ちょっと待ってろよ」

魔法使い:「オヤジ、勇者様と私で一泊おねがい」

勇者:「教会で魔法使いを生き返らせてきたぞ。魔法使いは二一歳だから大人だろ、泊めろよ」

主人:「不純異性交遊だー!」

勇者:「いや付き合ってないし、ほら俺と魔法使いは仲間っていうかビジネスの関係というかさ」

魔法使い:「そうよ、こんなガキに私が色目使うわけないじゃん」

主人:「親の金で、この男は小悪魔タイプのビジネス女とパーティナイトってか!かっー!」

勇者:「いや、もう本当に疲れているから寝たいんだよ」

魔法使い:「私も早く寝たい」

主人:「『私も早くぅ寝たいのぉ』ですって!かーっ!自称勇者君、君は騙されとるぞ!このビジネス女に!明日起きたらベッドには誰もいなくて財布は空のやつだぞ!」

魔法使い:「私をあばずれみたいに言わないでよ」

勇者:「あの、言い忘れてたんですけど、部屋は別でおねがいします」

主人:「そんなこと言っておいて、就寝時間になったらこっそり女子の部屋に行ってトランプとかウノとかして、そこから恋バナになって『実は俺、君のことが』てなるんだろ」

勇者:「妄想いい加減にしてくださいよ。いきなり修学旅行みたいになってるし」

魔法使い:「私、疲れたのお。とにかく早く泊めてよ」

勇者:「とにかく俺と魔法使いは変な関係ではないです!部屋が別なのは俺のいびきがうるさいって」

主人:「ほおら、いつもは一緒の部屋に寝てるんだあ!雀が朝チュン、お楽しみなんだあ!」

勇者:「なんでそうなるかなあ」

魔法使い:「うーん、さっきから聞いてたら、私と勇者様が一緒に泊まるのがよくないわけよね?」

主人:「そうですね、ビジネスワンナイト魔法使いさん」

魔法使い:「うわあ、腹立つ。じゃあさ、私だけでも泊めてくれない?」

勇者:「うわ、裏切り者」

主人:「何?私、誘惑されてるの?きゃー、二人とも私のために争わないで!」

魔法使い:「いや、してないし。一部屋一泊いくら?」

勇者:「いや、俺も疲れてんだよ、見捨てないでよ、仲間でしょ」

主人:「5千円になります。勇者君、ビジネス女なんてこんなもんだ。いい勉強になったろ」

魔法使い:「もう文句言う気力もないわ。じゃあお金はこれで、もう寝るから」

主人:「ほら、わかっただろう。女なんて自分の都合ですぐに裏切るのさ」

勇者:「もう疲れたよ。おっさんのひねくれた人生観なんて聞きたくないよ」

主人:「たしかに、女にふられた夜、そこから一歩踏み出すのはつらいかもしれない」

勇者:「ここに来てから会話が一歩も前に進んでないんだよ。どうなってんだよ、おっさんの脳」

主人:「俺も昔はそうだった。若い力だけで突っ走って、汚い金で悪い女を捕まえては騙された」

勇者:「自分語りするタイミング考えろよ。もう眠いんだよ。ここでいいから寝かせろよ」

主人:「それでも、今の嫁さんと出会って結婚して、貯金して、この宿屋を立てて、立派な娘もできた」

勇者:「もう寝ます」

娘:「おう、くそ親父!てめぇまだ、母ちゃんに今月分の養育費払ってねえらしいな!」

勇者:「ぐー」

主人:「これは悪い夢だ!私は嫁と別れていない!娘もこんなに派手な格好してぐれているはずがない!」

娘:「何、寝ぼけたこと言ってんだ、くそ親父!現実見ろよ!」

主人:「私の人生がこんなにめちゃくちゃなわけがない!私はもっとすばらしい人間のはずだ!」

娘:「いや、説教ばかり言うせいで客にも嫁にも逃げられた宿屋のおっさんだよ、あんたは」

主人:「私はもっと評価されるべき人間!そう!私こそ勇者だ!」

娘:「何、いい年こいて夢見てんだよ」

勇者:「ぐー」