求める道

ソウルは考えて混んでいた。この扉を開こうかどうか。一度開けてしまうともう二度と後戻りはできないのだ。何度も何度も自分の心と葛藤していた。取っ手に手をかけては放し、放してはまた取っ手に手をかけ・・。

もうどれ位たったのだろうか。自問自答も尽き果てた。考えるということには終わりがあるのに気が付いた。ソウルは取っ手に手をかけて、扉を開いた。

この出来事のしばらく前、ソウルのいる世界は光で溢れ、たくさんの美しい自然で満たされていた。毎日目が覚めれば起き、眠たくなれば寝る。食事というものはなく、ただ単にこの空気を吸い込んでは呼吸し、周りのものたちと一緒に動いたり話したり。いわゆる日課というものは存在しない。そして争い事も悲しみもない。何もないということ、これがもしかしたら平和というものなのかもしれない。

もうここに来て数十年、いや数百年かも知れない。時間の概念さえなく、ただいつも穏やかに穏やかすぎるぐらいの毎日を送っている。地位や名誉、金もなく、周りのみんなと体を触れ合ったりそれぞれの少しの温かさを感じ合いながら、平穏を保って暮らしているのだ。

何もなければ欲が出てこないの? と思われるが、心に思ったこと、念じたことは、一瞬にして目の前に現実となって達成してしまうので、何の努力も苦労もなく欲しいものは手に入るし、病気やケガもない。それぞれの格差さえもないので、争うということはまず起こらないのである。

ある時ソウルは今まで考えたこともないことを感じた。それこの毎日の生活が退屈だ、と感じたのである。なぜこのようなことを感じたのか、思ったのかさっぱりわからない。すべて満たされているこの世界、毎日の生活、争うこともなく悲しみもない。何不自由ないこの世界。元々理想としていたこのような世界。

毎日晴れ晴れしくて闇はなく、光の届かないところはない。美しい花々が咲き乱れ、水の流れる音だけが心に入ってくる。何も不満はない。足りないものはないと思っていた。それがなぜ退屈と感じたのか。この世界に来てから確かに何不自由ないことは確かだ。しかしそう言えばないものがある。大声で笑ったり喜んだり、そういったことは考えてみるとここに来てから一度もしていないような気がする。なぜだろう。

ある時、とある知り合いが近づいてきた。「君知っている? この世界のずっとずっと果てに、一つの大きな扉があることを。そのようなことを聞くのは初めてだった。私は初めて聞く話に耳を傾けた。「その扉の向こうには、ここの世界とはまったく違った世界が広がっているんだって。それ以上の事は知らないけど、近づかない方が良いよ。」そのような今まで思ってもいないようなことを言われ、未知の存在に恐怖さえ覚えた。絶対に近づかないでおこうと心の中で決めていたのだが、常にそのことを一日の中で多く意識し始めた。興味というものだろうか。念じれば叶うこの世界も、見たこともないことは念じることも出来ないし、叶うこともない。いよいよその扉の向こうが気になり始めた。

扉の近くまでなら行っても大丈夫だろうと思い、その扉の場所を探し始めた。探し始めるとこの世界の広さが実感できる。今までそんなに動き回ることもなく、大体一か所の決まった場所でしか過ごしていなかったので、なかなか扉が見つからないという苛立ち、すぐに達成できないということを、もしかしたらここにきて初めて思い知ったのかもしれない。動いて動いて動き回って、やっぱりあの話は嘘だったんだろうと思ったとき、とある一か所だけ陰になっている部分を見つけた。この世界に影があるなんて・・。この世界では影は恐怖以外の何物でもない。近づくのは本当に勇気がいた。

よく見ると、影だったものは探していた扉だった。というか、近づいて行った途端に影が扉になったという表現が望ましい。扉が見つかったとき、久しぶりに少しうれしかった。
その時背後から、誰かが声を掛けてきた。

「おいあんた、よくこの扉を見つけたねぇ。」

全身フードを被った老人だった。顔はよく見えない。
ソウルはここの扉へ来たいきさつをその老人に話してみた。

「ほう、変わったやつもいるもんじゃな。自分から好んでこの扉を探しに来るとは。」

さらにこの扉の向こうの事を聞くと、老人は「まさかあんた、この扉の向こうに興味を持っているんじゃないだろうね。間違っても行きたいとか思ってはいかんぞ。」

さらに老人は続けた。「この扉の向こうはねぇ、こことは違って争いや苦しみ、悲しみで溢れておるぞ。何一ついいことはない。」

なぜかソウルはこの時あまり、この老人の言葉が耳に入ってこなかった。

ソウルは考えて混んでいた。この扉を開こうかどうか。一度開けてしまうともう二度と後戻りはできないのだ。何度も何度も自分の心と葛藤していた。取っ手に手をかけては放し、放してはまた取っ手に手をかけ・・。

もうどれ位たったのだろうか。自問自答も尽き果てた。考えるということには終わりがあるのに気が付いた。ソウルは取っ手に手をかけて、扉を開いた。

光が満ちる。

扉を抜ける苦しみで、抜けた瞬間泣いてしまった。

しかし、そこには歓喜でうれし涙を流す人たちがいた。