ケイの孤独な人生

ケイ:
孤独な男?

舞子:
一般家庭の奥様


ケイ「はぁーあ、退屈だなぁ、ここ一週間ほど誰とも喋っていないんじゃないか……。かといって友達もいなけりゃ、家族もいない天涯孤独の身だ。何か良いことないかなぁ」

リモコン「やぁ、ホントに退屈そうだね。僕で良かったら話し相手になってあげようか」

ケイ「わわぁっ!? なんだどっから聞こえたんだこの声は? ついに幻聴まで聞こえるようになってしまったのか」

リモコン「違う、違うよぉ、僕だよぉ。君があんまり退屈そうにしていたからさ。僕が話し相手になってあげようかと思ったんだよ。迷惑かい?」

ケイ「わわっ、なんだぁ。いよいよオレどうかしちまったのか? このリモコンが喋ってたように聞こえたぞ」

リモコン「ホントに喋ってるんだよぉ。みんなも出てきなよ!」

ソファ「あらやだ! ホントあなたいつも不景気な顔してるわね。まったくどうにかならないのそのツラ? それに私の上に汚い洗濯物、山のように載せるのを止めてくれる。ホント迷惑だわ」

マグカップ「おい、せっかくのオレ様に安い酒ばかり入れるの止めてくれねえか? そもそもオレ様は酒飲むためのものじゃねえんだぜ? たまにはよぉ、インスタントでもいいからコーヒーとか紅茶とか淹れてくんねぇかなぁ」

ケイ「な、なんだぁこれは?! オレ、病院行ったほうがいいかも」

ソファ「まだ言ってるわ。私たちが喋ってるのよ。あなたがあんまりにも寂しそうな顔してるから出てきてやったっていうのに。いつまでとぼけてんのよ」

ケイ「ま、まじか! ホントに君たちが喋っているのか。本当なのか……頬をつねって――いてっ、夢じゃないのか」

ソファ「だからさっきからそう言ってるじゃないの!」

リモコン「や、やっと信じてくれたかい? ほらいつまでも驚いた顔してないで僕たちとお話しようよ。あっ、そうだ。僕そろそろ電池交換して欲しいんだけど」

ケイ「そ、そうか。それは悪かったな。しかし物が喋るとはこれはおったまげた。どこかにドッキリカメラなんか仕掛けてあるんじゃないだろうなぁ」

ソファ「あなたみたいな何の取り柄もない地味な男に誰がドッキリカメラなんて仕掛けるっていうのよ」

ケイ「それもそうだよなぁ。でもホントにみんな喋れるんだなぁ。でもみんな電池で動いているわけじゃないだろ。リモコンはまだ分かるが、ソファやマグカップはどうやって喋ってるんだい?」

リモコン「や、僕だって電池が入っているから喋れるってわけじゃないんだよ。よく昔から日本では八百万の神って言うだろ。あらゆる物には魂が宿るっていうあれさ。僕たちも長く人に使われているうちにいつの間にか心を持つようになったんだ」

ケイ「ふーん、そうか。まぁ、何はともあれ、これで話し相手は出来たってわけか。よしなら早速聞いてくれよ。オレさぁ今好きな子いるんだよね。毎日のように行くコンビニの店員さんなんだ。いつもオレの顔を見て、可愛い笑顔で挨拶してくれるんだけど、脈あると思う?」

マグカップ「へっ! 向こうは仕事だから笑顔なだけじゃないのか。お前みたいなツラじゃあ、フラれるのが関の山だぜ」

ソファ「そうよ。あなたみたいな勘違い男が世の中にはいるのよね。相手は何の感情も持っていないのに勝手に良いようにとっちゃってさ。間違っても告白なんかしないことよ。百パーセントフラれるのがオチよ」

リモコン「そうかなぁ。告白しなけりゃ分からないんじゃないかなぁ。もしかしたら向こうも気があるかもしれないし、それによく見たらケイってまぁまぁ良い顔してるんじゃないかなぁ」

マグカップ「はっはっはっ、この顔が良い顔だって? 笑わせてくれるぜ。これならオレのほうがよっぽど良い男だぜ。どうだいソファちゃんそう思わないかい?」

ソファ「ふん。マグカップのどこに顔があるっていうのよ。どっちにしろケイもマグカップもまったく魅力ないわ」

ケイ「そ、そんなぁ……酷いこと言うよなぁ」

リモコン「ところでさぁ、さっき一週間誰とも喋ってないって言ってなかった? それなのに毎日コンビニに行ってるんだったら、少なくとも店員さんたちとは言葉を交わしてるんじゃないかい? それともそんな程度の会話じゃ喋っているうちに入らないのかい?」

ケイ「あれそういえば……昨日もコンビニ行ったばかりなのになんでオレ一週間も誰とも喋っていないなんて思ったんだ。いやそれどころか結構いろいろな人と話しているような気がするんだけど。あれ? 昨日も誰かと話したぞ? それについさっきも? でも誰と話したか思い出せない。何でだ?」

マグカップ「おいおいしっかりしてくれよ。お前は本当に頭がどうかしちまったのかい? 昨日のことぐらいいくらなんでも覚えてるだろ?」

ケイ「な、なんでだ? 覚えてない。覚えてないんだ。オレはどうやってコンビニに行ってたんだ。一体誰と喋ってたんだ? 誰と――ダ、レ、ト、トトットト――」

舞子「あらまたこのロボット停まっちゃったわ。やっぱ安物のロボットはダメね。Kシリーズはもう型が古いから時代遅れかしら。今度はSシリーズに買い替えようかな」

ソファ「あら、ケイってロボットだったんだ」

リモコン「ほんとだ。じゃあ僕たちと同類じゃないか」

マグカップ「同類だと? あいつは心のないロボットだぜ? それに比べてオレ様たちは物とはいえ心はあるんだ。オレ様たちのほうが上等だぜ」

舞子「あらあらKったら、役に立たないどころかリモコンやらマグカップやらこんなに散らかして。いよいよ廃棄処分だわ」