【BL】ラブレター

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ラブレター1
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放課後の教室でツカサとトモヒロが椅子に座っている。
窓が大きく開けられていて、カーテンがはためいていた。

ツカサ「今朝、靴箱の中にラブレターが入っているのを見つけたんだ」

ツカサが言うと、机に向かって書き物をしていたトモヒロが顔を上げた。

トモヒロ「本当か?」

疑いの目でツカサを見るトモヒロ。

ツカサ「本当だとも」

大きくうなずくツカサ。

トモヒロ「証拠は?」

ツカサ「コレだ」

ツカサが机の間から取り出したのは、白を基調として四隅に花があしらわれたかわいらしい封筒だ。ハート形のシールで留められている。

トモヒロ「いや、ファンシーな柄の便箋だからといって必ずしもラブレターだとは限らないだろう」

ツカサ「中身を読めば瞭然のことだ」

トモヒロ「見せてみろよ」

ツカサ「お前はプライバシーという言葉を知っているか?」

トモヒロ「それじゃあ、その乙女ちっくな便箋の中身がラブレターだと仮定してだ。誰からもらったものなんだ?」

ツカサ「お前はプライバシーという言葉を知っているか?」

トモヒロ「そこまで何も言う気がないのなら、なぜ俺にその話をしたんだ」

ツカサ「自慢してみたくなったから?」

トモヒロ「お前の頭を200回ほどシェイクしたくなる発言だな」

ツカサ「しかし、今時ラブレターなんて古風な人だろ」

トモヒロ「確かにそれだけで好感度はうなぎ上りだ。今までは道端の石ころくらいにしか考えていなかった女子だとしてもバラの花くらいには見えてくるかもしれん」

ツカサ「安い男だな」

トモヒロ「お前に言われたくはないな。男は皆単純なものだ」

断言するトモヒロにツカサは苦笑した。

トモヒロ「そろそろ教えてくれても良いだろう。その奥ゆかしい女子の名前は?」

ツカサ「プライバシー」

トモヒロ「うるさい」

ツカサ「仕方がないな。どうしても気になるというのなら、見せてやってもいい」

トモヒロ「ほう」

ツカサ「ただし条件がある」

トモヒロ「なんだ?」

ツカサ「つい先日、おまえの野球部における女房役と話をした」

トモヒロ「崎坂と?めずらしいな」

ツカサ「お前が恋に狂っていて部活が疎かになっているという相談を受けたんだ」

思いがけない言葉にトモヒロは動揺した。

トモヒロ(アイツ、殺す……!余計なことを言いやがって)

トモヒロ「それはアイツの勘違いだと思うが?」

平静を装うトモヒロに、ツカサはさらに言い募った。

ツカサ「朝練の遅刻に部活サボりに暴投の連発だって?俺がセカンドだったとしても不安になるだろうな。しかし勘違いならこの話はなかったことにしよう。お前の恋愛相談に乗ってやろうなんて親切心を出した俺がバカだった」

トモヒロ「お前はただからかいたいだけだろ……」

思わず机に突っ伏するトモヒロ。

トモヒロ(チームプレイのスポーツってホントやだわ……プライバシーのカケラもない)

トモヒロの様子を横目に、ツカサは意気揚々と話を続ける。

ツカサ「真面目に相談に乗ってもいい。こう見えて俺は都高のカリスマ恋愛カウンセラーと呼ばれている」

トモヒロ「初耳にもほどがあるわ……」

ツカサ「さあ、どうする?まあ俺のラブレターなんてお前にとっては取引材料にもならないかもしれないけどな」

トモヒロ「それだけ自慢されればどれだけかわいい子からもらったのかと正直気になってたまらない」

ツカサ「それでは?」

トモヒロ「ただし俺にも条件がある」

ツカサ「なんだ?」

トモヒロ「お前がそいつを俺に見せるのが先。中身が真っ白のコピー紙だったなんてことになったら目も当てられないからな」

ツカサ「……まあ、いいだろう。どうぞご覧くださいませ」

ツカサはハートのシールを丁寧にはがし、中から同じ模様の便箋を取り出した。

トモヒロに手渡すと、一瞬のためらいをみせた後でトモヒロが受け取る。

トモヒロ「やけに素直だな。もっと抵抗するかと」

ツカサ「智名無く勇功無しと言ってな」

トモヒロ「……?おまえの言うことはときどきよく分からん」

ツカサ「しかしな、これをお前に先に渡すとなると、俺の予想では取引条件が無意味になると考えているんだが」

トモヒロ「訂正しよう、お前の言うことはいつもよくわからん」

ツカサ「まあそれを見てみろ。おまえの疑問の回答はすべてそこにある」

トモヒロ「……?」

おそろしく中身が、というよりは自分の想い人に告白した女子が気になっていたトモヒロは、戸惑いつつも便箋に視線を落とす。

そこには不思議と見覚えのある筆跡でつづられた真摯な思いが詰まっていた。

しかし、宛名に書かれていたのはツカサの氏名ではない。

もっと言うのなら送り主は女子の名前ですらなかった。

ツカサ「おそらくお前にとっての俺は大親友だったはずだから、そのラブレターで俺の存在は神にでもなったかな」

トモヒロ「……お前は俺の神様になりたくてこんな恋文を書いたというのか」

ツカサ「違うな、恋人になりたいんだよ」

その瞳が思いがけず真剣でトモヒロは思わず笑みをこぼす。

トモヒロ「まあ、俺の恋愛相談の必要性は失われたとだけ言っておこうか」

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ラブレター2
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放課後の教室でトモヒロとツカサは椅子に座って話をしている。

ツカサ「そういえば」

思いついたようにツカサがつぶやき、トモヒロは彼と視線を合わせた。

制服の上着のポケットを探ったツカサは、取り出した封筒を無言で机の上に置く。

封筒はピンク色で表に猫のキャラクターが描かれている。

トモヒロ「これは何だ?」

トモヒロの疑問の言葉に、何でもないことのようにツカサは答える。

ツカサ「見ての通りのラブレターだ」

トモヒロ「ファンシーな見た目だけではラブレターだとは断言できないが」

ツカサ「まあ、俺は中身を見たから知っている。間違いなくラブレターだ」

トモヒロ「……俺の認識からすると俺たちは付き合い始めて三か月のラブラブカップルのはずだが、これもイチャイチャの一環だということだろうか」

ツカサ「非常に残念かつ期待したのなら申し訳ないのだが、差出人が俺ではないラブレターだ」

トモヒロ「ついにお前も女子に告白される時が来たか」

ツカサ「俺に告白された経験がないと思い込んでいるところがお前の詰めが甘いところだな」

トモヒロ「あるのか?!」

思わず立ち上がったトモヒロをツカサが制す。

ツカサ「無いとは言わない」

トモヒロ「女子か?!」

ツカサ「もちろん」

トモヒロ「その得意げな顔がむかつく……」

トモヒロが悔しそうに言うと、ツカサ笑った。

ツカサ「まあしかし俺のことはこの際良いだろう。俺がやりたいのはお前との取引だ」

トモヒロ「今度はなんだよ……」

ツカサ「このラブレターの差出人及び中身を知りたいか?」

トモヒロ「……そりゃ、気にならないとは言わんが」

ツカサ「見せてやってもいい。ただし」

トモヒロ「『条件がある』だろ。なんだよ?」

ツカサ「付き合い始めて三か月のラブラブカップルであるところの俺たちだが」

トモヒロ「真剣な顔でラブラブとか言うな」

ツカサ「俺にはひとつ不満があってな」

トモヒロ「真面目な顔で言うのやめろよ。こわいだろ」

ツカサ「お前からの愛の言葉をきいたことがない」

トモヒロ「はァ?!」

ツカサ「俺はあんなに真剣に心を込めてラブレターさえ書いたというのに、お前ときたら『好きだ』の一言すら口に出さないという体たらくだ」

トモヒロ「男は態度で示せって親父から言われていてな」

ツカサ「お前の両親の離婚原因が見えたな」

トモヒロ「やめろ」

ツカサ「しかし俺とて鬼ではない。今さらお前の気持ちがわからないとも言わないさ。ただ一度くらいはお前からの愛の告白を聞きたいなと、それを願うのは贅沢か?」

トモヒロ「九州男児は愛の言葉なんて知らんのぜよ」

ツカサ「バリバリ関東生まれのお前らしからぬ言葉だな。ちなみに坂本竜馬は高知出身だ」

すべてを見通したように言うツカサにトモヒロはため息をつく。

顔をつっぷしてしばらく唸りながら考えたが、羞恥心がこらえきれないと判断したようだ。

トモヒロ「……いや、やっぱダメだ。そのうちな!ラブレターもOKの返事を出すつもりがないのなら俺は関わらない!気にしない!それが男だ!だからお前もガマンしてくれ」

ツカサ「……わかった。それなら取引条件を変えよう」

トモヒロ「へ?」

ツカサ「『好きだ』と言ってくれないのならこのラブレターを今から音読する。嫌なら言え」

トモヒロ「おまえ、むちゃくちゃ言うな?」

ツカサ「『いきなりこんなお手紙を読ませてしま』」

ガサガサと手紙を開き大きく声に出して読み始めるツカサの口を、トモヒロは慌てて抑えた。

トモヒロ「うわぁ、待て待てやめろよ!」

トモヒロの制止に応え、ツカサが手紙を伏せる。そしてにっこりとトモヒロに笑顔を向けた。

ツカサ「それじゃあ、どうぞ」

トモヒロ「……わかったよ………」

ツカサの両肩にトモヒロが手を置く。耳元でひとこと囁き、口づけた。

ツカサ「百点満点だな」

トモヒロ「脅して言われた言葉でも嬉しいものか?」

ツカサ「そこに本音があると信じていればな」

トモヒロ「よくわからんが、満足したのなら良いよ」

満足げに笑うツカサにトモヒロはため息をつく。

ところがツカサは、ピンク色の封筒をトモヒロの目の前へと滑らせた。

ツカサ「そうだった、とりあえずこれはお前に渡しておくよ」

トモヒロ「どうして?目的は達したのでは?」

ツカサ「その疑問の答えもまたその手紙の中にあるわけだ」

不信感を露わにしつつトモヒロが手紙を表に返し、中身に目を通す。

しかし、期待したツカサの名前はそこにはなく、宛先として書かれていたのは見慣れた名前。

トモヒロ「なんで俺宛ての手紙をお前が持ってんだよ!!」

ツカサ「たまたまお前の下駄箱をのぞいたらファンシーな封筒が見えてな。恋人としては気になったわけだよ」

トモヒロ「紛うことなきプライバシーの侵害だな」

ツカサ「客観的にみればそうかもしれないな」

トモヒロ「主観的にみてもそうだろうが」

ツカサ「いいや、恋人同士の場合は事情が異なるというのが一般的だ」

トモヒロ「お前の言うことは本当にわからん」

ツカサ「俺が嫉妬しているってことだよ」

トモヒロ「……。」

ツカサ「ああそうだ、返事を忘れていた。俺もおまえのことが好きだよ」

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ラブレター3
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放課後の教室で向かい合って椅子に座るツカサとトモヒロ。

ツカサ「これがなんだかわかるか?」

ツカサが白いA4サイズの紙をトモヒロに掲げてみせる。

トモヒロ「なんだ?プリント?」

ツカサ「残念ながらラブレターではない」

トモヒロ「それは見ればわかる」

ツカサ「進路希望調査票だ」

トモヒロ「あーそういや先週配られたっけ」

ツカサ「我々はまもなく受験という戦争に巻き込まれるわけだ」

トモヒロ「まあそういうことだな。おまえどこ受けるの?それ見せろよー」

ツカサ「無断で他人の進路希望調査票をのぞこうとは躾がなっていないな」

トモヒロ「プライバシー侵害って言われるよりひどいな。なんで見せてくれないんだよ」

ツカサ「俺にも秘密のひとつやふたつあるということだ」

トモヒロ「それならどうしてそんなものを見せてきたんだ」

ツカサ「おまえの進路が気になるからに決まっているだろう」

トモヒロ「あー俺?知っての通りバカだからな。受かるところを受けようって思ってるけど?」

ツカサ「おまえが見た目通りの馬鹿なのは知っているが、進路すらまともに考えていないとは思わなかったな」

トモヒロ「何しろ膨大な選択肢をお持ちのツカサくんとは違いますので」

ツカサ「ちなみにだが」

トモヒロ「うん?」

ツカサ「俺は東京の大学へ進学予定だ」

トモヒロ「へ、まじかよ。地元じゃないのか」

ツカサ「地元の大学という選択肢こそ俺にはないな」

トモヒロ「まさか東○大学を受けるつもりか?!」

ツカサ「東京大学を受けても構わないとは思っているけどな」

トモヒロ「世界がちがう」

ツカサ「元からおまえと同じ世界にいたつもりなどないが」

トモヒロ「それが大好きな恋人に言う言葉かね……」

ツカサ「それでは大好きな恋人にふさわしいお願いをしてやろう」

トモヒロ「お、なんだ?」

ツカサ「おまえと一緒に東京の大学に行きたい」

トモヒロ「お、おお……。意外にかわいいこと言うな、おまえ」

ツカサ「俺のことはさみしいと死んじゃうウサギみたいなものだと考えてくれ」

トモヒロ「えらくでかいウサギもいたもんだな」

ツカサ「まあウサギがさみしいと死ぬというのはデマだが」

トモヒロ「何がしたいんだよおまえは」

ツカサ「おまえは進学しても野球を続けるんだろう?」

トモヒロ「あーそうだな、それが望ましくはある。頭よりは身体を使いたい」

ツカサ「下ネタはやめろ」

トモヒロ「そんなガリ勉みたいな見た目でそれを下ネタと捉えるんじゃねーよ」

ツカサ「ガリ勉が下ネタに興味がないと思ったら大間違いだ。おまえはそれを知っているはずだが……?」

トモヒロ「変な雰囲気出すのもやめろ!」

ツカサ「まあそんなわけで、おまえが目指すべき大学を探してリストアップしてきた」

ツカサはホッチキスで右端を留めた書類をトモヒロに手渡す。

トモヒロ「仕事がはえーな!」

ツカサ「ちなみに住居は俺と同じだと想定して大学の所在地を決めている」

トモヒロ「まあ、同じマンションとかなら楽しいかもな」

ツカサ「同じ部屋でもな」

トモヒロ「展開もはえーよ」

ツカサ「さみしいと死んじゃうウサギちゃんみたいなものだからな俺は」

トモヒロ「そのセリフに真実味を感じるときが来るとは思ってなかったわ」

ツカサ「ちゃかしている暇があるのなら要偏差値欄をよく見るべきだと思うが」

トモヒロ「……おまえ、コレ無理だよ?」

ツカサ「おまえが馬鹿なことは知っている」

トモヒロ「何度も言うなよ」

ツカサ「しかしおまえの良いところは愛すべき馬鹿だと言うことだ」

トモヒロ「はぁ」

ツカサ「愛すべきと書いて『可愛い』と読むことを知っているか?」

トモヒロ「口説かれている気がしてきた」

ツカサ「馬鹿なりに知恵がまわるな」

トモヒロ「おまえは俺をなんだとおもってるんだ」

ツカサ「可愛い恋人」

トモヒロ「真顔で言うのをやめろ」

ツカサ「そんなわけで部活も引退したことだし、放課後はみっちり勉強させてやる」

トモヒロ「いや、だけどさ、やっぱ親とかにも許可とらないと。下宿できるような金あるかわかんないぜ」

ツカサ「その件なら問題ない。お母様からは『うちのバカ息子をよろしくね』と」

トモヒロ「なんで俺より先に母親と話してんだよ!」

ツカサ「将を射んと欲すれば先ず馬を射よってな」

トモヒロ「おまえのことちょっと怖くなってきたわ……」

ツカサ「そんなわけで恐怖に震えるウサギちゃんにはこの進路指導票を渡しておく」

トモヒロ「おまえの行くとこも確認しとけって?」

ツカサに手渡された紙を覗き込むと、氏名欄にはトモヒロの名前が書いてある。

トモヒロ「俺のかよ!」

ツカサ「記入済みだから早めに提出しろよ」

トモヒロ「有無を言わさぬ強引さだな」

ツカサ「おまえがウンと言うのが先か、コイツを黙って提出するのが先かといったところだったが、順番が逆にならなくてよかったよ」

トモヒロ「それって結局一緒じゃね?!」

ツカサ「本質は同じでも過程を大事にしたいという俺の真心だ」

トモヒロ「……ほんとおまえって俺のこと好きだよな」

ツカサ「そうだな、大好きだから来年は24時間一緒にいよう」

トモヒロ「ハイハイ。ウサギ並に可愛がってやるよ」

何気なく言った言葉に赤面したツカサが見られたことで、勉強漬けになることが予想される1年もなんとか乗り切れそうな気がするトモヒロだった。