【BL】【ブラコン】兄の嫉妬

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斉藤由紀:
高校生。兄の友介のことが好き。

斉藤友介:
高校生で由紀の兄。普段は穏やかで優しい。

吉井理絵:
由紀の友人。自身も自分の兄に惚れており、由紀とは「同士」と呼び合ってお互いの悩みを相談しあう。


いつも優しい友介兄に、僕は何もできないでいる。

「同士、大丈夫?」

由紀は友人の理絵に背中をぽんぽん叩かれた。それに軽い口調で由紀も返す。

「同士、ぎりぎりセーフであります」

最近、諦めに近い感情を由紀は兄の友介を見ると抱く。いや、最近は悟りを開いたのかもしれない! と自分で感心するくらい、感情をコントロールすることができるようになった。

先ほど友人の理絵と一緒に見かけた風景、つまり学校で兄が女子生徒と楽しそうに話している現場を見ても、もうトイレの個室に駆け込んで、やっぱり兄と同じ高校なんてやめりゃよかったと嗚咽を漏らすこともなくなった。

由紀がそんな激しい感情をコントロールできるようになったのは、

「今のはキツイね~」

「まあね~」

クラスメイトの吉井理絵と仲良くなってからだった。ちょっとふざけて「同士」と理絵は由紀のことを呼ぶ。そう、つまり理絵も自分の兄に惚れていた。

声を掛けて来てくれたのは理絵からで、3ヶ月前のある日たまたま2人残った教室で、そのものずばりこう尋ねられたのだ。

『斉藤君ってお兄ちゃんのこと好きなんでしょ?』

一瞬誤魔化そうとしたが、理絵の表情に嫌悪感が浮かんでいないことをみて、由紀は思い切って幼少から抱え込んでいた自分の想いをそのとき全て爆発させた。それを聞き終えた後、理絵はこう言ってくれたのだ。

『じゃあ、次は私の話・・・私とお兄ちゃんの話聞いてもらうよ! ね!』

それ以来、2人はすっかり仲良くなって打ち解けた。今まで恋愛トークなんてしたくてもできなかったのだから、本当に由紀は理絵に感謝している。それは理絵も同じことのようだった。理絵の兄はここの高校の生徒ではないが、それはそれで不安になるという。今、何をしているのか、どんな女と話しているのか・・・考えているだけできりがないと。

「私、由紀に思い切って話しかけて良かったぁ」

昼休み、学食で一緒にご飯を食べていると理絵はポツリとこういった。

「改めてどうしたんだよ」

「だって話す相手がいるだけで全然違うじゃん?私、中学時代は打ち明ける相手間違えて大変だったから」

「同士、暗い過去は忘れるであります」

「同士、しかし過去は消せないものであります」

ゲラゲラ2人で笑いあう。そんな瞬間だけは、叶わぬ想いを引きずり続けていることを忘れられるからだ。

しかし良いことは続かないものだ。

由紀の心の平穏はある朝ガラガラ崩れて終わりを告げた。由紀は音楽部だから朝練というものがないが、兄の友介はバスケットボール部だからいつも朝早く出ていく。しかしそんな兄が、テスト期間中でもないというのに朝一緒に食卓についていたのだ。

「あら、友介今日、部活は?」

母も聞いていなかったようだ。もちろん、由紀も聞いていない。

「うん? あ、今日はないんだ。ごめん母さん、昨日言っておくの忘れちゃった」

由紀は心躍らせた。今日は友介兄と学校に行ける! と。

だが今朝の友介は由紀が何を話しかけてもあまり返事をしてくれず、ぼんやり微笑むだけだった。それで、もう行かないと、と登校にとても中途半端な時間に席を立った。

「あ、友介兄待ってよ、せっかくだから一緒に行こうよ」

しかし、友介は由紀の言葉に振り返りもせずこう言ったのだ。

「そんな、今更兄弟一緒に登校なんて恥ずかしいよ」

「由紀ちゃん・・・」

「ごめん、吉井、ちょっとしばらく泣かせて・・・」

屋上でさめざめとなく由紀を、理絵は背中をさすって慰めてくれた。今朝の出来事は一体何だったんだろう。友介は由紀にとっていつだって優しい兄だった。そういつだって。

「俺、今日家に帰りたくない」

「とりあえず、たまたまかもしれないじゃん。ちょっと風邪気味だったとか。だから、もう少し様子見てみたら?」

「そうだね・・・」

家に帰るのが恐ろしい。優しくて大好きな兄がいる家に。そんなこと思ったこともなかったが、これが現実なのだと先ほどから嫌という程実感させられる。

「ね、今日は夜どれだけ遅くなっても良いから! 何かあったら私に連絡して! メールでも電話でも!」

「うん、ありがとう・・・」

理絵の言葉に感謝しつつ、しかし由紀は恐怖を拭い去ることができなかった。

今朝の出来事は、どうか夢であって欲しい。

そう願って由紀は家に帰ったが現実とは残酷なものだ。夕食の最中も、友介の由紀に対する態度は今朝と同じまま。昨日まではにこにこ笑って由紀の話を聞いてくれたのに、やっぱりあまり返事もしてくれずぼんやりとしている。

それで、夕食を終えると直ぐに2階の自室に行ってしまった。流石の母も心配になったのか声をかけたが、友介の態度は曖昧なままだった。

「友介、どこか具合悪いの?」

「ううん、大丈夫だよ。今日はもう寝るね」

友介は母にだけそういって、由紀には何も言ってくれなかった。由紀はさらに暗澹(あんたん)とした気持ちになる。

「由紀、あんたお兄ちゃんとケンカしたの?」

「まさか・・・」

母の問いに、由紀はそういうのが精一杯だった。

由紀は夕食後、自室に駆け込み縋るように理絵に電話をした。

「もう何がなんだか・・・」

『由紀ちゃん、こういうときはしゃべったら良いよ! どんどん自分の気持ちしゃべって!』

そこで由紀は理絵に甘えてとりとめのない話をしまくった。理絵はうんうん聞いてくれる。それで、由紀もほっとする。

30分は話していただろうか。

ふいに、ドアをノックする音が聞こえた。しかもなんと、声の主は友介である。

「由紀、起きてる?」

「へ? 友介兄?」

驚いた由紀は、慌てて小声で理絵にこう告げる。

「ちょっと友介兄が部屋に来たから、切るね!」

『了解! なんかあったらまた電話してね!』

慌てて電話を切ると、由紀は返事をする。

「どうぞ、友介兄」

がちゃりとドアが開く。

「起きてたんだ」

と、友介。妙な会話だと由紀は思う。

「う、うん。だってまだ10時だし。友介兄こそ起きてたんだね。体の具合は大丈夫?」

「体なんてどこも悪くないよ」

友介は突き放すように言った。また由紀の胸にその言葉が突き刺さる。

いつでも穏やかな表情を崩さない友介が今日は無表情だ。その表情のまま、由紀に近づいてきた。

友介が近づいてきてくれるなんて、いつもならこんなに嬉しいことはない。だけれど今日は恐怖しかない。なぜなら友介がこんな表情になるのは怒っている、ということに他ならないからだ。だけれど滅多にない。以前はいつだっただろう? 忘れてしまった。それくらい前だ。

「ゆ、友介兄怒ってる?」

「別に怒ってなんてないよ」

由紀の勉強でも見てやろうと思ってさ、と友介はいって由紀の勉強机をのぞき込む。由紀は勉強なんかしていたわけではないから、机にはスマートフォンが1つ乗っかっているだけだ。

そのスマートフォンを友介が睨んだのを見て、由紀は、慌てて言った。

「ご、ごめん。友介兄。今俺電話してて・・・うるさかった?」

「別に」

友介はどっかりと由紀の勉強机の隣にあるベットに座る。

「なんか勉強分からないところ、ある?」

「え、あ・・・、う、うん! たくさんあるよ」

「あ、そう。じゃあ早く教科書だしなよ」

由紀は兄の恐ろしい態度に、もう言われるがままだ。慌ててカバンから数学Ⅰの教科書と筆箱、ノートを引っ張り出して机に広げた。

友介はあくまで不機嫌である。

「どこ?」

そんな友介に由紀は怯えるしかない。しかも今日の友介は教え方も半端なく怖かった。

「だから、そうじゃないって。何回言ったらわかるの?」

「ご、ごめん・・・」

どうしてこんなことになっているんだろう。由紀は分からなかった。理絵とも散々話し合ったが、何の理由も思い当たらない。

どうしたら良いんだろう・・・どうしたら・・・

そんな地獄のような時間が1時間は続いただろうか。ふいに、友介の表情が緩んだ。

それで、ぷるぷる震えている由紀にこういった。

「由紀ちゃん、ごめん」

「友介兄・・・?」

ふう、と大きなため息をついて友介はいつもの優しい笑みをその顔に湛えていた。だが、どこか寂しげである。

「本当に、ごめんね」

混乱して何も言えないでいる由紀に、友介はいう。

「・・・さっき誰と電話してたの?」

「え? 電話・・・? あ、友達だよ、同じクラスの・・・」

友介の表情はますます寂しそうになる。

「嘘ばっかり」

「嘘?」

本当に由紀は何が何だかわからない。

「友介兄、どうしたの? 今日の朝から・・・変、だよ・・・」

由紀の言葉に、友介は頷く。本当にそうだよね、と。それからこういった。

「ごめん、俺のこと・・・嫌いになっても良いから聞いて欲しいんだけど、」

「そんな! 俺が友介兄のこと嫌いになるなんて、」

その由紀の言葉を友介はさえぎった。

「由紀ちゃん、昨日学食で誰と一緒に居たの?」

「学食? ああ、同じクラスの吉井って子だよ」

その言葉に、また友介は聞き返す。

「そう、じゃあさっき電話してたのは?」

「え? あ・・・えっと、それも同じクラスの吉井で・・・」

友介はそれを聞いて、またさっと一瞬表情を変えた。だが、また次の瞬間には無理に笑ってこういう。

「彼女なんでしょ? どうして隠すんだよ。別に由紀ちゃんに彼女ができたって・・・」

友介の目から、涙がすうっと一筋こぼれた。

「ちゃんと教えてくれたら、心の準備ができて・・・受け入れられたのに・・・」

「・・・」

「いきなり2人でいるところ見せられて、今日だってずっと楽しそうに電話して・・・」

友介はそのままうつむく。兄の気持ちを聞いて、由紀は胸が熱くなるのを感じた。

気を緩めると、気絶してしまいそうだ。

「友介兄・・・これって夢じゃないよね?」

「え?」

顔をあげた兄に、由紀はいう。

「そ、その・・・勘違いじゃなければ、俺も友介兄の気持ちと同じというか・・・その、吉井は、その、吉井も実は自分のお兄ちゃんが好きで、それで仲良くなって・・・いつもお互い叶わない想いだねって、愚痴ってたから・・・」

馬鹿、どうして友介兄が一番好きなんだって言えないんだ、と由紀は自分の根性のなさに絶望する。

だけれど、友介にとっては由紀のその言葉で十分なようだった。呆気にとられたような表情はしていたが、その顔に赤みがさしている。

しばらくお互いを見つめ合っていた2人だったが、やがて気恥ずかしくなって、もごもごと言い訳じみた言い合いをした。

「由紀ちゃんは小さい頃からずっと俺にべったりだったのに、ちょっと前から急に大人びるから・・・」

「ゆ、友介兄だってちゃんと聞いてくれればいいのに今朝から俺に酷いことして・・・」

「学食で異性と2人なんて誤解しない方がおかしいでしょ、」

「そんなこといったら、友介兄だって昨日教室の前で女の人と楽しそうにしゃべってたじゃん!」

「あ、あれは・・・! 同じクラスで同じ委員会の子で・・・」

しかしやがてどちらともなく笑いだした。

友介が、由紀の頭を優しくなでてくれる。

「友介兄、これって夢じゃないよね?」

「夢だったら、困るよ」

「そうだよね・・・明日、同士・・・あ、吉井に報告しなきゃ!」

「ちょっと、仲良しし過ぎ禁止だからね!」

兄にこんなことを言ってもらえる日が来るとは思わなかった。由紀も涙がこぼれそうだった。明日理絵になんて言おう。きっと理絵も、泣きながら喜んでくれるに違いない。

理絵と2人でいるところを見たら、きっと兄はまた嫉妬するだろうが・・・兄に嫉妬してもらうのは気持ちいい。

―同士、次はきっと貴殿の番であります! 由紀は全力で応援するであります!

由紀はそう誓った。

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