大嘘吐きの顛末

嘘吐き男:
嘘は得意だが本音を話すのは苦手

正直女:
嘘吐き男に対する愛情がとにかく深い


嘘吐き男「はははっ。君は俺を嘘吐きだと言うのかい?おかしいねぇ。おかしいねぇ。俺ほど正直な人間はいないよ。それでも君は俺を嘘吐きだと?」

正直女「私はあなたほどの嘘吐きは見たことがありません。当たり前のように自然に嘘をつく。それがあなたでしょう?」

嘘吐き男「心外だねぇ。傷ついたよ。俺の純真無垢な心は君の悪意ある言葉によってズタズタさ。どう責任を取ってくれるんだい?」

正直女「本当に嫌味な人ですね。最初に傷つけたのはあなたでしょう。あなたの嘘のせいで私がどんな目に遭わされたか本当に理解しているのですか?」

嘘吐き男「だ~か~ら~、俺は嘘なんてついてな~い!常に正直に話すのが俺なのさー」

正直女「っ!……あなたはどこまで人をバカにすれば気が済むんですか!」

嘘吐き男「バカになんてしてないよ。君が勝手にそう思っているだけだろう?俺のせいにするなよ」

正直女「……」

嘘吐き男「んん?泣くのかい?泣いちゃうのかい?いいよ、それで君の気が済むんならね。思う存分泣けばいいさ。俺の心には何にも響かない」

正直女「なんで私は……あなたを好きになったんでしょう?」

嘘吐き男「見てくれだけはいいからね俺。性格さえ除けば、優良物件さ」

正直女「もういいです。あなたの言葉は聞き飽きました。謝ってさえくれれば、それでいいんです」

嘘吐き男「謝る……謝るねぇ。それはつまりアレかい?俺が……君を好きだという噂を大学内に流布させたことを言っているのかい?」

正直女「それ以外に何があるんですか?」

嘘吐き男「俺は瞬きと同じ数だけ嘘を吐いているからね。君が何を指しているのか分からなかったのさ」

正直女「あなたが何を考えているのか分かりません」

嘘吐き男「俺ほど分かりやすい人間はいないよ。嘘をつくということさえ除けば、正直者だからね」

正直女「その嘘をつくところが一番厄介なんです」

嘘吐き男「そうだろうねぇ。何せ君は俺の嘘を真に受けて、人前で堂々と告白してきたんだからねぇ。傑作だったよ。俺が振ったときの君の絶望した顔。いやぁ、いろんな奴に嘘をついた甲斐があったもんだ。大変だったんだぜ?君と縁ある人間全員に、君に対しての好意を吹聴するのはさ。だからこそ信憑性が増したんだけど。君も人前で告白さえしなければ、今ほどの恥はかかなかっただろうよ。バカだねぇ」

パン。男は一瞬何が起きたのか分からなかった。頬に強い衝撃が来た。分かることはそれだけだ。

正直女「最低です。……あなたは本当に最低な人です!」

女の目には涙が溜まっていた。こぼさないように歯を強く食いしばっている。

嘘吐き男「あー……なるほどね。ビンタされちゃったか。まぁ、それが普通の反応だよね。むしろお咎めなしのほうが戸惑うものね」

男はクツクツと笑っている。楽しくて仕方がないというように、溢れんばかりの愉悦を抑えようともしない。

女は絶望した。――自分の言葉は何も響かない。目の前に突きつけられた事実に女はついに涙をこぼした。

正直女「どうして、どうして、どうして私だったんですか?!……なんで私を」

嘘吐き男「なんで?……ははっ、決まっているじゃないか!君が俺を好きだったからさ。相手も自分が好き……その希望を覆されたときの君の顔が見たかった!俺は絶望した君の顔を見たかった!見たかったんだよ。傷ついた人間の表情をさ」

男は笑っている。狂気めいた表情で笑っている。すべてをあざ笑うかのように。

正直女「私があなたを好きだったから?……たったそれだけの理由で私を傷つけたんですか!」

嘘吐き男「そうだよ。だってさ考えてもみろよ。俺を好きでもない奴に好きだっていう情報を流したところで告白してくるとは限らないじゃないか。それに俺に対する好意がなかったら裏切られたところで絶望しないだろ?俺が見たいのは絶望した顔なんだ。だからこそターゲットは俺に好意を抱いている人間じゃないとダメだった。ただそれだけのことだ」

正直女「うう……。ひぐっぐす。嫌いです。あなたなんか大嫌いです!」

嘘吐き男「えぇー。本当に嫌いだったらそんなに傷ついた表情しないでしょ?やーい、君も嘘吐きだー」

正直女「またビンタされたいですか?」

嘘吐き男「それはごめんこうむるぜ」

正直女「……もういいです。あなたには期待しません。何を言ったところで謝る気はないでしょう。もういいです。さようなら」

女は泣きながら、この場を去ろうとした。

正直女「なんですか?」

女は自分の手を掴む男を睨み付ける。

嘘吐き男「俺、嘘吐きなんだよ」

正直女「分かってますよ」

嘘吐き男「いーや、分かってないね。果たして何が嘘で何が真実だったのでしょうか?俺が君を好きだという噂、それは嘘か真か?君は本当に理解しているかい?」

正直女「何が言いたいんですか?」

嘘吐き男「俺って大学生にもなって、小学生男子みたいな考え方なんだよね」

正直女「はっ?」

嘘吐き男「簡単に言えば、好きな子にこそ意地悪したくなるみたいな?」

正直女「はっ?」

嘘吐き男「ところで君はピークエンドの法則を知っているかい?」

正直女「人はピーク時とエンドで印象を決めるという奴ですか?」

嘘吐き男「そうだ。この状況におけるピークとは君の絶望だ。それだけで終われば、最悪の記憶だっただろう。しかーし、最後の最後で実は両思いだったんだぜということが判明すれば、良い思い出になる。終わり良ければすべて良し。ギャップ萌えという言葉もあるし、絶望した後に希望を与えれば、俺に対する好意も鰻登りになるはず……という考えの元、君を騙した。さてご感想は?」

正直女「散々傷つけた後で言っても信憑性ないです。それに私はもうあなたに好意を持っていません。さようなら」

女は手を振り払い、足早に立ち去った。一人残された男は頭をポリポリとかき、そっと呟いた。

嘘吐き男「自業自得……なんだろうね。ただ単にいろんな顔が見たかったんだけどなぁ。はぁ、やっぱ俺って””真実””は向いてないな」

正直女「最初から素直にそう言えばいいんです。いくら傷つけられようとも、あなたを好きであることに変わりはありませんよ」

嘘吐き男「えっ?」

正直女「ピークエンドの法則ですよ!」

女は涙に濡れた顔で…嬉しそうに笑った。