ブラック神社の神様

神様:
交通安全の神様

神主:
交通安全の神様を祭る神社の経営者

女の子:
参拝者


ある神社に住んでいる神様は、毎日降り注ぐ無理難題に相当困っていた。

自分は交通安全の神様だというのに、やれ安産でお願いしますだの、やれ受験に合格しますようにだの、見当違いのお願いをされるからである。

そんな神様の唯一の心の癒しは、神主に愚痴ることである。

神様「もうね、御祭神とか由来とか書いてある看板、ちゃんと見てくれてないのよ。ほんと毎日嫌になっちゃうよ」

神主「まあ仕方ないですよね。神社って今や観光スポットみたいなものですから」

神様「そこんとこどうなの? 昔はさ、皆心の底からお祈りしにきてくれたのよ?」

神主「まあ時代ですね」

神様「それにしたって最近ひどくない? しかもやけに女性から恋愛成就のお願いされてうんざりしてるんだけど」

神主「ああ…それには理由がありまして」

神様「何?」

神主「あまりに人がこなくなったもので、パワースポットってことにしたんですよ、ここの神社」

神様「は!?」

神主「縁結びにも効いちゃいますってことで宣伝したら軒並み人が来るようになりまして」

神様「何やっちゃってんのお前!?」

神主「だって仕方ないじゃないですか。こっちも経営が苦しいわけですし」

神様「仕方なくないでしょ! 嘘つきでしょただの!」

神主「でもそれだけじゃアレなんで、もう何でも叶う万能な神様がいるパワースポットってことにしちゃったんですよね」

神様「いよいよ大馬鹿だなお前は!!」

神主「私だってこんなことしたくなかったですよ? もしアナタが元々万能な神様だったらこんなことしなくて済んだんですけどね」

神様「うわ、お前今俺のことディスったわ。神様ディスっちゃったわ」

神主「こう言っちゃ難ですけど、私こそ神様にお願いしたいくらいですよ。経営が上手くいきますように、って」

神様「じゃあどっかの神様にお願いにいけば良いじゃないか!」

神主「いや、行ったんですよ。行ったんですけど、よその神様曰く、お前は既に交通安全の神様がついてるから駄目らしいです」

神様「んなことあるわけないだろ!」

神主「だってそう言われたんだもん」

神様「だもん、って…」

神主「そんなわけでもう自力で経営セミナーに参加して怪しい情報商材買って何とか立て直しました。最早神頼みなんて古いですね」

神様「はい出ました。2度目のディスり」

神主「そういうわけなんで、神様には申し訳ないんですけど、万能の神ってことで暫くお願いします」

神様「いや無理だって」

神主「何事もやればできる! ファイト!」

神様「いやお前に応援されたくないし! てか適材適所って言葉があんだよこの世には!」

神主「だからホラ、交通安全に一番強い万能な神様ってことにしときましたから」

神様「オイ!!」

神主「じゃあこれからも宜しくお願いします」

神様「あ、ちょっと待てって!」

去っていく神主の後ろ姿を見て、神様は大きな溜息をついた。

神様「まさかそんな事情だったなんて…」

神様「もうこれブラック企業じゃん。できないこと押し付けてさ、24時間労働させられてさ…あーあ、もう神様やめたいな…」

二度目の溜息をついていると、小学生くらいの小さな女の子がお参りにやってきた。

女の子「神様、この前はありがとうございました」

神様「この前?」

女の子「一人でピアノの発表会にお出かけするのが怖くて、車にぶつかったりしませんようにってお参りにきたの」

神様「おお! あの時の子か! 覚えてるぞ」

女の子「事故にもあわなかったし、ピアノの発表会もうまくいったんだ」

神様「うんうん、それは良かった」

女の子「だからお礼に来たんだ。これ、お賽銭箱に入れておくからね」

神様「おいおい、これ500円玉じゃないか」

女の子「うん。お小遣いで貯めたの」

神様「大人でも10円とかなのに、そんなに入れて大丈夫か? 大切なお小遣いなんだろ?」

女の子「うん。でも神様にお世話になったから良いの」

神様「うう…なんて良い子なんだ」

女の子「じゃあまたね、神様」

神様「おう。また交通安全で気になることがあったらおいで」

女の子「うん。ばいばい」

神様「ばいばい」

神様は賽銭箱の中の500円玉をしげしげと見つめた。

神様「こんなに沢山入れてくれるなんて…しかもお礼参りに来るなんて律儀な子だな」

神様「それに俺の得意分野の交通安全についてだった」

神様「本来こうあるべきだよな。分かってくれる人はちゃんと分かってくれるんだ」

神様「やっぱり嘘をついて八百万の神様の真似事をするなんて俺にはできない…」

神様「…よし!やっぱり明日神主に交渉しよう。こんなのは駄目だと言ってやろう!」

そう決意した神様だったが、鬼の経営者と化した神主にそんな優しい心は通用しなかった。

神主「は? 今更、交通安全だけの神様に戻りたいなんて無理ですよ」

神様「そんなこと言わずに正々堂々とマトモに頑張ろうじゃないか! ちゃんと見てくれる人はいるんだから!」

神主「駄目です。既に多くの旅行サイトにパワースポット巡りとして掲載されてますし、何でも叶う神社としてTVにも取り上げられてるんですから」

神様「だから、それは嘘でしたって謝ってこいって」

神主「無理です! もう既に幾つかの企画旅行の順路として入ってるんですから! こちとらお金まで払ったんですよ!?」

神様「まさかの賄賂!!」

神主「そういうわけでアナタにはきっちり働いて稼いでもらいますから」

神様「ああ~やっぱりブラック企業だよ!!」

それ以降、神様は不眠不休で働いた。

何でも叶う神様らしく「お前の望みを叶えてやろう」と参拝者に言いまくったものの、交通安全以外は全く力がないものだから相当ストレスがたまったことは言うまでもない。

欲望の亡者と化した人間の為に、神様は今日も頑張っているのだった。

END