【BL】執事の彼と恋愛フラグ

小鳥遊 空和 (タカナシ アオ) 17歳 財閥御曹司
朱雀野 白  (スサガノ アキ) 27歳 小鳥遊家執事
小鳥遊 海和 (タカナシ ミワ) 24歳 空和の姉


お嬢様と執事のあれやこれやは、よく見かける。
例えば、乙女ゲームとか、小説とか、ドラマとか……絵に描いたようなラヴ・ストーリー。

(小鳥遊 空和:タカナシ アオ──17歳。一応、アジア圏内有数の財閥の御曹司って事になっている。7つ年の離れた姉が1人と両親と祖父母の6人家族……プラス、家族同様で自分専属という関係で10歳年上の執事・朱雀野 白:スサガノ アキが1人と、その他大勢。)

白 「お帰りなさいませ。空和さま」

空和「ただいま。アキ」

空和(相変わらずの完璧イケメン・スーパー執事っぷりのかなり目線が上にある彼の顔を見上げそう答えた。シックな漆黒のバトラージャケットはロング丈。ピシッとしたシルクのシャツの衿元にはシルバーグレーの刺繍が入ったリボンタイ中央に金の飾り釦が付いていて品がある。オレが言うのもなんだけどね……。)

白 「私の顔に何かついておりますか?空和さま」

空和「目と眉と耳が2つずつと、口と鼻が1つずつ付いているよ」

白 「……さようでございますか。では、お茶のご用意を致しますのが、リビングに致しますか?それとも──、」

空和「部屋に持ってきてくれる?あと宿題のレポート見て欲しいんだけど、いいかな?」

白 「かしこまりました。では、お部屋へお持ち致します」

空 和「ありがとう。じゃ、部屋で待ってるね」

(背中を向ける視界の隅で、アキが変わらず美しい所作で一礼するのが見えた。身長188㎝漆黒の髪にムーングレイの瞳は曾祖父の血が影響していると聞いた記憶がある。普段は柔らかなストレートの前髪は執務時にはキッチリ上げて整え、年齢より若く見える面影を隠していた――――。オレは、ね……)

空和「どちらかと言うと、普段の方が好きだな」

白 「は?」

空和「……うん、いや。こっちの話」

白 「聞き捨てなりませんね。その『好き』と言うのは」

空和「なに?そうなの?アキでも気になる事あるんだね」

白 「はい、どうぞ」

空和「ありがと」

(差し出された紅茶はウエッジウッドのティーカップに綺麗な琥珀色を満たしていた。ユラユラ煌めくそれは、まるで凪いだ水面のように……そしてカップを受け取りながら内心、溜息を吐いた。ああ『ハグラカサレタ』かな?──と。)

空和「ダージリンのセカンドだね。いい香り……やっぱり、これ好き」

白 「この時期はよく紅茶を召し上がりますからね。空和さまは」

空和「そうかな?……ん、でもアキが言うなら、そうかも」

白 「最初は苦手でございましたね紅茶。渋い・不味いとよく……」

空和「ちょ……、なに思いだしてるの?やめてよ!昔の事。今はちゃんとアキの淹れてくれる紅茶は美味しく頂いてるだろう?」

白 「いえ、私は何も……」

空和「何も、って顔してないじゃん」

白 「申し訳ございません。つい」

(実際、オレは今でも紅茶は大の苦手。でも、アキが淹れてくれる物なら、きっと煮え湯でも飲めると自覚したのはかれこれ10年も前になる。今、思えばかなりマセていたと言うか……困った感情と言うか。けれど、この感情の『好き』が『Like』から『love』だと解るまでにはまた少し手間取った──。だって……解る。それって『普通』じゃない。)

空和「笑ってないで、さ。ほらこれなんだけど……ちょっとまとめ方が分らなくて」

白 「歴史検証のレポートですか。……珍しいですね、日本史を選択なさったなんて」

空和「だって、アキ。歴メンじゃん?」

白 「歴メン?ですか?」

空和「女の子だと『歴女』って言うから、アキは歴史好きのイケメンだから『歴メン』」

白 「……それは、」

空和「ちゃんと褒め言葉だよ。なに警戒してるの?」

白 「警戒……は、していませんが」

空和「……が?」

白 「あ、いえ。『イケメン』とは」

空和「そこ無自覚だと案外、反感買うと思うし謙遜だと嫌味」

白 「善処致します」

空 和「うん」

(そうして2人で顔を見合わせ笑う。うん、笑うとさ、ちょっとオレが好きなアキの顔になるんだ。柔らかなマスカットの香りで包まれた今の時間は大切。壊したくない、けれど……そこから先に感情が箍を外しそうで不安が募るのも事実だった。息と同時にその邪な気持と言葉を紅茶と共に飲み込んで、いつもと変わらないように資料をアキに差し出した。)

白 「あとは、このまま時系列で記載してよろしいかと」

空和「ありがとう。お陰でずっと判りやすいのに短く纏まった」

白 「お役に立てて何よりです。それにしても……」

空和「なに?そこで言葉、溜めないで。気になるし」

白 「いえ、そんなつもりではなくて。相変わらず綺麗な字をお書きになるなぁ……と」

空和「……それって、さ?」

白 「勿論、褒め言葉ですよ」

(柔らかな声が耳に心地いい。その笑った顔も、仕種も、少しだけ異国の色彩を燻らした瞳も、その瞳に自分が……自分だけが映し出されている時間も──不意に揺れる琴線に今日に限ってアキが無警戒に触れてきた。柔らかな掌の感触が自分の髪を梳く。昔と変わらず優しい……酷く子ども扱いしているように。)

空和「……ッ、」

白 「空和さま?」

空和「“さま”……いらないし」

白 「……そう言う訳にはまいりませんよ」

空和「オレがいいって言ってる!」

白 「我が儘を仰らないでください」

空和「アキはオレの執事だろ?だったら何でも言う事を聞いてくれてもいいはずだ」

白 「空和さま?」

(感情が交差して、錯綜する。揺れて、流れて、行ったり来たりしながら悲しいのと悔しいのと虚しいのと……怒りと焦りと後悔と積もり募ったこの行き場のない味わったことのない、どうしようもない自分の中で欲と理性がせめぎ合う――――)

空和「……、き……なんだ、」

白 「空和さま?」

空和「解ってるよ……おかしいんだ、オレ……絶対、言っちゃダメって……でも、」

白 「……」

(立ち上がった弾みで椅子が倒れた音が届いた。何をどうやって、こうなったのか分からないまま気が付けばアキの右腕に両手でしがみ付いていた。きっと、困ってる。俯いた自分の視界に映らなくても、見なくても判る……当たり前だ、そんなの、そんな事。でも、言わないと、もう何もかも一杯だったから。)

空和「……好き、なんだ。アキの事……もう、ずっと前から……その、恋愛的な意味で」

白 「……」

空和「ふざけてないし、言ってる意味は、ちゃんと……判っている、よ。だから……」

白 「貴方は未だ、恋をなさっていないのでしょう……?一緒にいる時間が長かったから」

空和「……違う!それは、」

(言葉を全て遮るようにアキの手が自分の手を、そっと外した。ポツンと取り残されてのは告白の言葉と、気持ちと――そして掴んだ自分の両手だった。)

白 「今の言葉は私の心にだけ留めておきます。どうか、一時の感情でそのような事を他言せぬよう小鳥遊家の長男としての自覚をお持ち下さい」

空和「……」

(静かな音で言い含めてくるアキの声には感情が伴っていなかった。まるで機械のような、無機質の言葉の形がパタパタと落ちているようで……俯いたままの自分の足許に出来る雫の跡と同じようで滲んでぼやける視界を右腕で無理矢理擦りあげる刹那、パタン……と終わりを告げるように扉が閉まる音が部屋の中に沈んでいった。)

海和「……あーお!起きなさーい!こら、ちょっと貴方、アキと喧嘩でもしたの?」

空和「してない。ケンカ、は」

海和「だったら、どぉして、わたしが貴方を起こしに足を運ばなくてはいけない訳?」

空和「だから、ごめん……って」

海和「……で?学校は、」

空和「休む。頭痛い!怠い!起き上がれないし、立ち直れない」

海和「仮病」

空和「違う」

海和「失恋」

空和「笑いたかったら、笑えよ」

海和「あははははは!バカな子ねー。あんな堅物のどこがいいの?そりゃ確かに見た目はパーフェクトだけど」

空和「本当に笑うか!?うるさい、悪かったな!変態の弟で」

海和「別に変態じゃないでしょ。恋愛感情は男と女の間だけに生まれるものとは決まってないんだから」

空和「……なんだよ、この姉。おかしいだろ」

海和「おかしくないわよ!いいわ、泣きなさい。そしてまた恋をすればいいのよ」

空和「いい、もう面倒」

海和「ばっかねー!1回くらい当たって砕けたら終わりなの?ガンガン行けば何とかなるわよ!……見ていれば分かるのに。お互いバカだからお似合いよ」

空和「意味わかんないし」

(恥ずかしいくらい泣きはらした目と、初めての長い間片思いからの失恋というショックで朝ベッドの中でウダウダしていたら姉が部屋を強襲してきて、一連の会話となった訳だけど――最後に言っている言葉の意味が理解できないまま、取りあえず恩赦が叶い病欠となった。)

空和「……このまま気まずいの、ダメだよな……」

(昼近くまで、ゴロゴロしながらも今後の事を自分なりに考える。仕方ない、自分が撒いた種だ……思えば男に告白されるあの不快感を知らないオレではなかったのに――ちょっと顔が中性的に構築形成されて生まれたばかりに何かしら酔狂な輩から言い寄られてきた経験が全く無駄になっている事に気が付いた。ゴメン、アキ。今さらだけど何となく自分が最低な変態に思えてきて穴があったら、いやなくても掘って入りたい気分だった。そんな自己嫌悪がピークに達した残念なタイミングで部屋をノックしてきたのは誰あろうアキ本人)

白 「空和さま……あの、」

空和「昨日はゴメン。本当、悪かったよ……反省してるし、その……アキが嫌なら、誰かと代わってもらうし……あ、でも、言ったことは本当だから、ふ……ふざけてとかじゃないから……って、えーと、ごめん。気持ちわるかったよな……」

白 「……代わるとは、どういう事ですか?」

空和「え?……だって、アキ嫌だろ?オレの側にいるの……だから、う・わ!?」

白 「貴方の側にいられないなら、私はここを辞めますよ」

空和「え?……あ、アキ!?」

(ベッドの布団に潜り込んで背中を向けたままボソボソ言ってたら突然、身体が浮き上がった――と思った時には目の前にアキの顔が髪の触れる距離にあってビックリと同時にえも言われない恐怖が襲う。近い!近い!近いからーーーー!!そう叫びたかったけどもう酸欠の金魚みたいに口をパクパクさせるのが精一杯なオレにアキが言う)

白 「まったく……こんな泣きはらした目をして、そんな事を言っても無駄です」

空和「って、ちょっと……見るなってば!もう、離せ!バカ!」

白 「大人に向かって告白したのなら、それ相応の覚悟をして頂きます。勿論、私は、その何百倍も覚悟を決めて参りましたけれど」

空和「……か、覚悟って。アキ?」

白 「もう一度、昨日の言葉を言って頂けますか?」

空和「昨日……!?」

(くるまったシーツごと抱きかかえられた状態で間近に迫るアキの言葉はオレを混乱させるには十分過ぎた。そして昨日の言葉……と脅迫まがいに強要する執事に逆らえないまま)

空和「……好き、だよ」

白 「私も空和が大好きです。もう、ずっと前から……」

(――お嬢様じゃなくたって、例えば紆余曲折の執事の彼とこれから始まる、恋愛フラグなラヴ・ストーリー。)