【BL】僕が勇者でアイツが魔王!?

魔山 翔:
男 17歳高校2年 帰宅部
冴えない男子学生で前髪モッサリ、大人しい性格
実は遠い昔はイケイケな魔王であった、その記憶も持っている
魔山を恐いと思っている
背も小さく気弱なので子リスのような見た目

剣田 勇也:
男 17歳高校2年 サッカー部
明るい茶髪に背も高めで細い体型でイケメン
実は勇太同様、過去は勇者だったという記憶がある、が今の性格は魔王そのもの、むしろ鬼
当然のように魔山をいじる(可愛がり)

本元 隼人:
男 17歳高校2年 サッカー部
過去は翔の側近の魔物だった、しかしその記憶は持っていない
とても明るい性格で、けれどちょっとおバカ


僕には過去の記憶がある。

遠い遠い昔、日本ではない別の国、そこで僕はかつて魔王として世界を制圧していた。

しかしある時やってきた勇者によって僕は滅ぼされたのだった。

そんな記憶が生まれた頃からある僕は、すっかり怖がりな性格になってしまった。

またいつあの勇者がやってくるか判らないと、何故だか無性に恐いのだ。

そんな訳で僕は人影に紛れ、壁と同化するかのように気配を消して生きてきた。

過去は魔王であっても勇者により強いトラウマを植え付けられた僕は、とても臆病なのだった──。

そうやって過ごしてきて今年で17回目の夏。

いつものようにコソコソと学校へと登校してきた僕に、本元君が話しかけてきた。

本元君は僕の記憶の中では、かつて魔王であった僕の側近だ。

でも本元君自体はそんな記憶がないようで、でも冴えない僕を見かねてかいつも気軽に話しかけてくれる。

本元「なあ、聞いたか? 今日は転校生が来るんだって」

「転校生? こんな時期に」

もうすぐ夏休みが始まろうと言う時期に転校生なんて。何だかそこまで考えて、急に背筋がゾワッとした。

本元「どんな奴なんだろうな? 背が高かったらバスケ部入ってくれねーかな」

ニヤニヤとしまりのない顔で話す本元君を見て、(そういえばあの頃もこんな風にいつもお気楽にニヤニヤしていたなぁ)と懐かしい気持ちになっていた。

つい口元が緩んでしまったタイミングで、教室の前扉が開いて担任が入ってくる。

担任「転校生の剣田 勇也君。さあ、入ってきて自己紹介をして」

その後に続いて入ってきた男を見て、僕は思わず固まってしまった。

(何で、どうしてアイツが…!)

そこにいたのは、かつて僕を倒した難き勇者、そして僕のトラウマの原因である男だった。

じっと見つめているのがバレたのか、奴がこっちに視線をやる。

目が合って、そこでアイツが片方の唇の端だけを上げて笑った。

(もしかしてアイツも覚えてるのか…?)

にやりと笑ったアイツの顔は今でいうイケメンで、明るい茶色の髪と相まっていかにも遊んでそうな雰囲気である。

それなのに女子はアイツを見て「ねぇねぇ凄くかっこよくない?」「アイドルの○○君にそっくり」なんて騒いでいるのであった。

(ああ、あの笑い方。僕が倒された時とそっくりだ──)

そっと視線を外して机の上に置いた自分の握りこぶしを見つめながら、これからどうしようかと考える。

アイツがこちらを覚えていたら、また討伐されるんじゃないかとか、恐い考えが過ぎって涙目になってしまった。

担任「じゃあ、剣田の席は魔山の後ろな」

僕が意識を飛ばしている間に自己紹介が終ったのか、担任に言われた通りにアイツがこちらへ歩いてきた。

そして横を通る瞬間に僕にしか聞こえないような小さい声で言ったのだ、「よろしく、魔王君」

その後はどうやって授業を受けたのか、どうやって家まで帰ってきたのか覚えていない。

しかし、後ろからビシバシと視線を感じつつも振り返れず過ごしていた事だけは薄っすらと記憶に会った。

「明日からどうしよう…」2階の自室でゴロゴロしていると、下の階から僕を呼ぶ声が聞こえた。

「何、呼んだ?」

階段を降りてキッチンへ行くと、夕食の準備中だった母親が「カレールー買うの忘れたみたい、ちょっと買ってきてくれる?」と財布を渡してきた。

えー、面倒臭い。なんて言えずにしずしずと従う、ああ、弱い僕。

靴を履いて家を出る途中、玄関で母から「そういえば近くでひったくりが出たみたい、気を付けてね」と言ってきた。

「そうなんだ、行ってくる」ひったくりか、恐いな。遭遇しなきゃいいけど。

夏の夕方は日も長いからそこまで暗くならない、でも今日は雨だから、18時でも辺りは薄暗かった。

何となく、何か嫌な事が起こりそうな気がしつつ徒歩10分のスーパーへ行って言われたカレールーを買う。

支払いを済ませて外に出ると、さっきよりも本降りになっていた。

(もう真っ暗じゃん、早く帰ってゲームでもしよう)

足早にその場を去る、しかししばらくして僕以外の足音が聞こえてきた。

不安な心が生み出した幻聴だ、なんて考えながらも出かける前に聞いたひったくりだったら恐い。

振り向く勇気もなくただただ早歩きで帰っていると、人気のない道で不意に腕を掴まれた。

「う、うわあああ!」

「痛!」

持っていた買い物袋を思いっきり後ろに振ると、それがヒットしたのか僕の腕の拘束が外れる。

今だと思って走ろうとしたが、足元にあった水たまりで滑って思いっきり尻もちをついてしまった。

「てめぇ…」

「ひ! ご、ごめんなさい! お金、カレールー買ったから1000円しか残ってないです!」

低い声を出した相手に必死で謝りながら、ふと「あれ?」と思う。この声、つい最近聞いたような──。

尻もちをついたままそうっと視線を上げると、そこには今朝の転校生がいた。

「あ、あの、えっと、」

まずい、これは非常にまずい、ひったくりよりもまずい。魔王であった僕の本能がそう告げている。

しかし後ずさりしようにも腰が抜けたのか力が入らず、どんどん近づいてくる奴に怯えるしかできなかった。

傘をさしたまま僕の前にしゃがみ込んで、そして顔を近づけてくる。

思わずギュッと目を瞑ると、顔に吐息がかかった。

剣田「お前さぁ、ほんっと、くく…」

え? わ、笑ってる?

目をそうっと開けてみると、目の前で剣田君があの、片唇だけを釣り上げた笑い方をしていた。

剣田「あーあ、懐かしい魔王の気配がするからどんな奴かと思ったら、ちっちぇーし弱そうなんだもんな、気が抜けるわ」

「ち、小さいは余計じゃないですか…」気にしてるのに。

思わず言い返すと、剣田君は「ああ? 何か言ったかよ」と睨んできた。恐い、この人の方が“魔王”じゃないか。

剣田「とりあえず立てば? いつまで座ってんだよ、鈍くさい魔王サマだな」

「そうしたいのはやまやまなんだけどね、あの、腰が抜けたみたいで」

震えながらもそういうと、剣田君は「はぁ? 嘘だろ」と言ってまた意地悪な笑い方をした。

剣田「ほら、手貸せ」

目の前に差し出された筋肉のそこそこついた腕、それをじっと見ていると状況が解っていない僕の腕を掴んで無理やり引き上げた。

「ちょ、痛い、力強い、です」

剣田「うるせえ、嫌ならさっさと自分で立てよ」

乱暴だなぁと思っていると、さっき僕が転んだ拍子に落としてしまった傘も拾って手渡してくれた。

「あ、ありがとう…」

あれ? 剣田君って勇者だよね? 案外いい人なのかもしれない?

何だかちょっと苦手意識が薄まっていく。

それが伝わったのか剣田君はこちらを見て、「やっと慣れてきたかよ」と言った。

1人で帰ると言う僕に「お前放っておくとまたこけそうだから」と剣田君が(半ば無理やり)ついてきてくれた。

2人で並んで歩くなんて、過去からじゃ考えられない事だ。

このタイミングならば聞けるかもしれないと思った僕は、気になっていた事を聞いてみた。

「ねえ、剣田君って、僕の事、魔王って呼ぶよね」

そういうと、「あ? 今更かよ」と剣田君が言う。

「って事はつまり、その、あの、えーと」言いにくい、過去に勇者と魔王の関係でしたよね、なんて。

そう葛藤していると剣田君があっさりと「だから、俺が勇者で魔王のお前を討伐したって話しだろ?」と言った。

「あ、うん、はい」

まさかこうもあっさり言われるとは、びっくりしていると、剣田君が立ち止まって真剣な顔になる。

剣田「この際だから言うけどさ」

「は、はい」

改まったような顔つきの剣田君に、何だかドキッと心臓が高鳴った。どうしてだろう。

剣田「お前の事、絶対俺のものにするから」もう離さねえ。

そう言って傘を捨てた剣田君が、僕を抱きしめる。

「え、あ、あれ? 剣田く、ん?」

背中に回された腕に一度ギュッと力を込められたかと思うと、すぐに解放された。

剣田「まぁ、こういう事だよ」

「どういう事だよ!」

思わずつっこむと、「いうじゃねーか」と剣田君が笑う。

何だかよく解らないけど、この世では過去とは違って仲良くなれそうだ。

「剣田君、僕たち親友になれる気がする」

思わずそういうと、剣田君が「そういう意味じゃねえんだけどな、」と呟いたけど、何の事だか解らない。

剣田「その内嫌でも解らせてやるよ」

剣田君が笑って、僕の腕をとった。

引っ張られてもう一度抱きしめられ、頬にキスをされる。

「は? 今? あ、え? キス?」

混乱している僕を放って、剣田君は「また明日な」と去っていく。

何だか、過去とは違った波乱の人生が幕開けしたようだ──。