【BL】いつもの散歩道

充:
高校生。サッカー部

良明:
充の幼馴染で恋人。

ポン太:
充の家の犬


充は良明に避けられている。かれこれ2週間。

こうと決めたら意地を張り続ける良明らしく、家が隣で学校も同じだというのに面と向かって会うことがない。同じ学校というのはともかくとしても、家が隣なのにそんな芸当ができるというのはもはや神業ではないか、と充は結構呑気に感銘さえ受けていた。

充と良明はどこにでもいる高校生1年生。性格は正反対だが、家が隣同士という縁あって、物心つく前からの幼馴染、かついつの間にかいろんな垣根を超えて恋人同士になった。

一応男同士だし、自立するまでは2人の仲を誰にも言わないということを約束している。2人のことを知っているとしたら、充の家の犬のポン太くらいだろう。

そんな2人はこの春めでたく高校生になったのだが、何かとぶつかることが多くなってきた。ぶつかるというか、充に言わせれば良明の嫉妬が以前よりあからさまになってきただけなのだが。

『充君、部活やるの?! そんなの聞いてない! 会う時間が減っちゃうじゃん! 俺に一人で学校行って、一人で帰れっていうの?!』

『さっき吉澤さんと何話してたの?! おかしいよ! あんな楽しそうにしてさ!』

『充君、最近本当冷たい。電話したのに出てくれないし。メールだって返してくれない! 俺のこともう好きじゃないんでしょ、どうせそうなんでしょ』

『寝てたって何! 絶対嘘、昨日部屋電気ついてたもん! 誰かほかの子と電話してたんでしょ!』

誤解しないで欲しいが、充はそんな良明でも変わらず好きだ。そもそも、良明は最初っからこういうめんどくせえ奴なのだ。そんなことは幼馴染でもある充がそれこそ骨の髄から知り尽くしている。良明のめんどくささと来たら、そうそう比べられる者もいない。そこらの女子程度なら裸足で逃げ出すだろう。同じサッカー部の彼女持ちの友人たちの愚痴を聞いていても、その程度なら可愛いもんじゃねえか、と充は思ってしまうくらいなのだから。

部活が終わっていつものように充が家に帰ると、出迎えてくれた母に玄関でこんなことを言われた。母は心配顔である。

「ねえ、あんた良明ちゃんとケンカしてるんだって?」

「は? ケンカ・・・? ・・・ああ、そういやしてるかも」

「そういえばって・・・どうせあんたが何か酷いこと言ったんでしょう。さっさと謝りなさいよ」

「どうせ俺ってどういうことだよ・・・それになんで知ってんだよ」

充のしごくまともな質問に母は当たり前のように答える。

「良明ちゃんが教えてくれたのよ。さっきポン太の散歩してるときに会ってね。僕と充君は今ケンカしています、って」

「・・・・へぇ」

充は呆れ果ててそれ以上言葉が繋げなかった。呆れるポイントはあり過ぎて1つ1つ整理するのも嫌なくらいだ。そもそも部活でくたくただし、泥だらけの練習着と体を何とかするのが先決だ。

「ね、ちゃんと謝りなさいよ。すっごく怒ってますって言ってたわよ」

「あ、そう。」

充は適当な返事をすると、母の横を通り抜けて風呂場に直行した。

アホか、と充は思ったがしかし、湯船に浸かりながらこのケンカを良明が何とか終息させたがっている、ということも何となく感じ取った。何となく、というより確実に。

要するにこれはいつもの良明のやり口だった。自分から喚いてケンカをするが、のんびり構えていていつまで経っても謝ってこない―充としては謝ることが何もないと思っているから仕方のないことなのだが―充に対して業を煮やして、「謝ってくれたら、許してやらないでもないよ」というサインを送ってくるのだ。それのサインを見事にキャッチして充が適当に謝り、元鞘に収まる・・・というのがいつものパターンだ。

しかし充の母づてにそれを伝えてくるとは。かなり良明は焦っているようだ。

―飯食ったあとに電話でもしてみるかなあ。

充は湯を手ですくって、顔を洗った。

充は夕食をとった後、2階の自室で少し勉強してから、良明に電話をした。正直、家が隣なのに電話をするということに時々すごく馬鹿らしさを感じる。

コールが何度な鳴ったのち、不機嫌そうな良明が電話口に出る。

何と、あくまで不機嫌さを前面に出してくる良明に充は、

「今、話せる?」

と聞いてみた。すると長い沈黙の後、外でなら良いよ、との返事。

「じゃあすぐにな」

充は電話を切った後、一階に降り、夕食後の片づけを終えて一息ついている母にいう。

「ちょっと散歩してくるわ。」

「え? こんな時間に? 駄目よ、駄目!」

「ポン太と良明と行ってくるよ」

それを聞いては、母はあら、と声をあげてこう言った。

「もう仲直りしたのね、良かった。やっぱりあんたが悪かったんじゃない」

お母さんの言った通り、という言葉を充は無視する

「気をつけて行ってくるのよ」

「はいはい」

「ポン太は夕方も散歩したんだから、あんまり連れまわさないでね」

「はいはい」

リードを持って庭にでると、ポン太がのそりと犬小屋から出て来た。ポン太はリードを見ると、またかとでも言いたげな顔をする。

「頼むよ。な?」

しかしまあポン太は良明と違って素直で良い奴だ。眠たそうではあったが、充がリードをつけて鎖を外すと、黙ってついてきてくれた。

充とポン太が門から出ると、もうそこには良明が立っていた。良明は一人と一頭を見るなり、

「ポン太、久しぶり」

と、ポン太にだけ声を掛ける。

「お前本当、意地っ張りだよな」

「・・・! うるさないな、充君だって!」

そこで良明は時間が時間ということを思い出してか、言葉を切った。それで、ポン太を先頭に並んでいつものポン太の散歩コースを行くことにした。

最初に言葉を発したのは、やはり良明だった。

「で?」

「で? ってなんだよ」

「俺に何か言いたいことあるんじゃないの」

「・・・まあ、あるっちゃあるけど」

また良明の目が吊り上がる。

「やっぱり自分は悪くないって思ってるんだ」

「そりゃ、俺はお前のこと悪くいったつもりなんてこれっぽっちもなかったからな」

「それ、本気で言ってるの?」

「だからそれは前も言っただろ。悪気もねえし、そもそも褒めたつもりだったのに」

「・・・充君は本当に何にも分かってない!」

わっと、良明が泣き出す。始まった・・・とは充とそしてポン太。

「だから、なんで褒めたのに」

「いつもはそんなこと言わないくせに! 化粧して、綺麗に着物着つけたときだけそんなこというんだから! ・・・やっぱり充君は、本当は女の子が好きなんだよ! はっきり言ってよ!」

・・・経緯はこうだ。充たちが住んでいる町には、秋にちょっとしたお祭りがある。詳しいことは充にとってはどうでも良いことだったのでよくは知らないが結構大きな山車を引いて町内を練り歩く。その山車には、笛やら太鼓やらの音色に合わせて踊る女形が乗る。良明の家はその女形の踊りを代々担当している家のひとつだった。

良明は嫌だったらしいが結局祖父に説得されて小学生のときに舞を習いはじめ、そしてついに今年の祭りでデビューすることになった・・・というわけで、2週間前に自宅で祖母と一緒に化粧と衣装合わせを行っていたのだ。なぜそんなところに充が居合わせたかというと、母から回覧板を持っていけと家から放り出されたからだ。

実をいうと、充は綺麗に着飾った良明を見て別に何とも思わなかった。

しかしめんどくせえ良明のことである。何か言わないと怒るだろう、と充は踏んで、こう言ったのだ。

『へえ、綺麗じゃん』

『え・・・』

しかし充が踏んだのは地雷だったというわけだ。自分の祖母が居る手前、良明はその場では何も言わなかったが、その夜電話をしてきて爆発した。やっぱり女の子が好きなんでしょ、と。
要するに、その程度のケンカである。

「じゃあなんていえば満足なんだよ」

「それは・・・・・」

充の問いに、良明は黙る。

「ブスっていや良いのかよ」

「違うよ、」

「吉澤はサッカー部のマネージャーなんだから仕方ないだろ。」

「・・・・・・・そうだけど」

良明は、また黙ったが、やがて意を決したように充に問いかけた。

「充君、どうして俺と付き合ってくれてるの?」

「は?」

「だって、俺が無理やり告白したんだし、その!」

「・・・・・」

「・・・なんで良いって言ってくれたか俺怖くて聞けてなかったから」

「・・・・・」

改めて問われると充にとっては難しい問いである。何度もいうが、良明はめんどくさい奴だ。すぐ喚くし、すぐ泣く。口を開けば文句ばかり、女と話しただけで浮気扱い、電話も速攻でないと怒るし、テキストメッセージの既読スルーは犯罪だと信じている。

だが、難しい問いではあるが、充にとってもう答えは決まっている。そもそも何度かもう言ったような気もするが、まあいいか。

「なんとなく」

「え?!」

「なんとなく、だよ」

「そ、そんな・・・」

見る見る青ざめる良明に、充はめったにないことだが、言葉できちんと説明してやった。

のんびりはしていたが、さすがに2週間というのは充にも長かった。それは、今良明と話していてよく分かった。

「良いじゃねえかよ。お前が綺麗にしてなくったって、どんなにめんどくさくたって好きって意味だぞ」

「・・・・・・」

そんな風に、すぐ青くなったり赤くなったりする、そういう感情がすぐ表にでるところも結構好きかもな。充はそう思ったが、それはもう言ってやらないことにした。

「もう帰ろうぜ。ポン太もう寝るところだったし」

「・・・やっぱりいつもの充君じゃん。こんな良い雰囲気のときに信じられない!」

「どうする、ポン太」

ポン太はぷいと横を向く。勝手にしろとでも言いたげだ。

・・・それでもポン太は、充と良明が帰り道少しでも長く話ができるよう、いつも通りゆっくり歩いてくれた。