本業は勇者、副業は姫

本業は勇者800x500

Illustration by うみの


姫:
一人称は「わたくし」
その実態は勇者

勇者:
一人称は「あたし」
金無し力無し何も無しなので勇者になった勇者、魔法だけは得意


勇者「ふう、チャンスなんだけどなぁ……姫の救出かぁ……。これで名前が売れれば勇者認定も受けられるんだけど……でも姫をさらったのが魔王ってのがなぁ……あたしも魔法専門だし魔法vs魔法ってのは効率悪いんだよなぁ……。物理攻撃専門の人材募集の貼り紙は貼っておいたけど……誰か来てくれないかなぁ……」

コンコンコン……(ノックの音)

勇者「お、来た! 噂をすれば、かな……開いてますよ、どうぞー」

謎の女「貼り紙を見てきたのですけれど、姫の救出の主催者ってあなたかしら?」

勇者「ですです、助っ人募集してます。えっと、応募されるのはあなたのお兄さんかお父さんですか?」

謎の女「わたくしが応募者ですわ」

勇者「…………すみません、もしかしたら誤解があるかもしれないんですが……相手は魔王だし道中には野盗も出るし、危険がてんこ盛りなんで……」

チャキッ! 勇者の首筋に光るものが押し付けられる

勇者「(い……いつの間に間合いを詰めてきたんだこの女……美人だけど剣を首筋に突きつけてくる美人は出来れば近くで見たくないなぁ……)」

謎の女「この程度のことなら軽く出来ますけれど、不足かしら?」

勇者「いやいやいや、お手並み拝見しました。かなりの腕前とお見受けしますが……しょうじき女性にはあまり危険を冒(おか)させたくないなー、とか思ったりー……」

謎の女「あら、あなただって女性でしょう? それに、ご心配なく、わたくしの本業は勇者ですわ。はい、登録証」

謎の女から勇者に紙切れが渡される

勇者「確かにこれは勇者協会発行の勇者認定証……」

謎の女「ちなみにあなたは、まだ勇者認定されていないと言うお話を伺ってますけど」

勇者「(ギクッ)いいいいいい、いや……それはアレですよ、実力あれどもチャンス無し……ってやつで」

謎の女「(認定証をしまいながら)まあいいですわ、確かに魔力はお強いようですし」

勇者「え、わかります?」

謎の女「わたくし、魔法使い認定1級も持ってますの」

机に突っ伏す勇者

勇者「……ひどい……あんまりだ……差があり過ぎる……」

謎の女「まあ仕方のないことですわ、人それぞれ才能と言うものがありますもの」

勇者「(グサグサグサッ)何でそれだけ才能のある人が、こんな募集なんかに応募してきたんですか?」

謎の女「急いで救出に向かいたいからですわ、わたくしが今から募集かけるより早いですもの」

勇者「まあこれで2人ですからね」

謎の女「そうですわ、途中でメンバーを増やせば到着までに充分な戦力が集まると思いますしね」

勇者「はいはい、了解です。すぐに出られます?」

謎の女「副業のほうは片付けてきましたので、すぐにでも出発できますわ」

勇者「副業……?」

謎の女「副業は、姫ですの」

町外れを歩く2人

勇者「いや……でも姫はさらわれたって……」

謎の女改め姫「さらわれたのは、わたくしの妹に当たる25番目の姫ですわ。嫁入り先も決まっていますので、早急に助け出さないといけませんわ」

勇者「そりゃ大変だ。でもあなたも姫なのに、何で勇者を本業に?」

姫「顔も知らない相手に嫁(とつ)がされるのは、ご免こうむりたいからですわ。わたくし、剣も魔法も得意ですので認定も受けられましたし」

勇者「(再びグサグサ)……うぅ……でも王様に反対とかされませんでした?」

姫「まあ手ごまが減ると言う意味では、反対されましたわ。政略結婚できる姫は多いに越したことはないでしょうし」

勇者「(マジか……王族ってのはひでえな……)で、自立なさったと」

姫「えぇ。これで妹を助けられれば、完全に王家から足を抜けられると言う約束をしてまいりましたの」

勇者「んー……納得できるような出来ないような約束なんですが」

姫「王宮では飢えることも着るものに困ることもありませんけれど、自由だけはありませんわ。食べるものにも困っている人たちには申し訳ないけれど、それでもこれだけは譲れませんの」

勇者「なるほど……王族にも色々あるんですねぇ……まぁ、お互い利益は一致していることですし」

姫「そういう事ですわね、まあ、あなたはわたしくの足を引っ張らないようにだけ気を付けてくれればいいですわ(にっこり)」

その場に崩れ込みそうになる勇者、その勇者の腕をとんでもない力で引きずりあげる姫。

そのまま引きずられながら

勇者「(はぁ……もしかしてあたし、とんでもない貧乏くじ引いたかなぁ…… この人魔王より怖いんじゃないかな……)」

魔王の城に向かって颯爽とした足取りで歩く姫、よろよろと付き従う勇者。

二人の姿を夕日が照らしていた……。