迷宮求深者 −Deep Diver− 3 第3話

●セイゴ:
ディープダイバー五人目のメンバーで、戦士。
偶然出会った新人パーティ「ペイルシーズン」の面倒を見させられる。

●ペイルシーズン:
ごく最近、ハブラムにやって来た新人パーティ。
リーダーのミライ(戦士♂)を筆頭に、ドミニク(戦士♀)、カノン(盗賊♂)、レミニス(僧侶♀)、バンナム(司教♂)の五人編成。
酒場で出会ったセイゴを強引に仲間に引き入れる。


先走ったペイルシーズンの後を追う為、セイゴが酒場を飛び出してから、ものの数十分程度後。

迷宮第二階層に入ってすぐのエリアで、セイゴはあっさりと、一行に再会出来た。

しかし……

ミライ「あ、セイゴさん――」

セイゴ「お前ら、何て有様だ!」

ドミニク「こ、これはその……ハハハ」

バンナム「面目ない、舐めてかかっておりました……」

彼らの状況は、一目で判るくらい惨憺たるものだった。

前衛になっていたであろうミライとドミニク、レミニスはいずれも重傷で、レミニスは意識不明の状態。

後衛のカノンとバンナムは重傷に加え、立ち上がることすら困難なほど疲弊している。

特にカノンの顔色の悪さから、かなり危険な状態に陥りかけているのは明白だ。

ミ「セイゴさん、あの、これは……」

セ「話は後だ! お前とそこの女、急いでこれを飲め!」

セイゴは、ザックの中から青い液体の入った瓶を二本取り出し、ミライとドミニクに渡した。

言われた通りに瓶の中身をあおった二人は、目を剥いて立ち上がった。

ミ「これは? 身体の痛みと疲れが、一瞬で……」

セ「お前とそこの女は、死にかけの二人を背負え!
この老け顔は、俺が連れて行く」

バ「ふ、老け顔とは、私のことですか?!」

ド「わ、わかったよ……」

セイゴは、バンナムを軽々と背負うと、あっという間に階段を駆け上っていった。

その様子を呆然と見ていたミライとドミニクは、少し遅れて残りの仲間を担ぎ上げた。

ミ「と、とてもじゃないけど……は、走れない!」

ド「あの人、一体どういう脚力してるの?!」

女性と小柄な少年とはいえ、装備品込みで背負うのは、相当な負担になる。

そう考えたミライは、カノンとレミニスの装備品の一部を外し、その場に残していくことにした。

同時に、カノンに持たせていた収穫品を入れた袋も――

迷宮を出た一行は、そのまま「聖ホールスティン寺院」に連れて行かれ、治療を受ける流れとなった。

幸運にも、唯一治療が簡単に済んだミライは、寺院内のホールでセイゴから問い詰められていた。

セ「――いきなり三階層まで進んだだと?」

ミ「は、はい。二階層までの地図はありましたし、
そこまで特に何もなかったので、多分安全だろうと……」

セ「それで、三階層まで安易に向かったのか。
いったい何に襲われた?」

ミ「全身真っ青な、騎士のような連中でした。
とにかく、数が多くて……」

セ「ブルーナイト如きで、この有様か」

ミ「如きって……三十体は間違いなくいましたよ?!」

セ「そんなことはどうでもいい。
何故、俺と合流してから行こうとしなかったんだ」

ミ「それは……やはり、無理にお付き合いして頂くのも悪いかと思ったので」

セ「昨日さんざんつき合わせておいて、今更それか」

ミ「す、すみません!」

セ「全く……お前らは無謀を通り越して、もはやバカの領域だな」

ミ「……」

セイゴは、ミライに詳しく説明した。

ハブラムの迷宮の上層階は、比較的迷宮の構造が単純で、探索がしやすい。

その上、モンスターの出現率も低い第二階層までなら、初心者の進行もさほど問題にはならない。

しかし、第三階層から突然迷宮構造が複雑化、更に出現するモンスターの危険度も高まるので、第二階層までと同じ感覚で進んではならない。

これが、ハブラムに集う冒険者達の共通見解なのだ。

これを甘く見たため、甚大な被害に遭ったパーティは数知れず、中には初回で全滅したまま死体回収屋に回収すらされなかった者達もいる。

セイゴは、そういった細かな情報を事前収集することなく、焦るように迷宮深部へ入り込んだミライ達を嗜めた。

セ「とにかく、最初はじっくり時間をかけて情報収集に励め。
それからの探索でも、遅くはない」

ミ「は、はぁ……ですが」

セ「何を焦ってるのか知らんが、事を急いた結果がこの有様なんだぞ」

ミ「た、確かに」

セ「寺院の治療なら、明日には全員動けるようになる筈だ。
明日は俺も付き合ってやるから、必ず声をかけろ。いいな」

ミ「は、はい。でも……」

何か言いよどむミライに、セイゴはやや苛立った声を返す。

セ「言いたいことがあるなら、きっちり言え」

ミ「はい、あの、失礼ですが……
セイゴさんのランクは、おいくつなのですか?」

ランクとは、冒険者にとっての称号のようなものだ。

「ギルド」と呼ばれる組合機関で認定されたランクは、実力を公式で認めている証となる。

まだ実戦を経験していなければ1、それなりに熟練したもので13など、数字が大きくなればなるほど熟練者ということになり、それに伴って迷宮探索での需要が高まっていく。

ランクを高めるためには、ギルドの提示する厳しい認定試験をパスする必要があり、それだけに信憑性が高い評価ポイントとなるのだ。

セイゴは、少し言いよどむような態度を取り、静かに天井を見上げた。

セ「ランクか……そうだな、16ということにでもしといてくれ」

ミ「意外ですね、僕達とそんなに変わらないなんて。
僕は14です」

セ「14? それくらいなら、充分第十――」

そこまで呟いて、セイゴは口を噤んだ。

最近は、道場のようなところでランクを高めることが出来るシステムも広く導入され、そのため高ランクの初心者が多くハブラムに入り込んでいるらしい、と以前聞いたことがあった。

他のメンバーのランクについても、得意げに語り出すミライ。

そんな彼をよそに、セイゴは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

セ「――わかった、もういい。
だったら、必要なのは実戦経験とノウハウの蓄積、だな」

ミ「はい、そう思います。明日からよろしくお願いします」

セ「ああ……」

自分とランクが近いことで親近感でも得たのだろうか、急に表情が明るくなったミライをよそに、セイゴは眉間に皺を寄せ、後頭部をポリポリと掻いた。

セ(ランクか……そんなもの、今まで考えたこともなかったな)

妙に晴れ渡った空を見上げ、セイゴは、自分の腹を手で押さえた。

ぐぅ、と小さな音が、鳴り響いた。

一方その頃――

本来の主人公パーティ「ディープダイバー」は、相変わらず永久回廊のトラップに嵌り続けていた。

リュウヤ「ぜぇ、ぜぇ……や、やっと終わりかよ!!」

モトス「――57、58、59……ろ、60体!」

アリス「し、新記録ね……はぁはぁ」

ザウェル「いくらなんでも、こんなに一度に出てくるのは、私も初めてだよ」

リュウヤ達四人は、完全閉鎖された上に魔法で通路の末端が繋げられた廊下の途中で、モンスターの大群に襲われた。

幸い撃退はしたものの、どんどん追加で現れる上に、休憩直前に現れたため、さすがに激しく疲労させられた。

リ「毎度毎度思うけどさ、この“ブルーナイト”って奴ら、一体何なんだ?」

ザ「迷宮内に放たれている、一種のゴーレムだね」

モ「弱いからまだいいけどさ、数で押してくるから厄介だよね~」

ア「あたしさぁ、初めて遭った時、てっきり人間だと思ったのよ。
でもさ、ホラ……こんなありえない装備じゃない?
それに気付いてぞっとしたんだよね」

モ「まーこれで人間が入ってたら、二度と鎧脱げないもんね」

ア「でしょ? でしょ?」

リ「ザウェル、このナイト型のモンスターって、あとどれくらいいるんだっけ?」

リュウヤの質問に、ザウェルは指折りして考える。

その様子が妙に可愛らしく、アリスはつい微笑んでしまった。

ザ「他にブラック、シルバー、ゴールドが確認されているね」

モ「シルバーって、あの超やっかいな奴か」

ア「ゴールドなんているんだ! あたし、遭った事ないよね?」

リ「あーゴールドはなあ……なんか、お前に似てる」

そう言いながら、リュウヤはアリスの胸を指で突く。

プレートメイルの装甲に遮られ、指先がカツンと軽い音を鳴らす。

リ「うお、硬ぇ!!」

ア「ぶん殴るわよ、このエロ無精ひげ!!
って、あたしに似てるって、どういう意味よ?」

リ「だってそりゃあ、なあ?」

リュウヤは、ニヤニヤしながら、手近な壁を拳で軽くコンと突く。

それを見たモトスとザウェルが、苦笑いを浮かべた。

ア「ちょっと、どういうこと?!」

モ「あはは、それはね、遭えば嫌でもわかるよ」

ア「??」

ザ「さてそれよりも――いい加減、休憩を取らないとまずいね。
アリス、すまないけど、また例の呪文を頼むよ」

ア「あいあい。……ちょっとリュウヤ、何よそのジト目は?」

リ「アンパン、もう飽きた~!」

ア「ゼータク言うな! 緊急事態なんだから、しょうがないでしょ?!」

モ「せめてコーヒー牛乳くらい選択肢が欲しかった」

ア「そんなこと言ったって、しょうがないじゃない。
制御も修正も出来ないんだからさ、僧侶の魔法って」

リ「僧侶の魔法って、魔道師の魔法とは理屈が違うんだろ?
魔道師のはなんとなくわかるけど、僧侶の魔法ってどういう理屈で
使うもんなんだ?」

ザ「僧侶の魔法は、卓越した神への信仰心による恩恵効果の
具現化なんだよ」

リ「ごめん、もちょっと、噛み砕いて頼む」

ザ「つまりね、神という信仰対象に対して強い想いや祈りをぶつけると、
その念自体が、特別な力を持つようになる。
そういう訓練の末に特殊な呪文効果を得られるまでになったのが、僧侶達さ」

リ「要するに“思い込みの強さ”が原動力で発動するってことか?」

ザ「ありていに言えば、そういうことだね」

ア「ち、ちょっとちょっと! 違うってば!
僧侶の魔法はね、そんな単純なもんじゃないの!
創造神アーメス様から賜った聖なる力を受けて、それを(以下1000文字省略)」

リ「よくわかったありがとう(棒)」

ア「ぜぇったい、話聞いてなかったでしょ!!」

モ「まあまあ、それより、食料お願いするよ、アリス」

ザ「そうだね、我々がこれだけ冷静さを維持できているのは、
アリスの魔法のおかげなんだからね」

ア「え? あ、そ、そう? ……や、やっぱりぃ?」

休憩用キャンプの簡易結界を張り、アリスはクリエイトフード&ドリンクの呪文を詠唱した。

リ「ん……? なんか、これいつもと違くね?」

モ「あ、本当だ。――って、これクリームパンじゃないか!」

ザ「どれどれ……モグモグ。
――おお、優しい甘さで、とても美味しいね!」

リ「すげぇぞアリス! アンパン以外もイケたじゃないか!!」

ア「あー、これね……」

何故か苦笑いしているアリスに、リュウヤは不思議そうな表情を向ける。

ア「実はね、千回に一回くらいの割合で、
アンパン以外のパンが出ることがあるみたいなの」

モ「え、そうなの?」

ア「前にも、チョコパンとか、ウグイスパンとか出たことがあって」

ザ「じゃあ、これはすごく幸運だってことなんだね」

リ「まあ、なんでもいいや! 俺実はクリームパン大好きでs……ん?」

パンを一かじりした直後、リュウヤが大きく眉をしかめた。

リ「なあ、アリス」

ア「もぐもぐ……ん、なに?」

リ「さっき、千回に一回の割合で、アンパン以外が出るっていったよな?」

ア「うん、それがどうしたの?」

リ「それで、チョコパンとウグイスパン、クリームパン出たんだろ?」

ア「だから、それがどうしたってのよ?」

リ「ってことはお前さ……今まで何回、この呪文使ったんよ?」

ア(ギクッ)

モ「んん?! あ、そうか。最低でも三千回以上は使ってないと、
そんな事言えないもんね」

リ「でも、俺達と組んでからは、そこまで沢山使ってねぇだろ」

ア(ギクギクッ)

ザ「アリスは、とっても研究熱心なんだね。
一つの呪文の効果を、そこまで探求するなんて、
なかなか出来ることじゃないよ」

ア「あ、そ、そう?」

リ「アリス……お前、さては」

ア(ギクギクギクッ)

リ「セイゴに食わせてただろ!!」

ア(?!)

ザ「ああ、なるほど。そういうことか。
セイゴが処分したっていうなら納得だね」

ア「え? え……っと」

モ「オレはさ、てっきり間食とか夜食用とか、
金欠の時の食費軽減に使ってたんだと思ったよ!」

ア(ギクギクギクギクッ!!)

ザ「アリス、どうしたんだい?
凄く顔色が悪いけど?」

ア「あ、あはは、アハハハハハ♪」

モ「こんな状況じゃ疲れも溜まるもんね、仕方ないか」

ア(ぎ、ギリギリ、セーフ!!)

モ「俺達がまだ平静でいられるのは、この四人が揃ってるから
ってのも大きいと思うよ」

リ「だな。一休みしたら、本気で脱出方法考えようぜ、もっかい」

ザ「今まで考えもしなかったような、大胆な発想が必要かもしれないね」

そう呟きながら、ザウェルは果てしなく伸びる回廊の奥を眺めた。

→ 04へ続く