【GL】花いちもんめ

美鈴:
一人っ子で髪が長くおとなしい女の子

まひる:
学年は美鈴と一個上。髪が短いリーダー気質

幸成:
美鈴の同学年のまひるの弟


誰かが小学校のころのことを話すと私は決まって気まずい気持ちになります。
私は小学生のころ、一人っ子だったこともあり、とても人見知りで友達と言えるような人はほとんどいませんでした。
人と仲良くなりたいという気持ちはあっても、どうしてもいざとなると胸がどきどきして、顔が熱くなり、言葉が出なくなってしまうのでした。
最初は私の青白い肌が真っ赤になるのをからかって遊んでいた男の子たちも私が何も言い返さないのを見て、面白くないのか私を避けるようになっていきました。
私はそんな男の子たちが怖くて、本当に嫌いで、女の子の友達が本当に欲しかった。
だけど、私には結局友達と言えるような人は卒業までできませんでした。
だから私には人に話せる小学校の思い出なんてないのです。

その日の放課後も私は学童保育の部屋の隅で一人で本を読んでいました。
遠くから聞こえる笑い声や小さな小競り合いも本当はうらやましくて仕方なかったけれど、自分には関係ないものだと思って、ページをめくっていたのです。

「ねえ、君も一緒に遊ばない?」

私が本から目を上げると見知らぬ顔がそこにありました。
髪はショートで肌はこんがりと焼けた少年。
黒目の大きいくりっとして目がこちらを覗き込んでいます。
私が恥ずかしくてしてに目を逸らすとそこにはスカートから伸びたすらっとした脚が見えました。

「女の子なんだ」

思わず口から言葉が漏れました。

「よく言われるんだ。男女だとか」

私は自分の不躾さが恥ずかしくて謝りたかったのですが言葉がありません。

「ねえ、まひる。早く外で遊ぼうよ!」

遠くから彼女を呼ぶ声がします。

「ちょっと待って、今行くから」

彼女はそう言って私の手を取りました。
彼女の長い指が私の小さな手を包み、私を引っ張っていきます。
嫌なら断らないといけないし、遊ぶのならさっきのことを謝らないといけないとと考えているうちに私はグラウンドまで来てしまいました。
そこには私と彼女を含めて5人の女の子と一人の男の子がいました。
女の子は私よりも背の高い子ばかりで上級生ばかりのようでしたが男の子は私のクラスの子で私をからかって遊んだグループのひとりでした。
みんなで何で遊ぼうかと話し合いが始まると、その男の子が「花いちもんめしよう」と言いました。

「まあ、幸成みたいな小さい子もいるし、そうしよっか」

まひるさんがそう言うと、幸成はこちらを見てにやっと笑って、まひるさんの手を取りました。
私はまだ知らない人ばかりのところで緊張してしまって、幸成がなぜ笑っているのかよくわかりませんでした。
心細くて、手をつなぐ二人を見ながら、私は先ほどの手の感触を思い出していました。
私は誘ってくれたまひるさんと同じ組になりたかったけれど言い出せず、別の組になってしまいました。

「勝ってうれしい花いちもんめっ」
「め」の音に合わせて一斉に上がる脚。

その中でもすらりと背の高いまひるさんのものは高く上がります。
彼女の成長に合っていないタイトなスカートから日焼けしていない太ももがちらりと覗きます。
私はそれが目に入るたびに見てはいけないものを見ているようで胸がどきどきしました。

「負け―て悔しい花いちもんめっ」

まひるさんはそんな私の視線を気づいているのかいないのか時折涼しい顔でこちらに笑ってみせます。

「あの子が欲しい」

「あの子じゃわからん」

「相談しましょ」

「そうしましょ」

誰を取るのかの話し合いのときも私は口を出すことができませんでした。
それでもみんなと遊べることが楽しくて私は舞い上がっていたと思います。

「〇まるちゃんが欲しい」

「幸成君が欲しい」

私たちのグループは幸成を選びました。
私はまひるさんとニコニコと手をつなぐ幸成が鬱陶しく思っていたので、内心しめしめと思いました。

「じゃんけんぽん」

負けた幸成が悔しそうな顔をしてこちらに回ってきます。

「ちっ」

彼は舌打ちをして汚いものでも触るように恐る恐る私の手を取りました。
そして、つないだ手の指先で私の甲の肌をつねるのです。
私は痛くてもう片方の手で幸成の手をはじきました。

「へへっ」

幸成は意地悪い顔をして笑っています。
でも、私は文句を言うこともできませんでした。

「勝ってうれしい花いちもんめ」

そうしているうち私の組は一度負けて、もう一度負けて、幸成と私だけになってしまいました。

「相談しましょ」

「そうしましょ」

話し合うのは私と幸成の二人きり。

「まひる姉ちゃんでいいだろ」

私はこくんとうなずきました。

「負けたらどうなるんだろな」

幸成はまた意地悪い顔で笑います。
負けたら自分が一人残るかもしれないのに何をと最初は思いました。
でも私は初めてみんなと遊ぶのです。
当然誰も私の名前を知っている人はいません。
一人、知っている幸成はこちらの組で、次の番で私の名を呼べる人はいないのです。
自分が一人になったときのことを考えると恐ろしく思いました。
なんとなく人に合わせて言えていた掛け声を私は言えるのだろうか。
それ以前に隣に誰もいないと私は寂しくて泣いちゃうんじゃないだろうか。
幸成はこちらを見て、楽しそうに笑顔を見せます。
こいつは最初からこうなることをわかっていて花いちもんめがいいと言い出したのです。
しかし、その卑劣さを私が訴えられるわけもなく、ゲームは始まります。

こうなるなら遊びに加わらなければよかった。
私は浮かれていたんだと、しょぼくれていると驚くことが起こりました。

「あの子が欲しい」

みんなそう言って私を指さしているじゃありませんか。

「まひるちゃんが欲しい」

そう言う幸成の声には明らかに先ほどまでの元気がありません。
ぶつくさしながら幸成はじゃんけんをしに行きます。

「じゃんけんぽん」

「勝った!」

勝ち名乗りを上げたのはまひるさんでした。

「ほらおいでよ」

彼女はそう言って私の手を優しく握ってくれました。
あちらでは寂しくなった幸成が泣いています。

「何で姉ちゃん、俺を選んでくれないんだよお」

そう叫ぶ幸成を女の子たちが慰めていました。

「あんなんでも弟なんだ。仲良くしてやってよ。ええと」

まひるさんは気まずそうに微笑んでこちらを見ています。

「美鈴です」

私はようやく自分の名を言えました。

「美鈴ちゃん。ごめんね。名前を最初に聞かなくて」

「いいんです。私こそ、男の子だとおもっちゃってごめんなさい」

「そんなことまだ気にしてたの?」

そう言ってまひるさんは私の手を引っ張って、みんなの方へとかけていきます。

・・・

「美鈴はさ、もっとフレンドリーに何でも話した方がいいと思うんだよ」

彼女は今日も心配そうに大きな目で私の顔を覗き込みます。

「私は自分の大事な思い出は自分の心の中にしまって大事にしたいんです。それに」

「それに私には友達はいりません。まひるさんさえいればそれでいいんです」

中学生になり、人前で喋ることにようやく慣れてきた私も口にするのにためらう言葉でした。
ふとまひるさんの方を見ると顔が真っ赤になっていました。

「もう行こう。部活始まっちゃうよ」

そう言ってまひるさんは顔を伏せながら私の手を引きます。
あの日と同じ手から彼女の体温が伝わって来るのを感じながら、私は幸せだと思いました。